津波でねじれた鉄柱や、波に洗われる巨大な津波石。過去の大災害の痕跡を伝える災害遺構は、復興が進み被災の記憶が薄れた後も、自然の強大な力と命を守る教訓を雄弁に物語る。「碑の記憶~遺構編」では、悲劇を繰り返さぬよう願う住民の思いとともに、各地の災害遺構を紹介する。

数十個、波が押し上げ

普代村・普代浜園地の津波石

津波の脅威を示す普代浜園地の津波石。大きな物では3トンの重さがある=普代村
 夏場を中心に観光客が多く訪れる普代村の普代浜園地。白砂が輝く普代浜は、三陸の景勝地の一つだ。だが過去には何度も津波の被害に遭い、近隣集落の村民も多く命を落としてきた。
普代村・普代浜園地の津波石
 
 村教委によると、1896(明治29)年の大津波では15・2メートルの波が普代浜を襲った。近隣の村中心部・普代地区では95人が犠牲になり、最も被害が大きかった太田名部地区の196人を含め全村民825人中302人が亡くなった。
 1933(昭和8)年の大津波では普代地区で29人、全村では137人が犠牲に。「普代に来てみると、まるで目も口も当られぬ程であった」「あちらでもこちらでもお父さんお母さんといふ声がした」。当時の普代尋常高等小(現普代小)の児童作文集には、生々しい情景が記される。
 悲劇を繰り返してはならない−。84年、故和村幸得(こうとく)元村長の悲願で海抜15・5メートルの普代水門が完成した。総工費は35億円以上。財源などを巡り反対の声も多かったが、和村元村長は明治の大津波の15メートル以上の高さにこだわった。
 そして時は過ぎ、平成の時代。3度目の大津波が村を襲った。
被災前の普代浜。海岸林が生い茂り、キャンプ場もあった=2010年(普代村提供)

脅威物語る道しるべ

 東日本大震災後に復旧整備され、新たに「キラウミ」という愛称も付いた普代浜園地。園地内には震災で波が押し上げた津波石が三、四十個ある。風光明媚(めいび)な村の観光拠点で、自然の恐ろしさと教訓を静かに訴え続ける。
 2011年3月11日。普代浜を襲った津波は、広大な園地内にあった海岸林、キャンプ場やプール、サケふ化場などを全て押し流した。波はそのまますさまじいスピードで普代川をさかのぼったが、立ちはだかる巨大な水門が勢いを弱め、中心部の被害を抑えた。村内の人的被害は死者0人、行方不明者1人だった。
 同村太田名部の漁業太田正光さん(56)は「林がなくなり、ここの景色はがらりと変わった。だが、水門のおかげで村は助かった。災害から人命を守る村であり続けてほしい」と望む。
 被災した普代浜園地は環境省と村が復旧整備。広さは約4ヘクタールで、芝生広場や産直などを備え生まれ変わった。被災後の浜には打ち上がった津波石がいくつもあり、中には3トンほどの石も。同省は芝生広場や駐車場周辺を中心に石を点々とレイアウトし、津波石であることを伝える看板を建てた。
 村の復興の象徴である同園地はみちのく潮風トレイルルートのコースにもなっており、国内外から多くのハイカーが訪れる。巨大な津波石は歩き疲れた人々が腰掛け、つかの間休むこともできる。憩いの場であると同時に、後ろにたたずむ普代水門とともに震災の教訓を示す場になっている。
 観光を担当する村政策推進室の前川正樹主事は「園地内に津波石が配置されているのは、教訓を未来に残すため。これほどの大きな石を簡単に動かすほど津波は恐ろしいものなんだと、しっかり伝えつないでいきたい」と力を込める。
広大な普代浜園地内には、津波の脅威を示す津波石が各所に置かれている。手前には村を津波から守った普代水門が立つ(岩手日報社小型無人機で撮影)

トレイルで教訓共有

「津波石から、自然の脅威や震災の教訓を感じてほしい」と語る渡辺謙克さん
釜石市新町
国立公園利用企画官・渡辺謙克さん(55)


 環境省の宮古自然保護官事務所で、みちのく潮風トレイルなどの情報発信や誘客の仕事をしている。普代村のトレイルルートの魅力はその多彩さ。道が険しいベテラン向きのコースがある一方、普代浜園地のように津波の脅威を学びながらゆっくりとウオーキングを楽しめるコースもある。潮風トレイルの目的の一つは、震災をいつまでも語り継ぐ記憶の道とすること。目の前のがれきがなくなればだんだん人の記憶は薄れていく。だが津波石のような遺構が残っていれば、それを見たり住民から当時の話を聞き、周りに伝えていくことで教訓が広まっていく。トレイルルートを歩く中で、同村の津波石や普代水門を見て自然の脅威や震災当時人々がどんなに大変な思いをしていたかということを感じてほしい。

2020年05月11日 公開
[2020年03月18日 岩手日報掲載]

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普代村・普代浜園地の津波石

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遺構周辺の状況が体感できるVR動画は、東日本大震災の月命日に合わせて毎月1回配信します。
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