津波でねじれた鉄柱や、波に洗われる巨大な津波石。過去の大災害の痕跡を伝える災害遺構は、復興が進み被災の記憶が薄れた後も、自然の強大な力と命を守る教訓を雄弁に物語る。「碑の記憶~遺構編」では、悲劇を繰り返さぬよう願う住民の思いとともに、各地の災害遺構を紹介する。

復興見守るシンボル

陸前高田市・気仙町 奇跡の一本松とユースホステル

津波の爪痕を伝える奇跡の一本松と陸前高田ユースホステル=陸前高田市
 陸前高田市気仙町は、過去幾度も津波の被害を受けてきた。県昭和震災誌などによると、1896(明治29)年の三陸大津波では旧気仙町で14人が死亡。住家の流失、全壊も35戸に上った。高田松原はアカマツが多数枯死したがクロマツが生き残り、その後の植林はクロマツが使われるようになった。
陸前高田市・気仙町 奇跡の一本松とユースホステル
 
 1933(昭和8)年の三陸大津波では死者32人、住家50戸が流失、倒壊。1960(昭和35)年のチリ地震津波では市内で死者7人、行方不明者1人、全壊住家71戸の被害が出た。
 過去の文献には、高田松原が津波のたびに防潮林の役割を果たし、同市高田町の中心市街地を守ってきたと記されている。しかし、東日本大震災の津波では高田松原の松の大半が流失し、同市気仙町では死者、行方不明者260人、850世帯が全壊する大きな被害が出た。
奇跡の一本松(左)と陸前高田ユースホステル。奥はいわてTSUNAMIメモリアル(岩手日報社小型無人機で撮影)

名勝再生へ一歩ずつ

 陸前高田市の海岸沿いに広がっていた高田松原は、350年ほど前の江戸時代から菅野杢之助(もくのすけ)や松坂新右衛門らが植林し、約7万本とされる松が生い茂る白砂青松の名勝地として人々に親しまれていた。松林の中にあった同市気仙町の陸前高田ユースホステルは1969年に開所し、2010年4月に休館するまで国内外の人々が宿泊し、交流を楽しんでいた。
 東日本大震災の津波は高さ5・5メートルの防潮堤を乗り越えて松林をなぎ倒し、幹を砕き、枝葉を巻き込みながら市街地を襲った。ユースホステルは完全に水没し、地盤がえぐられ建物が折り曲がった。
 津波に耐えて唯一残った松は「奇跡の一本松」と呼ばれ、復興のシンボルとなった。その後枯死したが、全国からの寄付で保存整備を行い、今はモニュメントとして復興が進むまちを見守っている。
 周辺では、高田松原津波復興祈念公園の整備が続く。国営追悼祈念施設の一部として再建された道の駅高田松原や東日本大震災津波伝承館が2019年9月にオープンし、震災の被害と教訓を発信している。
 再建された高さ12・5メートル、全長約2キロの防潮堤を上ると、眼下に広がる砂浜に松の苗木約3万本が育つ。一部は高田松原にあった松の種子などから育てた幼木で、名勝復活に向けて枝葉を広げ始めている。
 県とともに植樹や苗の育成に尽力する同市のNPO法人高田松原を守る会の鈴木善久理事長(75)は「一本松は、地震があったら津波が来るという教訓を伝えるかのように奇跡的に残った。再生していく松原をずっと見守ってほしい」と願う。
被災前の高田松原。橋の右側の松が「奇跡の一本松」となった=2007年

人のつながり ずっと

「一本松をきっかけに、多くの人に松原再生の応援団になってほしい」と語る小山芳弘さん
陸前高田市米崎町
造園業・小山芳弘さん(68)


 奇跡の一本松は、松原を再生しようという気持ちの点火剤だった。自然に朽ちさせるのが自然ではないかと複雑な思いもあったが、保存され陸前高田の名を広めてくれることには感謝している。
 一本松は津波をかぶり、地盤沈下で根元まで波が迫っていた。折れた木を集めて波を防ぎ、後に地下3、4メートルの矢板で囲った。全国の造園業者らが、枯れる可能性が高いと分かりながらも何とか救おうと知恵と資金を出してくれた。自分も砂地に染みこむ水をかい出しに毎日通い続けた。
 枯れてしまったのはつらいが、一生懸命やる中で多くの人に出会い、人のありがたさを感じた。今後も一本松を入り口として陸前高田に関心を持ち、松原の再生に携わってくれる人が増えてほしい。そういう人たちが数年に一度でもまちを訪れ、つながり続けてほしい。

2020年03月11日 公開
[2020年03月11日 岩手日報掲載]

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陸前高田市・奇跡の一本松

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遺構周辺の状況が体感できるVR動画は、東日本大震災の月命日に合わせて毎月1回配信します。
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