人と人とのつながりが希薄だといわれる今日、社会とのつながりの弱さが引き金となり、さまざまな社会問題が起こっています。
地域の支え合いの在り方を改めて考え、「見守り役」である民生児童委員をテーマに連載された「ゆらぐ砦」は、岩手日報紙面で2019年1月から6月まで掲載されました。
1917(大正6)年、岡山県で貧困救済を出発点に始まった民生委員制度は制度創設1世紀を迎え、業務の増加、担い手不足、委員の高齢化、住民とのプライバシーの壁など、様々な問題に直面しています。紙面でも大きな反響を呼んだ「ゆらぐ砦」全6部、計34回の連載を電子書籍にまとめました。
- はじめにより抜粋 -
孤独死、児童虐待、引きこもり。社会とのつながりの弱さが引き金となるこれらの社会問題は、私たちのすぐ近くで起きている。東日本大震災で生活環境が激変し、コミュニティーの再構築が途上にある被災地はなおさらだ。
人と人とのつながりが希薄だといわれる今日、地域の支え合いの在り方を改めて考えたい‐。取材の出発点として着目したのが、住民の一人として社会的弱者の見守り役となっている民生児童委員だった。
取材を進める中で見えてきたのは、地域の孤立をすくい上げる「砦」としての重要性の高まりと同時に、「相談のつなぎ役」という本来の役割を超えた活動内容の増大と重圧だった。住民が抱える生活課題の複雑・多様化に加え、行政から依頼される業務も多岐にわたる。活動の負担感はなり手不足に拍車を掛け、行政の個人情報保護法制への過剰反応や住民のプライバシー意識の高まりが訪問活動を一層困難にする。「砦」は確実に、揺らぎ始めていた。
活動の内容について秘密を守る義務がある民生委員の本来の活動は、住民にはあまり知られていない。電子書籍化を機に、地域福祉の担い手として尽力する存在に目が向き、よりよい社会の在り方について議論が深まるきっかけになることを期待している。取材に協力していただいた県内の民生児童委員の皆さんや社会福祉協議会の関係者らすべての人に感謝したい。民生委員だけに負担を負わせず、孤立感を抱える住民のことを我が事として捉える県土を目指す。私たちの一番の願いだ。
2020年5月
岩手日報社報道部 八重樫和孝、金野訓子
■本書の構成
当書籍は全6部、計34回の連載のほか、各テーマの理解をより深める「特集」や、県内の全民生児童委員約3700人を対象に実施したアンケート結果も掲載。県や市町村の民生委員児童委員協議会の協力を得て行ったこのアンケートは、本紙の調査の中でも最大規模となっています。
1世紀前に制度の原点となる「済世顧問制度」を生み出した岡山県に足を運んだほか、終盤には「社会的孤立」が引き起こした首都圏の事件現場の緊急ルポも入れ、幅広く制度の限界に警鐘を鳴らしています。
本紙で「イワさんとニッポちゃん」を連載する雫石町在住の漫画家そのだつくしさんともコラボ。次の100年に向けた民生委員制度やコミュニティーの在り方をまとめた提言と合わせて、誰もが孤立しないで暮らせる社会の在り方を考えます。
さらに、電子版では読みやすさを重視し、全ての連載を見開きページで構成し、紙面で掲載された写真や、地図などの図版は全て鮮明なカラーで再編集しました。紙面ですでに読まれた方でも、新鮮なイメージで読んでいただけます。
※ 見開き構成は、パソコンでのビューアーで閲覧できます。スマートフォンでは、単ページごとの閲覧となります。
※ 本文で登場する人物の年齢、地名の所在地などは、連載当時のまま掲載しています。


- 書誌情報 -
○ 書名:ゆらぐ砦
○ 発行:岩手日報社
○ 発行年月日:2020年5月31日
○ 定価:930円(税込み)
○ 体裁:電子版、オールカラー、104ページ
○ 目次:
プロローグ ー制度創設1世紀ー
第1部 使命感(連載5回)
第2部 防災の責務(連載5回)
第3部 子どもの未来(連載6回)
第4部 制度の限界(連載6回)
第5部 先進地の模索(連載5回)
第6部 つながりの再生(連載6回)
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