津波でねじれた鉄柱や、波に洗われる巨大な津波石。過去の大災害の痕跡を伝える災害遺構は、復興が進み被災の記憶が薄れた後も、自然の強大な力と命を守る教訓を雄弁に物語る。「碑の記憶~遺構編」では、悲劇を繰り返さぬよう願う住民の思いとともに、各地の災害遺構を紹介する。

津波が残した「希望」

岩泉町小本地区・一本松

東日本大震災の津波に耐えた「未来につなぐ希望の松」。周囲は防潮林復活に向けて盛り土、植林された(岩手日報社小型無人機で撮影)
 岩泉町の小本地域は、同町を西から東へ流れる小本川の河口に近く、磯漁業やサケ漁などが盛んに行われてきた。南部の茂師(もし)海岸周辺には中生代白亜紀の地層があり、国内で初めて恐竜の化石「モシリュウ」が見つかった場として知られる。
岩泉町小本地区・一本松
 
 津波の常襲地域でもあり、県昭和震災誌や同町などによると、1896(明治29)年の三陸津波では旧小本村で367人が死亡し家屋330戸が流失。1933(昭和8)年の三陸津波では同村で108人が犠牲になり、家屋75戸が流失する大きな被害を受けた。
 2度の津波で海に面する須賀集落は壊滅的な被害を受け、内陸部への移転が進んだとされる。
 川をさかのぼる津波から平地を守ろうと、全長221メートルと国内でも有数の規模を誇る小本川水門が約40年かけて整備された。
 しかし、2011年の東日本大震災では水門や防潮堤を乗り越えて津波が襲来。小本地区で3人が犠牲になり、家屋177棟が全壊した。漁業関連でも登録船舶292隻中266隻が被災したほか、養殖施設や定置網が損傷し、なりわいに打撃を与えた。
防潮林の再生が進む小本川河口付近(岩手日報社小型無人機で撮影)

伝承のシンボル期待

 1933(昭和8)年の三陸大津波で大きな被害を受けた岩泉町の小本地区。潮風や霧から農地を守るため、35(同10)年に県が被災した集落の土地を取得し、防潮林造成事業を始めた。
 海沿いの約2・4ヘクタールの松林は夏に小学校の行事でキャンプやスポーツが行われるなど、住民に親しまれていたが、2011年の東日本大震災で姿を消した。
 震災直後数本が残っていた松林はがれき置き場となり、保存処置は施されなかった。塩害などで徐々に枯死が進み、15年ごろ1本だけになったが、潮風や台風をものともせず18メートルに成長し、今もたくましくそびえ立っている。
 住民から防潮林の復旧を求める声が高まり、県は14年、復旧に着手。植林したクロマツを根付かせるため約3メートル盛り土し、住民と協力して17年までに約1万本の植栽を終えた。
 震災前の松林の姿を取り戻すには50年以上がかかるとされる。その間、残り1本となった松を残し、震災伝承に役立てようと、20年8月に小本地域振興協議会が名称を募集。地域住民が寄せた案の中から、田村千美(ちはる)さん(小本中1年)の「未来につなぐ希望の松」が採用された。
 震災当時3歳だった田村さんは津波で自宅が全壊。引っ越し後も元の自宅の近くにあった松を見に訪れ「津波を耐え抜いた力を感じ、自分も頑張ろうと勇気をもらった」と振り返る。
 同町は一本松そばの道路沿いに案内板を設置し、震災から10年となる3月11日に公開する。田村さんは「再び前を向いて一歩ずつ歩いていけるようにという願いを込めた。震災を忘れず、知ってもらえるきっかけになってほしい」と希望を託す。
被災前の防潮林。散策やキャンプで自然と触れ合える場として親しまれていた(県提供)

防潮林の復活支える

「住民も協力して防潮林を育てていきたい」と語る竹花敏明会長
岩泉町小本
小本地域振興協議会 竹花敏明会長(76)


 東日本大震災前に三陸鉄道小本駅から防潮林まで歩き、1933(昭和8)年の三陸大津波の被害を伝える石碑や小本川の水門を巡るハイキングツアーを企画していた。
 当時は実現しなかったが、地域の災害の歴史を知る「学ぶ防災」の原型に近い。三陸ジオパークやみちのく潮風トレイルの環境も生かしながら、震災を知らない子どもや観光客向けに一本松を遺構の一つとして教訓の伝承に役立てたい。
 小本地域は津波のほかに台風の被害も大きかった。備えを万全にしても実際の災害時にはパニックになることも予想される。自然と共生する知恵を伝え、早期の避難行動を実現することが課題だ。
 松林が無いとやませ(北東風)が入ってくるので、防潮林復活は住民の願いだった。成長するまで下草刈りなどの手入れが必要なので、住民に呼び掛けて手伝っていきたい。

2021年04月11日 公開
[2021年01月15日 岩手日報掲載]

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岩泉町小本地区・一本松

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