東日本大震災後の避難生活を疑似体験し、南海トラフ巨大地震などの災害対応を考える「いざ・トレin陸前高田~あの日のあの場所で体験する~」(同実行委主催)は2月14~16日、震災後に避難所だった陸前高田市高田町の市スポーツドームなどで初開催された。全国の自治体関係者ら約60人が参加し、報道関係者約30人の記者研修も兼ねて実施。暗闇の中で救援を信じ励まし合った震災の被災者に思いを寄せ、備えの大切さを再確認した。

 14日は同ドームの避難所運営に携わった市体育協会事務局長の菅野修さん(64)が当時の状況や避難所内のルール作りなどを紹介。午後2時46分の緊急地震速報を合図に災害対応訓練をスタートし、早速カレンダーの裏に各自名前を記入して避難者名簿を作成した。

 疑似体験はライフラインが止まったと想定し、一斗缶に道路の側溝のふたのグレーチングを載せて簡易こんろを製作。ランタンの明かりを頼りに地元企業が支援物資として提供したチキンナゲットなどをあぶり、塩を振ってかじった。夜はドーム内にテントを設営し、寝袋で一夜を明かした。未明の陸前高田の最低気温は0・5度。地べたからしみる冷気に苦しみ、震えて眠った。

 15日は災害時に避難所などで発生しがちな多様な問題にどう対応するか、判断力を養う災害対応クロスロードゲームを体験。昼には同市地域女性団体協議会と陸上自衛隊が炊き出しを行い、豚汁を提供した。参加者は温かい食事のありがたさに感激し、震災後の支援に改めて感謝した。

 16日は同市米崎町の陸前高田グローバルキャンパスで分科会を開き、3班に分かれて議論。震災時に遺体安置所だった同キャンパス体育館で犠牲者に黙とうをささげて閉会した。

やれることをやるだけだった  
菅野修さん(避難所を運営)

 地震が起きたとき、経営するスポーツ用品店にいた私は、すぐに「津波が来る」と判断し、従業員を市体育協会が管理する市スポーツドームに避難させた。指定避難所ではないが、最大200人ぐらい避難した。ブルーシートすらなく、市役所とも連絡が取れない中で避難所運営が始まった。

 当時はかなり寒かった。建設会社の人の車にあった発電機をフィットネスルームのヒーターにつなぎ、お年寄りや子どもはそこで過ごした。私たちは一斗缶でまきを燃やして暖をとった。車で過ごす人もいた。名簿があった方がよいと思い、ポスターの裏に名前や住所を書いてもらった。

 暗くなると、車のヘッドライトで施設内を照らし、子どもやお年寄りが不安にならないようにした。 アマタケの配送車がチキンナゲットと手羽先を積んでいたので提供してもらった。側溝のふたのグレーチングを焼き網にして焼いた。冷凍なので焼くと黒こげになったが、おなかが空いていたので皆で食べた。

 翌朝、まちの状況を見て、もうダメだと思った。昼に全員分ではないが炊き出しのおにぎりが届いた。

 約2週間後に43張りのテントが届き、プライバシーを守れるようになった。テントはドームの中央を空けて張り、必ず中央で食事をとるようにした。引きこもりを防ぎ、健康チェックもできると思った。食事は定時に届くわけではなく、食べられない人もいたので、2日間だけ1日2食で過ごして1食分のストックを作り出し、決まった時間に食べられるように工夫した。

 警備班や昼食班をつくり、マスコミの取材ルールも作った。県内外の友人の力も借りてシャワーやお風呂を使えるようにした。さまざまな工夫で環境を整えたが、自分たちでやれることをやるだけだった。

 菅野 修(かんの・おさむ)さん  陸前高田市体育協会事務局長。ササキスポーツ社長。指定避難所ではない陸前高田市スポーツドームで避難所運営に携わり、指導力を発揮。全国の支援を得て避難所独自で生活できる体制を構築した。64歳。

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感じる 学ぶ 助け合う
 避難所生活疑似体験

 東日本大震災の経験を基に避難生活を疑似体験する「いざ・トレ」では、ヤマト運輸が寝袋などの支援物資を順次運送。花王が少量の水で洗濯できる洗剤を提供するなど協賛企業が参加者をサポートした。14日夜は大雨となり雨音が恐ろしく響いたが、震災時のIBC岩手放送を再放送したラジオの音が参加者の不安を和らげた。厳しい冷えをしのぐ段ボール製の簡易ベッドや、光ケーブルが切断されても携帯電話などの通信を確保する移動基地局車、ガソリンと液化石油ガス(LPG)を使い長距離走行可能なバイフューエル防災車両などのデモンストレーションも行い、全国の防災関係者らが最新の知識を得た。

