津波でねじれた鉄柱や、波に洗われる巨大な津波石。過去の大災害の痕跡を伝える災害遺構は、復興が進み被災の記憶が薄れた後も、自然の強大な力と命を守る教訓を雄弁に物語る。「碑の記憶~遺構編」では、悲劇を繰り返さぬよう願う住民の思いとともに、各地の災害遺構を紹介する。

津波の強大さ克明に

田野畑村・明戸海岸防潮堤

巨大なコンクリート片が重なり合い、津波の威力の大きさを物語る明戸海岸防潮堤
 田野畑村明戸は山に囲まれ、海に面した谷地の集落だ。豊かな山林から燃料を得て、藩制時代には周辺でたたら製鉄が盛んに行われたほか、戦前ごろまでは巨大な鉄の塩釜で塩を作っていた。
田野畑村・明戸海岸防潮堤
 
 東日本大震災前はキャンプ場やマレットゴルフ場、野球場があり、県内外から大勢がレジャーに訪れていた。明戸浜は海流の関係で海水浴に適さなかったが、震災前は日本体育大の学生が村民と一緒にビーチバレー大会を開くなど、村内外の交流が生まれる地域だった。
 県昭和震災誌や同村などによると、同村は1896(明治29)年の三陸大津波で最大26メートルの波が襲い、98人が死亡。家屋も465戸中325戸流失した。1933(昭和8)年の三陸大津波では最大約13メートルの波が押し寄せ、明戸地区で死者3人、行方不明者1人、1戸流失の被害が出た。
 60年のチリ地震でも津波が押し寄せたが、人的被害はなかった。震災では最大遡上(そじょう)高25・5メートルの津波が発生し、同村で死者24人、行方不明者15人、225戸が全壊。同地区では死者1人、家屋4件が全壊した。
東日本大震災で被災する前の明戸海岸防潮堤(田野畑村提供)

復旧、再び人集う場へ

 田野畑村明戸の明戸海岸は東日本大震災前、広大な砂浜とクロマツの保安林が広がっていた。夏にはハマナスが咲き誇り、近隣の漁業者が砂浜でワカメの天日干し作業に励み、太平洋に注ぐ明戸川や松林は子どもたちの絶好の遊び場だった。
 三陸鉄道リアス線の田野畑駅から北東約1・5キロに位置する明戸海岸防潮堤は、1969年に海面高9メートル、全長378メートルで建設され、周辺の安全を守ってきた。
 震災では、推定17・1メートルの第1波が防潮堤を乗り越え、引き波で堤体が破損。クロマツ林やスポーツ施設ものみ込み、約200メートル沖の海中にあった約8トンの消波ブロックを砂浜に打ち上げた。
 壊れた防潮堤は、一部が被災当時のまま保存されている。折れたり波打ったコンクリートが重なり合い、露呈した内部が津波の力の強大さをまざまざと見せつける。
 復旧した明戸地区防潮堤は2017年に完成し、海面高12メートル、全長約350メートル。堤防上を県道が通り、以前より海から離れた場所に設置された。遺構の周辺はあずまやなどのある公園に生まれ変わり、周辺のスポーツ施設も再建され、砂浜で遊ぶ人やスポーツを楽しむ人が再び集い始めている。
 一方、村へ震災の話を聞きにくる人は減少傾向だ。同村によると、大津波語り部の参加人数は13年度の6220人をピークに、本年度は736人まで落ち込んでいる。
 村政策推進課の山口芳美主事は「遺構は激しい被害が一目で分かり、防災意識を養える場だ。近隣自治体とも連携し、震災についてより掘り下げた発信ができるよう工夫していきたい」と語る。
遺構周辺が公園として整備された明戸海岸防潮堤=田野畑村明戸(岩手日報社小型無人機で撮影)

避難の大切さ知って

「震災を学び、自然災害で命を落とす人が出ないでほしい」と願う下坂弘次さん
田野畑村羅賀
漁業・下坂弘次さん(78)


 NPO法人体験村・たのはたネットワークの津波語り部ガイドとして、自宅の目前まで迫った津波の様子やまちがどのように変わったかを案内している。遺構の明戸海岸防潮堤は東日本大震災を忘れず、同じ悲劇を繰り返さないための教材になる。
 昔と違い、震災の津波やまちの様子はたくさん写真や映像がある。被災前の様子と被災後の実物を見ることで、災害はハード面の整備だけでは抑えられず、避難することの大切さを実感できるだろう。
 内陸に住んでいても災害が起きたときには海辺に遊びにきているかもしれない。遺構や被災地を見て、自分の住む場所ではどんな災害が起こり得るのか、外出していたときならいかにして命を守るか、自然災害で命を落とさないために考えるきっかけにしてほしい。

2020年06月11日 公開
[2020年03月19日 岩手日報掲載]

遺構の場所を確認する

田野畑村・明戸海岸防潮堤

Google News Initiative(グーグル ニュース イニシアティブ) は Google がジャーナリズムの未来を切り開くため、報道業界とのコラボレーションを推進する取り組みです。世界各地で記者・編集者向けにデジタル技術の活用に関するワークショップやパートナーシッププログラムを展開しており、テクノロジーを最大限に活用して現代のジャーナリズムを巡る課題に取り組んでいます。

遺構周辺の状況が体感できるVR動画は、東日本大震災の月命日に合わせて毎月1回配信します。
VR動画は、IE(インターネット エクスプローラー)・Firefox(ファイア フォックス)ブラウザでは正常に再生できません。Microsoft Edge(マイクロソフト エッジ)・Google Chrome(グーグル クローム)などのブラウザで閲覧することをおすすめします。