津波でねじれた鉄柱や、波に洗われる巨大な津波石。過去の大災害の痕跡を伝える災害遺構は、復興が進み被災の記憶が薄れた後も、自然の強大な力と命を守る教訓を雄弁に物語る。「碑の記憶~遺構編」では、悲劇を繰り返さぬよう願う住民の思いとともに、各地の災害遺構を紹介する。

地域守る 貫いた先人

大船渡市三陸町・吉浜の津波石

吉浜の津波石を前に、発見した当時を懐かしむ枛木沢正雄さん(左)と木村正継さん=大船渡市三陸町
 大船渡市三陸町の吉浜(よしはま)地区は1896(明治29)年の三陸大津波で大きな被害を受けた。
 旧三陸町の町史によると約24メートルの津波が襲い、吉浜地区の人口の約2割に当たる204人が亡くなったとされる。地元の郷土史家木村正継さん(73)は、さらに多い約220人が犠牲になったとみている。
大船渡市三陸町・吉浜の津波石
 
 旧吉浜村長だった新沼武右衛門(ぶえもん)は、将来の津波被害を抑えようと高台移転を断行。現在の県道250号の高さに当たる標高約16メートルより高い土地に家屋を建てることを推奨した。さらに8代目村長の柏崎丑太郎(うしたろう)らが余った土地を活用した開田事業を進め、低地の田園風景は今に続いている。
 1933(昭和8)年の大津波での死者は17人にとどまり、柏崎村長はさらに高台移転を徹底。明治の大津波で定めた高さより低地には誰も住めなくなった。
 2011年の東日本大震災では、同地区を16・7メートルの大津波が襲ったが、犠牲者は1人、住宅流失は4戸だった。先代たちの教えのおかげで、他地区と比べ著しく被害が小さかった。
東日本大震災の津波に襲われた吉浜地区。防潮堤が崩れ、田園にがれきが交じる(木村正継さん提供)

猛威伝える象徴再興

 大船渡市三陸町吉浜(よしはま)の吉浜川河口付近の浜辺に、1933(昭和8)年の大津波で海から約200メートルも打ち上げられた津波石がある。縦3・7メートル、横3・1メートル、高さ2・1メートルで重さ約32トン。大津波の歴史を伝える貴重な遺構は、東日本大震災の大津波が来るまで地中に埋もれていた。
 昭和の大津波で被災した住民は津波の恐ろしさを伝えるため、打ち上げられた石に「津波記念石」と記し残していた。しかし月日とともに存在感が薄れ、70年代の道路整備に伴い埋められてしまっていた。
 約40年後、震災の大津波で防潮堤が倒壊し、整備した道路も濁流で流された。半月ほどして、がれきの中で津波石があった場所を探していた故柿崎門弥(もんや)さん=当時(81)=が津波石の一角を発見。友人の枛木沢(はのきざわ)正雄さん(91)や木村正継さん(73)らが協力して掘り進めると「津波」の文字が現れた。
 地元住民は「津波の恐ろしさを伝える象徴として残さなければいけない」と団結し、市と協力して遺構化を計画。石を引き上げて周囲を固めた。
 津波石は一躍脚光を浴びて大勢の観光客が訪れ、枛木沢さんはガイドとして約千人に教訓を伝えたが、震災から9年半が過ぎた今、見学者は減少。枛木沢さんは「昔のように、また津波石を忘れてしまってほしくないな」と寂しげに語る。
 風化を防ぐため、吉浜小の児童は防災学習で津波石を見学し、気仙地区交通安全協会吉浜分会(菊地正人分会長)は、吉浜に着任した教職員らに津波石碑などを紹介する町内巡りを行っている。
 木村さんは、昨年4月から月に1度行っているサロン活動で津波の歴史を語り継ぐ考え。「これから生まれてくる子どもにも、吉浜の津波の歴史を伝えたい」と力を込める。
 吉浜の防災を、震災を経験していない世代へ−。先人がつくってきた伝統を地域全体でつないでいく。
田園が広がる吉浜地区。住居は高台に立つ(岩手日報社小型無人機で撮影)

高台移転の思い継承

「防災学習の場としてどんどん活用してほしい」と願う新沼秀人会長
大船渡市三陸町吉浜(よしはま)
吉浜津波石保存会長 新沼秀人(ひでと)さん(68)


 吉浜の津波石の再興に取り組み、石で作ったベンチを設置したり、松を植えたりするなど、周りの環境づくりを行っている。地域住民の熱い思いや行動力に背中を押され一緒に活動を進め、津波石や東日本大震災後に建てた津波記憶石など、吉浜の津波に関する石碑をまとめたガイドブックを作った。
 2年前に九州の中学生に津波石のガイド役をしたことが思い出深い。あんなに遠くから生徒が来てくれて、とてもうれしかった。みちのく潮風トレイルのスポットになっていることから、県内外からたくさんの人に見てもらい、防災学習の場としてどんどん活用してほしい。
 初めて来た人は防潮堤の周りに田んぼが並んでいるのは不思議に思うだろうが、それが先人の知恵の象徴だ。地元を守ってきた高台移転への思いを絶やすことなく、次世代につなげていかねばならない。

2020年12月11日 公開
[2020年10月14日 岩手日報掲載]

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大船渡市三陸町・吉浜の津波石

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遺構周辺の状況が体感できるVR動画は、東日本大震災の月命日に合わせて毎月1回配信します。
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