津波でねじれた鉄柱や、波に洗われる巨大な津波石。過去の大災害の痕跡を伝える災害遺構は、復興が進み被災の記憶が薄れた後も、自然の強大な力と命を守る教訓を雄弁に物語る。「碑の記憶~遺構編」では、悲劇を繰り返さぬよう願う住民の思いとともに、各地の災害遺構を紹介する。

今泉地区 甚大な被害

陸前高田市・旧気仙中校舎

3階建ての屋上を越える津波が押し寄せた旧気仙中校舎
 陸前高田市気仙町は過去の津波で度重なる被害を受けてきた。1896(明治29)年の明治三陸大津波では旧気仙村の38戸が流失・全半壊し、42人が犠牲になった。1933(昭和8)年の昭和三陸大津波でも32人の尊い命が奪われた。
陸前高田市・旧気仙中校舎
 
 2011年の東日本大震災では13メートル超の大津波が襲来。市が14年にまとめた震災検証報告書によると、気仙町1081戸のうち8割超となる882戸が津波の被害に遭った。行方不明者や震災関連死を含む犠牲者は260人に上る。
 同市気仙町の今泉地区は藩制時代に気仙地方の政治の中心地として栄え、醸造業などの伝統的な産業が営まれてきた。震災では約600戸のうち592戸が全半壊する甚大な被害を受け、大規模な土地のかさ上げと高台造成による住宅再建が進められている。
 培ってきた歴史・文化を受け継ぎ、後世に継承するための取り組みも進む。市は流失した県指定文化財「旧吉田家住宅主屋」の復元を進め、24年度の完成を予定する。同市のまちづくり会社は発酵をテーマにした商業施設を整備し、にぎわい創出を図る。
被災前の気仙中校舎。左側が体育館(渡辺雅史さん提供)

来年度中に内部公開

 陸前高田市の気仙川河口近くにある旧気仙中校舎。震災で3階建ての屋上を越える大津波が押し寄せたが、生徒は高台に逃げて全員無事だった。市は津波の脅威と教訓を後世に伝える遺構として、来年度中に内部の一般公開を始める。
 2011年3月11日。気仙中は卒業式を控え、全校生徒約90人が体育館で合唱練習に励んでいた。同校教諭だった高田東中副校長の蒲生正光さん(56)は「避難マニュアルをうのみにせず、臨機応変に動くことの大切さを実感した」と当時を振り返る。
 地震発生後、生徒は教職員の指示で上履きのまま約200メートル先の第1避難場所に向かった。防災無線は3メートル、6メートルと津波の高さを伝えており「ここも危ない」と判断。約800メートル離れた第2避難場所の気仙小は低地を通るルートで危険とみて、近くの山側に避難した。
 途中の小高い場所から大津波が高田松原の松林をのみ込む様子が見えた。生徒らは山道から二日市公民館に移動し、一夜を明かした。数日後には欠席・早退を含む全生徒の無事が確認できた。
 的確な避難行動で犠牲者を出さなかった気仙中。市は県の意見も踏まえて「防災教育上での価値がある」とし、遺構としての保存を決定した。後に旧道の駅高田松原「タピック45」とともに、内部公開することも決めた。
 校舎は1981年完成で鉄筋コンクリート造り、延べ床面積2504平方メートル。遺構は市が所有・管理し、改修工事は委託を受けた県が本年度に実施する。来年度以降の内部公開はガイドが同行する形で行う方向だ。
 蒲生さんは「津波に限らず災害はどこでも起こり得る。見学する人に経験や教訓が伝わる場所となってほしい」と願う。
来年度中に内部公開が始まる旧気仙中校舎。中央奥が今泉地区のかさ上げ地(岩手日報社小型無人機で撮影)

日ごろの備えが大事

被災校舎の公開で「備えや訓練の大切さを知ってほしい」と願う熊谷葉月さん
陸前高田市竹駒町
東日本大震災津波伝承館「いわてTSUNAMIメモリアル」解説員・熊谷葉月さん(26)


 気仙中を卒業してから1年後、母校に津波が押し寄せた。被災した校舎を初めて近くで見たときは草が生い茂り、体育館もなくなっていた。見たことのない姿に驚き、複雑な気持ちになった。
 校舎は部活や友達と遊んだ思い出がいっぱい詰まっている。今は取り壊されず、残ってくれて良かったという思いも強い。
 4月から津波伝承館の解説員を務めており、何げない日常を奪い去ってしまう津波の脅威をしっかり伝えようと取り組んでいる。震災の記憶がない子どもたちにどう事実や教訓を伝えていくかも大事だ。
 避難訓練を毎年行ってきた気仙中の後輩たちが先生の指示にしっかり従い、全員が津波から助かったことを誇りに思う。海や気仙川河口の近くに学校があったという事実と、日ごろの備えや訓練の大切さを多くの人に知ってほしい。

2020年11月11日 公開
[2020年08月24日 岩手日報掲載]

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陸前高田市・旧気仙中校舎

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遺構周辺の状況が体感できるVR動画は、東日本大震災の月命日に合わせて毎月1回配信します。
VR動画は、IE(インターネット エクスプローラー)・Firefox(ファイア フォックス)ブラウザでは正常に再生できません。Microsoft Edge(マイクロソフト エッジ)・Google Chrome(グーグル クローム)などのブラウザで閲覧することをおすすめします。