津波でねじれた鉄柱や、波に洗われる巨大な津波石。過去の大災害の痕跡を伝える災害遺構は、復興が進み被災の記憶が薄れた後も、自然の強大な力と命を守る教訓を雄弁に物語る。「碑の記憶~遺構編」では、悲劇を繰り返さぬよう願う住民の思いとともに、各地の災害遺構を紹介する。

脅威伝える壊れた壁

宮古市崎山・震災メモリアルパーク中の浜

むき出しになった基礎と破壊されたコンクリート壁が津波の威力を物語る中の浜キャンプ場のトイレ・シャワー室=宮古市崎山
 宮古市崎山は谷地や高台に集落が広がり、1996年に国の史跡に指定された崎山貝塚などを有する地区だ。環境省の「日本の快水浴場百選」にも選ばれた女遊戸(おなつぺ)海水浴場は白い砂浜と松林の緑、海の群青のコントラストが美しく、夏は多くの海水浴客が訪れた。女遊戸自治会の前川寿文(としぶみ)会長(63)は「海水浴場の駐車場だけでは収まらず周辺施設にも車があふれるほどにぎわった」と当時を懐かしむ。
宮古市崎山・震災メモリアルパーク中の浜
 
 県昭和震災誌や同市などによると1896(明治29)年の三陸大津波は高さ8・5メートルの波によって旧崎山村で90人が死亡、155戸中100戸が全壊する大きな被害を生んだ。7・5メートルの波が襲った1933(昭和8)年の三陸大津波の時は、999人が生活していたが死者は出ず、住家1戸が流失するにとどまった。チリ地震津波の際は宮古湾で浸水高2メートルの津波を観測。宮古市で1人が行方不明となり、36戸が全壊した。

 東日本大震災では同市崎山で22人が亡くなり9人が行方不明、住家40戸が全壊した。海岸沿いにあった中の浜キャンプ場も被災し、現在は「震災メモリアルパーク中の浜」として津波の被害を伝えている。
震災前の中の浜キャンプ場。左奥のトイレ・シャワー室が今も遺構として残る(休暇村陸中宮古提供)

展望の丘 がれき使う

 宮古市崎山の中の浜キャンプ場は三陸鉄道一の渡駅から東に約2キロの海岸沿いにあったレジャー施設だ。海に面した山あいにフリーサイトと常設テントが広がり、夏には県内外の家族連れがシーカヤックや釣りを楽しんだ。震災時はシーズンオフで幸い利用者はいなかったが、津波は施設を全てのみ込み、キャンプ場内を流れる中の浜川沿いを約1キロ逆流した。
 被災した施設は2014年に一部を遺構として残し「震災メモリアルパーク中の浜」に生まれ変わった。土台がえぐられたトイレ・シャワー室、屋根が流失しコンクリート柱から鉄筋が飛び出した炊事棟、海面高17メートルの山中に引っ掛かった漁具が津波の脅威を伝える。がれきを使い造成した「展望の丘」から海を望むと、目線が津波と同じ高さになる。視覚的に津波を体感でき、学習旅行などに活用されている。
 同パークの一部は19年10月の台風19号豪雨で再び被災した。津波で破損した女遊戸(おなっぺ)防潮堤を利用して作った入り口のモニュメント周辺が崩落し、橋には流木が引っ掛かったまま。所管する環境省は20年度から復旧工事を予定する。大半は見学可能だが、崩落場所には近づかないよう呼び掛けている。
 震災で失われた森を取り戻そうと、パークの一角に周辺の野山と同じ種類の樹木を植えた「復興ふれあいの森」がある。植樹した崎山小(菅原浩樹校長、児童168人)の4年生が毎年訪れ、「中の浜学習」として震災と地域の生態系について学んでいる。
 児童は津波の被害や樹木の成長した様子を壁新聞にまとめ、自身の記憶にはない震災の継承を続けている。沢田幸宏教諭(48)は「被害を知ることで、復興へ向けて頑張る一員になっていく。学習を地域の未来を考えていく一助にしていきたい」と思いを込める。
東日本大震災の被害を伝える宮古市崎山の震災メモリアルパーク中の浜(岩手日報社小型無人機で撮影)

災害への油断は禁物

「ガイドでは自然の脅威と、すぐに遠くへ避難することの大切さを伝えたい」と語る平野裕太郎さん
宮古市宮町
休暇村陸中宮古職員 ・平野裕太郎さん(37)

   
 休暇村陸中宮古で「震災ガイド」をしている。東日本大震災の時は気仙沼市の大島にいて、2週間孤立した経験も交えて伝えている。
 震災メモリアルパーク中の浜にある遺構は、津波がどれほどの高さで迫ってきたのかや、鉄筋コンクリートもたやすく折り曲げる力を持つことがはっきりと感じられる。文字や写真だけではなく、被災した物をじかに見ることで受ける印象は全く違ってくる。
 パークは昨年の台風19号でも被災した。災害に「一度来たから大丈夫」「これぐらいなら問題ない」という線引きは通用しないと痛感している。二つの災害の爪痕を見られる貴重な場所なので、ガイドする際は自然の脅威と、すぐに遠くへ避難することの大切さをしっかりと伝えたい。

2020年07月11日 公開
[2020年03月24日 岩手日報掲載]

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宮古市崎山・震災メモリアルパーク中の浜

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遺構周辺の状況が体感できるVR動画は、東日本大震災の月命日に合わせて毎月1回配信します。
VR動画は、IE(インターネット エクスプローラー)・Firefox(ファイア フォックス)ブラウザでは正常に再生できません。Microsoft Edge(マイクロソフト エッジ)・Google Chrome(グーグル クローム)などのブラウザで閲覧することをおすすめします。