津波でねじれた鉄柱や、波に洗われる巨大な津波石。過去の大災害の痕跡を伝える災害遺構は、復興が進み被災の記憶が薄れた後も、自然の強大な力と命を守る教訓を雄弁に物語る。「碑の記憶~遺構編」では、悲劇を繰り返さぬよう願う住民の思いとともに、各地の災害遺構を紹介する。

三度の津波襲来刻む

田野畑村島越・島越ふれあい公園

津波に耐えた宮沢賢治の詩碑と、破壊された三陸鉄道島越駅の階段が残る島越ふれあい公園=田野畑村島越
 田野畑村島越は田野畑村役場から南東に約5キロ離れた山あいの集落だ。漁業者も多く、東日本大震災前の島の越漁港ではワカメやサケ、ウニ、アワビなどの漁が盛んだった。
田野畑村島越・島越ふれあい公園
 
 三陸鉄道の島越駅から歩いてすぐの場所だった島越海水浴場には、夏になると他地域から子ども会や親子連れが訪れた。駅舎内には更衣室やシャワー室が整備されており、気軽に夏のレジャーを楽しめた。
 島越地区はこれまで何度も津波の被害を受けながら立ち直ってきた。県昭和震災誌や村史などによると、同村では1896(明治29)年の三陸大津波で最大26メートルもの波が襲来し、死者138人、34戸が流失した。
 1933(昭和8)年の三陸大津波では13メートルの津波が襲い、住家132戸が流失。村内で54人が犠牲になり、38人が行方不明になった。漁船も373隻が失われ、なりわいにも打撃を与えた。同地区では18人、家屋54戸が流された。
 そして2011年3月11日、再び地域を津波が襲った。到達高17・9メートルの波が地区中心部に流れ込み、121戸の家屋が流失、倒壊し、死者17人、行方不明者10人と大きな被害が出た。
東日本大震災で被災する前の三陸鉄道島越駅。右側には宮沢賢治の詩が刻まれた石碑が立つ(田野畑村提供)

脅威を後世に伝える

 田野畑村島越の島越ふれあい公園は、村が三陸鉄道の島越駅跡地に2017年に整備した公園だ。園内には津波に耐えた宮沢賢治の詩「発動機船 第二」を刻んだ石碑と、流失を免れた旧島越駅の階段の一部が展示され、津波の脅威をまざまざと感じさせる。
 宮沢賢治の作品に由来する「カルボナード」の愛称で親しまれていた島越駅は1984年の三陸鉄道開業以来、地域の足や観光の拠点として活躍してきた。だが、地域の玄関口を襲った震災の津波は海に臨む駅舎を直撃。駅前にあった詩碑は奇跡的に大きな破損もなくがれきに埋もれていたが、駅舎はホームへ続く階段数段を残して跡形もなく流された。
 津波の被害を受けた中心部は住居の高台移転が進み、地区住民も減ってしまった。だが、震災前の住民らで組織する島越自治親交会(鈴木隆昭会長)はつながりを絶やすまいと活動。居住地がそれぞれ変わった現在でも127世帯318人が参加し、夏祭りやどんと祭といった季節ごとのイベントや、草刈りなどをしながら交流を続けている。
 2017年には同公園に、明治と昭和の三陸大津波による被害規模や東日本大震災による地区内の犠牲者の氏名を刻んだ震災慰霊碑を建立。犠牲者を悼む灯籠流しなども行いながら、地元の被害を後世に伝えている。
 島越駅は14年に旧駅舎跡から約100メートル北の高台に再建された。震災について学ぶ人々が列車を利用して同公園を訪れ、石碑や遺構をじっと見つめていくという。鈴木会長(64)は「過去の被害を知り、地震が起きたら津波が来ると肝に銘じてほしい。公園の展示と石碑を見たことが有事の避難行動に結びつけばこれ以上のことはない」と心より願う。
震災を学ぶ人々が訪れる島越ふれあい公園(写真中央)。三陸鉄道島越駅(写真左)は高台に場所を移して再建された(岩手日報社小型無人機で撮影)

普段からの備え重要

「同じ被害を繰り返さないために経験を伝えていかなければならない」と誓う早野くみ子さん
田野畑村和野
島越駅長・早野くみ子さん(65)


 1997年ごろから三陸鉄道の島越駅長として切符販売や駅の管理を続けている。駅と線路、海と山が一望できる風景がこの地域だと感じてきたので、震災の津波で駅舎がなくなった時は本当に胸に穴があいたようだった。
 震災を学ぶために駅を訪れ、島越ふれあい公園の場所を尋ねてくる人も多い。昔の島越駅のホームに上る階段の一部はコンクリートがものすごい力で引きちぎられたことが一目で分かる。津波に限らず災害は油断できないことを知り、普段から備えておく重要性を感じてもらいたい。
 この公園の場所で起きたことを、先人の教えも含めて未来に伝えていかなければならない。海の近くにいるときに地震が来たらすぐに高い所に逃げる、という基本的だが一番重要なことを心に刻んでほしい。

2020年10月11日 公開
[2020年08月21日 岩手日報掲載]

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田野畑村島越・島越ふれあい公園

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遺構周辺の状況が体感できるVR動画は、東日本大震災の月命日に合わせて毎月1回配信します。
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