津波でねじれた鉄柱や、波に洗われる巨大な津波石。過去の大災害の痕跡を伝える災害遺構は、復興が進み被災の記憶が薄れた後も、自然の強大な力と命を守る教訓を雄弁に物語る。「碑の記憶~遺構編」では、悲劇を繰り返さぬよう願う住民の思いとともに、各地の災害遺構を紹介する。

鳴らされていた警鐘

大船渡市三陸町・ど根性ポプラ

悠然と立つど根性ポプラ。被災地に復興への勇気と希望を与え続ける
 大船渡市三陸町越喜来(おきらい)の浦浜地域は、1896(明治29)年と1933(昭和8)年の三陸大津波で大きな被害を受けた。
大船渡市三陸町・ど根性ポプラ
 
 三陸町史によると、明治の大津波の死者は122人と当時の人口の15%に上る。昭和の大津波による死者数は27人。明治、昭和ともに流失した家屋の割合は全体棟数の3割ほどだった。
 2011年3月11日の東日本大震災による犠牲者は越喜来地区全体で88人、住家被害戸数は533戸と甚大な被害に遭った。
 浦浜地域は震災前、越喜来小や住居が立ち並んでいた。三陸鉄道リアス線三陸駅から続く道沿いは商店街として住民に親しまれ、にぎわいの中心地だった。
 昭和の大津波後、一帯では復興事業が本格化した。中央部に道路を整備し、山側は飲料水を山から引くなどして集団移転用地を造成した。しかし、漁業者らは浜から離れた移転地を敬遠した。
 1989年発行の町史は「三陸町では、対津波施設に守られているとはいいながら、明らかに明治三陸地震津波、昭和三陸地震津波の浸水地域に住居が建設されている」と指摘。被災域への現地復帰が進んでいた状況を「我々(われわれ)は、同じ轍(てつ)を踏み始めてはいないか、再考の段階にある」と警鐘を鳴らしていた。
1980年ごろの越喜来小付近。学校の奥にはポプラの木がひっそりと立つ(菅生善正さん提供)

住民に再起への勇気

 大船渡市三陸町越喜来(おきらい)地区の浦浜地域は震災の津波に低地がのみ込まれ、住居や商店などの建物と尊い人命が奪われた。
 震災直後、一面にがれきが広がる中で1本のポプラが悠然と立っていた。商店の敷地内にあり、住民が気にも留めていなかった無名の存在。昭和の大津波以後に植樹され、津波に耐えた高さ約25メートルの巨木は人々に再起への勇気を与え、いつしか「ど根性ポプラ」と呼ばれるようになった。
 近所で食堂・秀(しゅ)っこねぇを営む金野秀子店主(55)は「ポプラは越喜来の希望。訪れた観光客も見て感動している。枯れずに生きて、残ってくれたシンボルがあるから私たちも頑張れる」と思いを寄せる。
 被災を経て集落の光景は大きく変わった。防災集団移転促進事業(防集)で住宅は高台に移転。被災した越喜来小も高地に移った。ポプラからほど近くの移転元地(被災跡地)にはイチゴ栽培施設も完成し、新産業が芽吹いた。
 2018年5月、ど根性ポプラを中心とした浦浜地区緑地広場(0・24ヘクタール、愛称・ど根性ポプラ広場)が完成。緑が広がる住民の憩いの場になった。
 広場の完成に併せ、地元の女性有志7人がポプラの会を結成。週に1度、草取りやトイレの清掃に当たっている。
 会員の葈沢(からむしざわ)容子さん(69)は「冬に落ちた葉が、春になって一気に若葉として出てくると『あぁ、いいな。まだ生きていこう』って思う」、片山啓予(ひろよ)さん(68)も「小さい子どもを安心して遊ばせられる場所ができて良かった」と愛着をにじませる。
 住民に勇気や希望、癒やしを与え続けるポプラ。何も語らない巨木だが、緑をたたえるその姿は、震災の記憶と力強い復興へのメッセージを送り続ける。
手前に広がるど根性ポプラ広場。浦浜側を挟んだ左手にはイチゴ栽培施設が整備された(岩手日報社小型無人機で撮影)

次の世代に託したい

「次の世代に管理を託したい」と話す片山月江さん
大船渡市三陸町越喜来
ポプラの会世話役・片山 月江さん(65)


 ど根性ポプラ広場がオープンする直前、トイレの管理を地域内でどうするか課題になった。委託先の都合がつかなくなり、女性同士7人のメンバーで話し合って会を立ち上げた。今は週に1度、清掃と草取りしている。メンバーは同年代で仲が良く、元気なうちは続けたい。
 広場では子どもたちが遊んだり、介護施設の利用者が訪れたりしている。駐車場に何台も車が並ぶこともあり、今ではみんなの憩いの場所になった。
 震災前、このあたりは商店や旅館、北里大の学生が住むアパートなどがあった。震災直後は周りに何にもなくて、がれきの中にポツンとポプラがあった。勇気と力をもらって、自然と「ど根性ポプラ」と呼ぶようになった。
 私たちも年を取っていくから、次の世代に託して自主的に管理してもらえればいい。

2020年09月11日 公開
[2020年06月17日 岩手日報掲載]

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大船渡市三陸町・ど根性ポプラ

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遺構周辺の状況が体感できるVR動画は、東日本大震災の月命日に合わせて毎月1回配信します。
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