津波でねじれた鉄柱や、波に洗われる巨大な津波石。過去の大災害の痕跡を伝える災害遺構は、復興が進み被災の記憶が薄れた後も、自然の強大な力と命を守る教訓を雄弁に物語る。「碑の記憶~遺構編」では、悲劇を繰り返さぬよう願う住民の思いとともに、各地の災害遺構を紹介する。

残骸が伝える破壊力

野田村野田・米田歩道橋

震災遺構の米田歩道橋に触れ、当時を振り返る道上文明さん=野田村野田
 野田村野田の米田(まいた)地区は十府ケ浦(とふがうら)海岸に面し、三方を山に囲まれた集落だ。同海岸は古くから人々に愛されてきた景勝地で、砂のオブジェを展示するのだ砂まつりが恒例行事だった。
野田村野田・米田歩道橋
 
 夏場は海水浴客で大いににぎわった同海岸。東日本大震災後は防潮堤工事が進み、米田地区も防潮堤に沿った国道45号のかさ上げ工事が行われている。
 海とともに歴史を刻む同村は、何度も津波の被害に遭ってきた。「見渡す限り屋材が散乱し樹木が流れ、あるはずもない石塊が転がり、一夜にして泥と塵芥(じんかい)の原となった」。野田民俗誌(村教委発行)には、1896(明治29)年の大津波の悲惨な状況が記されている。
 野田村誌によると、明治の大津波では村の人口2590人中261人が犠牲に。家屋も411戸中138戸が流失した。1933(昭和8)年の大津波でも、人口4264人中6人が亡くなった。
 いずれも船や作業場、地引き網や漁具などの被害が大きく、漁業者にとっては致命的だった。
 2011年、幾度も津波から立ち上がってきた同村を巨大な波がのみ込んだ。
東日本大震災前に十府ケ浦海岸で行われていたのだ砂まつり=2008年8月(野田村提供)

痛みを無駄にしない

 野田村の米田地区にある水門の近くには、東日本大震災で流失した歩道橋の一部が震災遺構として残っている。コンクリートの歩道橋をたやすく破壊する津波の脅威を、静かに、力強く伝える。
 「だだっ広い太平洋の水平線が一気に盛り上がった。忘れられない光景だ」。消防団員だった同村野田の建設業道上文明さん(61)は、巨大な揺れを感じて大急ぎで警戒活動に向かった。十府ケ浦海岸で遠巻きに海の様子を警戒していると、向こうから巨大な津波が来るのが見えた。
 急いで高台に逃げたが、津波はあっという間に集落を襲い、海近くの家々は跡形もなく消え去った。山肌はえぐられ、米田川に架かる米田歩道橋も破壊された。
 同村では東日本大震災で37人が亡くなった。米田地区で記録された村内の津波遡上(そじょう)最高到達点は37・8メートル。巨大な水の壁が、尊い命を奪っていった。
 道上さんは震災後、海が怖くなった。「港や海岸に行っても、水にはあまり触れたくない」。津波が残した消えない恐怖心。だが同時に、風化の恐ろしさも年々感じている。
 「震災後半年ほどは小さな地震でも皆すぐに避難していた。でも人間の心は慣れていってしまうものだからね」
 津波で壊れた歩道橋は後に一部が見つかり、村が震災遺構として2017年から展示している。近くには看板や駐車場、トイレがあり、訪れた人々はじっくりと遺構を眺めて触れることで、津波の恐ろしさを心に刻む。
 遺構の展示に携わった村地域整備課の藤森秀規総括主査は「命を守るため、将来にわたって震災の残した爪痕を伝え、引き継いでいきたい」と話す。
 風化にあらがい、傷ついた人々の痛みを決して無駄にしないため−。大きなコンクリートの塊は、津波を知らない世代へ教訓を確かに伝えていく。
野田村の十府ケ浦海岸。水門(写真右)近くに米田歩道橋の震災遺構がある(岩手日報社小型無人機で撮影)

日頃から避難計画を

「震災を風化させないため、遺構を残し伝えていかねばならない」と語る吉田照夫さん
野田村野田
村観光協会震災ガイド・吉田照夫さん(69)


 東日本大震災の様子を伝える震災ガイドを務めている。村にある高さ13・4メートルの大鳥居を案内し「これ以上の津波が来たんだ」と話すなど、疑似体験をしてもらうことを大切にしている。
 村内には米田歩道橋のほか、水門がひしゃげたあとやビルに家がぶつかったあとなど、震災の爪痕がいくつか残っている。震災を風化させないためにはそういった遺構を残し、次に伝えていかなくてはならない。
 子どもに伝えるためには、まず先生に知ってもらうことが大切。観光客のためだけでなく、住民に村のことを知ってもらう一助になりたいという思いだ。
 災害は忘れた頃にやって来るので、日頃から避難計画を練っておくことが大切。同じ地区であっても、河川や橋の位置などで避難方法は変わってくる。画一的なものではなく「地の利」を考えた、心のこもった避難計画を立てていくことが必要だ。

2020年08月11日 公開
[2020年06月16日 岩手日報掲載]

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野田村野田・米田歩道橋

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遺構周辺の状況が体感できるVR動画は、東日本大震災の月命日に合わせて毎月1回配信します。
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