津波でねじれた鉄柱や、波に洗われる巨大な津波石。過去の大災害の痕跡を伝える災害遺構は、復興が進み被災の記憶が薄れた後も、自然の強大な力と命を守る教訓を雄弁に物語る。「碑の記憶~遺構編」では、悲劇を繰り返さぬよう願う住民の思いとともに、各地の災害遺構を紹介する。

指し示す津波の時刻

大船渡市・大船渡町 茶茶丸パーク時計塔

津波が到達した時刻を伝え続ける茶茶丸パーク時計塔
 大船渡市の中心市街地である大船渡町には、東日本大震災の前は商店街が広がっていた。海産物店や自転車店などの個人商店が地元の人々の暮らしを支えるだけでなく、大船渡駅を利用して観光に訪れた県外の人々が飲食店などを訪れていた。夏は商店街の夏まつりで道中踊りが披露され、市民協賛の大型花火が上がるなど、活気のある海辺のまちだった。
大船渡市・大船渡町 茶茶丸パーク時計塔
 
 同市や県昭和震災誌などによると、合併前の旧大船渡町は1896(明治29)年の三陸大津波の際、約7メートルの津波で832人が死亡し、当時の住家の約4分の1に当たる77戸が流失した。
 1933(昭和8)年の三陸大津波では現在の同市の範囲で死者、行方不明者が計405人。同町の死者は2人、流失家屋は2戸だった。60年には市全体で53人の死者、行方不明者を出したチリ地震津波が発生した。
 東日本大震災の同町の主な被害は死者137人、行方不明者19人、全壊住家1112世帯。市内で最も大きな被害となった。現在は商店街があった場所周辺は住家の建築が制限され、店舗だけが並んでいる。
東日本大震災で被災する前の茶茶丸パーク時計塔(大船渡市提供)

まち変化も風化防ぐ

 大船渡駅から約300メートル南東にある、大船渡市大船渡町の夢海(ゆめみ)公園に東日本大震災の遺構「茶茶丸パーク時計塔」が展示されている。台座に目のような形をしたモニュメントが乗った高さ約4メートルの時計塔は、津波で被災した午後3時25分を指し示したまま止まり、津波の記録を今に伝えている。
 茶茶丸パークは大船渡商店街の一角にあった公民館の一部だった。あずまやや水飲み場が整備され、時計塔の周りには木々が生い茂り、バスを待つ人が座って休むなど、住民の憩いの場になっていた。当時から近所のガソリンスタンドで働く小野出孝民(こうみん)さん(60)は「町の美化活動として職場のみんなでよく掃除していた。公民館もお茶や生け花などの行事でにぎわっていた」と振り返る。
 穏やかな生活を送っていた大船渡の中心市街地を東日本大震災の津波は一気にのみ込んだ。約10メートルの波は家々をがれきに変え、建物の屋根の上に船が乗った。時計塔も水没したが流失せず、辛うじてつながった盤面を示した針が、まちが変わってしまった時刻として人々の記憶に刻み込まれた。
 その後、時計塔は土地区画整理事業区域内に盛り土をするため、2015年に同市大船渡町の高台にある加茂公園に仮置きされた。復興工事が進み、大船渡駅周辺には、かつての商店街を構成していた商店などが本設を果たしたおおふなと夢商店街やキャッセン大船渡、市防災観光交流センターが整備。一歩ずつにぎわいが戻ってきている。
 時計塔は19年4月に完成した夢海公園に移された。公園には遊具があふれ、遊びにきた子どもたちの歓声が響くのを静かに見守っている。大船渡市防災管理室の鈴木文武係長は「まちの様子は変わっていくが、時計塔は津波の恐ろしさを風化させず伝え続けてくれるだろう」と見据える。
本設の商店街ができるなど復興に向けて一歩一歩進む大船渡市大船渡町(岩手日報社小型無人機で撮影)

防災意識高め後世に

「ガイドの活動が次の災害を防ぐことにつながってほしい」と願う立花康子さん
陸前高田市米崎町
観光業・立花康子さん(56)


 椿(つばき)の里・大船渡ガイドの会に所属し、大船渡市内の東日本大震災の被害について解説している。茶茶丸パーク時計塔は津波が到達した時間を語り続ける象徴的な物だ。時計塔を訪れた時には、犠牲になった方と残された家族の心の痛みを思いながら黙とうをささげている。
 復興が進む中で震災の被害が分かる物が無くなってきている。県外や海外の方に説明するとき、まちの被災前の写真を使って当時の被害、現在の様子を紹介することで、より現実味を持って受け取ってもらえるよう工夫している。
 これだけの被害が出た災害を自分が語っていいのか葛藤は持ち続けている。大船渡を訪れてくれた人に食や名勝と併せて防災の意識を高めてもらい、その意識を後世に残していかなければならないと考えている。

2020年04月11日 公開
[2020年03月17日 岩手日報掲載]

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大船渡市大船渡町・茶茶丸パーク時計塔

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遺構周辺の状況が体感できるVR動画は、東日本大震災の月命日に合わせて毎月1回配信します。
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