一斗缶の上に側溝のふたのグレーチングをのせ、わずかな明かりで支援物資の肉などを焼く参加者。冷凍食品は焦げてしまったが、温かい食べ物がありがたかった
陸前高田市地域女性団体協議会と陸上自衛隊による炊き出し訓練。温かい豚汁とおにぎりが参加者の冷えた体に染みわたった
ヤマト運輸が届けた支援物資のテントを搬入する参加者
鎌田段ボール工業が提供した段ボールベッドを組み立てる参加者。段ボールのテーブルや椅子もあり、避難体験は一気に快適になった
北良は、液化石油ガス(LPG)や空気中の水分から飲料水をつくり出す製水機を搭載した防災対応仕様車などを紹介。熊本地震ではガソリンとLPGの両方で走れるバイフューエルカーでいわて感染制御支援チーム(ICAT)を被災地へ運んだ
ドンドンアップが支援物資として提供した衣類を仕分け。避難者を班分けし、下見の順番を毎日変えることで公平な配分を図った
移動基地局車など災害時の通信体制について紹介したNTTドコモ
給水車からペットボトルへ飲料水を注ぐ。東日本大震災では関西地方など全国の給水車が被災地を回った
子どもにも分かりやすく/停電を考え紙で保存
陸前高田市の避難所運営マニュアル

 陸前高田市防災課の中村吉雄課長補佐は同市の避難所運営マニュアルを紹介。市内の仮設住宅で聞き取り調査を行い、被災した住民の目線で作成した。「子どもたちにも分かるように書いてほしい」と要望を受け、イラストを入れて見やすくした。

 事前対策、初動対応、運営の3章で構成し、避難者名簿などの様式も付けた。停電するとデータは役に立たないので紙で保存する。

 避難所は地域住民による自主運営が基本で、自ら運営者の一員として動く意識が大事だ。被災者ばかりだと大変なので、被災していない地域の人も運営に携わってほしい。

 全国の自治体からの応援物資への対応や仮設住宅の用地、資材の確保などは公助でしかできず、役所が避難所運営に回ればそれらがストップする。自助、共助が公助をもり立てれば早期復興につながる。それぞれの役割、すみ分けをしっかり決めておいてほしい。

 東日本大震災では市内の避難者が1万人を超えた。人口の半分近くになり、指定外の避難所に多くの人が押し寄せた。物資の配給などで差が出たことから、対策本部に情報を伝える仕組みも必要になる。

 避難所運営では、スタンダードルールをそのまま自分のまちに持ち込むのではなく、自分のまちにどう生かせるかを考えてほしい。

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教訓と課題は道しるべ 
-最終日分科会から

 最終日の16日は、陸前高田市米崎町の陸前高田グローバルキャンパスで分科会を行った。岩手大の五味壮平教授と福留邦洋教授、同市の一般社団法人マルゴト陸前高田の越戸浩貴理事が講義した。記者セミナーでは震災時に避難者名簿を作成した同市の市民や岩手日報社の記者が講演した。

「思民集うまち」訴え 
岩手大・五味壮平教授

 「拡大コミュニティー」とは、特定地域の住民と、その地域に強い関心と関わる意欲を持つ人からなる広域的なコミュニティーを指す。大災害を経験した地域を長期間支え続ける仕組みとして考えられている。

 五味教授は同大の陸前高田市での実践例として、学生がまちの情報誌などを作成した岩大E_code(イーコード)プロジェクトや、昨年4月に立教大と共同で開設した陸前高田グローバルキャンパスの取り組みなどを紹介した。

 拡大コミュニティーの考え方は、同市の「まち・ひと・しごと総合戦略」に盛り込まれ、具体化・制度化を検討中。「陸前高田がこの地域に関心と愛着を持った『思民(しみん)』が集うまちになるとよいのではないか。10~20年という長い期間で関わり続けてもらう仕組みが必要だ」と強調した。

「話し相手」どう確保 
岩手大・福留邦洋教授

 岩手大地域防災研究センターは、東日本大震災後の2012年に工学部付属組織から全学組織に移行。災害に強い「施設」「まち」「ひと」づくりを柱に据え、自然解析など災害メカニズムの研究、高台移転などの都市計画、防災リーダー養成講座など、幅広い分野で活動している。

 福留教授は阪神大震災や新潟県中越地震の研究から、今後の被災地の課題を指摘。「新潟で行った災害公営住宅入居3年後の調査で、『話し相手がいない』と感じる高齢者が25%いることが分かった。東日本大震災でも同様のことが起こり得る」と話した。

 さらに「災害公営住宅は入居時点で高齢化率が高く、10~20年後には団地内だけでコミュニティーを維持するのは困難になる。公営住宅の入居者と周辺既存自治会との関係性をどう構築するかが課題になるだろう」と提言した。

交流へ「学びは資源」 
マルゴト陸前高田・越戸浩貴理事

 越戸理事は久慈市出身で、岩手大大学院生のときに通い続けた陸前高田市へ2013年に移住。交流人口の増加を通してまちの継続的な活性化を目指すマルゴト陸前高田や、人を生かしてポジティブな過疎地をつくる高田暮舎(くらししゃ)の活動に取り組んでいる。

 同市の強みを「このまちの人の経験、ゼロからのまちづくりが資源になる」と分析し「学び」を持ち帰ってもらう交流事業を展開。研修や教育旅行などの受け入れ数は右肩上がりで増えている。地域住民との心のふれあいが魅力の民泊は16年から本格化し、協力は市内200世帯に広がった。

