道はどこまでも 米ロングトレイル挑戦記⑤

中継地点で思わず涙
(2018年9月19日~10月13日)
 

晩秋のトレイルからアダムズ山(左)を望む

  米国最後のワシントン州に入ると再び高山帯となり雨も多くなる。同州に入って5日目の朝、私の心は折れかかっていた。前日の雨で装備をぬらしたまま夜を過ごしたからだ。朝晩の冷え込みも厳しくなり、いつもはあっという間に明ける夜もこの日は時間が止まったように思えた。

 3829キロ地点のスノコルミーパスを過ぎると山は雪化粧し、寒さでリタイアするハイカーも出始めた。寒さと空腹は人を弱気にさせ、ずぶぬれで3942キロ地点の街レブンワースに到着した時には、安心から思わず涙が出てきた。

山頂付近にはすでに冬が迫ってきている

 先行するハイカーの話ではこの先さらに雪が多くなるらしい。苦渋の決断だが、今の装備で峠を越えるのは危険と判断し、雪深い区間を飛ばして歩くことにした。「自然が人間の都合など考えてくれない」ことは、半年間のトレイル生活で痛いほど学んだことだ。

 2018年10月13日夕方、国境を越えてゴールのカナダ・マニングパークに到着した。終わった感覚はなく、明日もまたトレイルが続いていくような気がする。それはトレイルが私の生活の一部になっていたからだろう。

米国とカナダの国境にあるモニュメント

 トレイルを踏破すること自体にそれほど大きな意味はないと思う。スタートとゴールはあくまで端点で、その間で経験したシンプルな生活が、今まで感じることのなかった思考や喜びを与えてくれたからだ。

 どこまでも続く道を振り返ると、半年分の汚れが染みこんだバックパックが、少し誇らしく思えた。

(終わり)
(3月17日掲載)