津波でねじれた鉄柱や、波に洗われる巨大な津波石。過去の大災害の痕跡を伝える災害遺構は、復興が進み被災の記憶が薄れた後も、自然の強大な力と命を守る教訓を雄弁に物語る。「碑の記憶~遺構編」では、悲劇を繰り返さぬよう願う住民の思いとともに、各地の災害遺構を紹介する。

津波常襲 教訓つなぐ

釜石市鵜住居町・避難標識

「釜石の出来事」の避難ルートにたたずむ標識。津波に襲われて傾き、間一髪で助かった子どもたちの行動を伝えている=釜石市鵜住居町
 釜石市鵜住居(うのすまい)町周辺は、何度も大津波に襲われてきた津波常襲地だ。
 市郷土資料館によると、1896(明治29)年の三陸大海嘯(かいしょう)で、当時の鵜住居村は1028人が死亡。発生した6月15日は旧暦の端午の節句で、お祝いをしていた家が多かったほか、地震が最大震度2または3程度と小さかったため逃げ遅れにつながったとされる。
釜石市鵜住居町・避難標識
 
 一方1933(昭和8)年の大津波では、同村の犠牲者は3人だった。釜石市誌はこの災害を「明治29年の痛手が人から人へと伝えられ、何をおいても助かること、この心構えが人命の損傷を最小限にくいとめた(抜粋)」と分析する。
 2011年3月11日に再び三陸を襲った東日本大震災。鵜住居地区の死者・行方不明者は580人に上り、市内の犠牲者のおよそ半数がこの地区の住民だった。防災教育の成果で小中学生が率先避難した一方、地域の防災センターに避難した大勢が亡くなった。
 昨年開催されたラグビーワールドカップで復興を世界に発信した鵜住居。まちが新しくなり、世代が替わっても、教訓をつなぐため地域一体で模索を続ける。
現在の釜石市鵜住居町の街並み。子どもたちは右側の道を奥から手前に向けて逃げた(岩手日報小型無人機で撮影)

想定外考慮の重要性

 釜石市鵜住居(うのすまい)町は、震災で同市最大の被害を受けた。鵜住居小と釜石東中の子どもたちが日頃の防災教育の成果で高台に避難した「釜石の出来事」が脚光を浴びた半面、多くの尊い命が奪われた。
 震災から9年8カ月が過ぎてもなお、あの日の教訓を強く発信する鵜住居地区。児童生徒が避難したルートには、「津波避難所 農協集配センター 350メートル」と記された標識が、津波に押され傾いたままの姿でひっそりとたたずむ。
 この標識は、子どもたちが訓練通り避難したグループホーム「ございしょの里」よりも内陸側にある。子どもたちがございしょの里にとどまっていたら、想定をはるかに超える大津波にのまれていた。
 だが子どもたちは、「農協集配センター」の跡地に建設されていた指定避難場所のやまざきデイサービスまで避難し、さらに高台へ駆け上がった。学校で教わった通り「想定にとらわれず、最善を尽くした」。津波は最終的にデイサービスの目前まで押し寄せた。
 やまざきデイサービスを経営する山崎忠男さん(66)は「釜石の出来事は、普段の行いの重要性を感じさせる。震災後は施設利用者を車で送迎する際に必ずラジオをつけ、地震に備えている」と話す。学校の防災教育は、地域住民の意識向上にもつながった。
 同地区に昨年、震災を伝承する「いのちをつなぐ未来館」が整備された。市は防災プログラムに活用しようと、標識の保存を決定。意識しなければ目に留まらないが、未来に教訓をつなぐ重要な役割を担うこの地で「想定にとらわれない」ことの大切さを伝える。
【2011年3月】津波でがれきが散乱した釜石市鵜住居町

「語れる人」 責任全う

「語れる人が語る」という言葉を胸に刻み、教訓を伝える川崎杏樹さん
釜石市鵜住居町
いのちをつなぐ未来館語り部 川崎杏樹(あき)さん(24)

  
 釜石東中2年の時に東日本大震災が起きた。地震の直後、避難訓練で逃げていたグループホームへ行ったが、高さが足りないと思い、さらに上まで進んだ。
 あの時、一度避難した場所に不安を覚えたのは、訓練に一生懸命取り組んでいて、実感としてもっと高い場所に行かなければ危険だと思ったからだ。川を遡上(そじょう)する津波の原理も学んでいたため、鵜住居川から離れたいとも考えていた。
 4月に語り部となったが、自分より大変な思いをしている人がいて「私でいいのか」と負い目を感じたこともある。そんな時、津波で多くの児童が亡くなった宮城県石巻市の旧大川小の悲劇を伝えるガイドの言葉が胸に刺さった。「語れる人が語る。そうしないと皆が口を閉ざしてしまう」
 自分が防災教育に取り組んで良かったと思っているからこそ、災害に備えることの大切さを伝えたい。

2021年02月11日 公開
[2020年11月17日 岩手日報掲載]

遺構の場所を確認する

釜石市鵜住居町・避難標識

Google News Initiative(グーグル ニュース イニシアティブ) は Google がジャーナリズムの未来を切り開くため、報道業界とのコラボレーションを推進する取り組みです。世界各地で記者・編集者向けにデジタル技術の活用に関するワークショップやパートナーシッププログラムを展開しており、テクノロジーを最大限に活用して現代のジャーナリズムを巡る課題に取り組んでいます。

遺構周辺の状況が体感できるVR動画は、東日本大震災の月命日に合わせて毎月1回配信します。
VR動画は、IE(インターネット エクスプローラー)・Firefox(ファイア フォックス)ブラウザでは正常に再生できません。Microsoft Edge(マイクロソフト エッジ)・Google Chrome(グーグル クローム)などのブラウザで閲覧することをおすすめします。