 今後の移住定住につなげていくため、地域とより深い交流を持つ「関係人口」をキーワードに挙げ、「2週間地域に入り込むフィールドワーク、手仕事・職人を題材にした体験プログラムなどでリピーターを増やしたい」と語った。

命守る 報道の使命 
記者セミナー

 記者セミナーの分科会では、東日本大震災時に陸前高田市高田町の和野会館で避難者名簿を作成した千葉浩一さん(75)と熊谷明美さん(56)が講演。福井県で今月発生した豪雪を現地で取材した福井新聞社社会部の杉本拓磨記者(27)も緊急リポートし、全国の記者が命を守る報道を考えた。

 千葉さんと熊谷さんは地域外からも多くの避難者が訪れる中、実名を公表することで安否確認が円滑に進んだ様子を紹介。健康状況の把握など避難所運営にも効果があったと振り返った。

 参加者は実名公表の公益と個人情報保護の両立などについて議論を深めた。

 杉本記者は国道8号で車約1500台が立ち往生し、死者も出た豪雪被害の取材状況を報告。備えの必要性を訴えた。

 岩手日報社の記者3人は災害と匿名社会、被災地の今、犠牲者の行動記録について講演した。 

人とつながる 
花王の被災地対応

 花王の松本彰ファブリック&ホームケア事業企画部長は、東日本大震災後の同社の対応について講演。

 同社は震災後、政府の要請でおむつや洗剤などの緊急救援物資を提供したが、東北の販売部門の社員が避難所に行くと、洗濯機はあるのに洗剤が届いていない地域があった。物資の提供数は業界内で取り決めがあったが「洗剤を送ってほしい」という社員の切実な声に追加提供を決めた。

 同社は震災を教訓に生活必需品の2工場生産や緊急時の出荷判断即日化など、社内の仕組みも見直した。

 2012年からは「顔の見える活動をしよう」と、岩手日報社など被災3県の新聞社とスマイルとうほくプロジェクトを展開。花植えや仮設住宅での手洗い教室などを行っている。東北を訪れた花王社員は1300人を超え、ほかにも約3千人が支援に関わった。

 松本部長は「社員が東北を『人ごと』ではなく『自分のこと』として受け止めるようになった。人の役に立つこと、社会の役に立つこと、人とつながる大切さを、私たちは東北の人たちに教えていただいている」と活動の意義を強調した。 

-参加者ひとこと-
<当時の苦労を感じた>

 東北福祉大3年
 菅原 優人(ひろと)さん(21)

 奥州市出身で、震災時は中学2年だった。当時は何もできなかったので、当時のことや防災を学べると思い参加した。寝袋もテントもない状態でここに避難した人たちは苦労したと思う。菅野さんのリーダーシップと豊富な人脈が手厚い支援につながったことが分かった。教員を目指しており、子どもたちにどう防災を伝えていくか考えたい。

<防寒対策 重要さ痛感>

 名古屋市防災危機管理局
 繁野 彰宏さん(35)

 名古屋市は南海トラフ巨大地震で大きな被害が想定されている。今回得た教訓を地元での訓練に生かし、市民が防災や減災を考える機会を増やしたい。寝袋で過ごした一夜はとても寒く、従来あまり重視してこなかった防寒対策の必要性を痛感した。現在市民に3日分の食料や水の備蓄を呼びかけているが、防寒具の備蓄も啓発していきたい。 

<寄り添った支援する>

 県復興局復興推進課
 高田 佳奈江さん(25)

 福井県から応援職員として来ている。夜は寒くて何度も目が覚めた。被災者は心にショックを受け体も疲れていたのにこうした環境で過ごさざるを得ず、眠れなかったと思う。菅野修さんの避難所運営は、健康チェックを兼ねてドーム中央で食事を取ることを最初に決めたと聞き驚いた。この経験を福井に持ち帰り、寄り添った支援に生かす。

<今後の防災に生かす>

 徳島県 看護師
 森 裕美さん(56)

 熊本地震の被災地に災害支援ナースとして派遣されたが、宿泊施設で眠り、食事も心配なかった。被災者の身になって避難所生活を感じたいと思い参加した。食事も寝る所も寒さも、1泊2日でゴールが見えていたから頑張れたが、被災した人たちは何日続くか先が見えず大変だったと思う。貴重な体験を持ち帰り、今後の防災に生かしたい。

主催:災害対応トレーニングキャンプin陸前高田実行委員会(陸前高田市、岩手大学地域防災研究センター、陸前高田グローバルキャンパス、岩手日報社)

協賛:花王株式会社 ヤマト運輸株式会社岩手主管支店

協力:陸前高田市地域女性団体協議会 陸上自衛隊岩手駐屯地 一般社団法人マルゴト陸前高田 株式会社NTTドコモ東北支社 株式会社ドコモCS東北岩手支店 株式会社アマタケ 鎌田段ボール工業株式会社 白石食品工業株式会社 北良株式会社 みちのくコカ・コーラボトリング株式会社 株式会社IBC岩手放送 株式会社フロムいわて 株式会社ドンドンアップ(順不同) 

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