「不断の注意」命守る

洋野町種市・川尻地区


 洋野町種市の川尻地区は大きな地震があるたび、川尻川を津波がさかのぼり、被害を生んできた。旧種市町の歴史民俗資料館の資料によると、1896(明治29)年の三陸大津波では旧種市村内で335戸中44戸が流失、186人が犠牲になった。このほか、村内に257隻あった船舶のうち216隻が流失、大破し、漁業に大きな打撃を与えた。
 1933(昭和8)年の三陸大地震では、川尻地区に同村では最大の高さとなる7メートルの津波が押し寄せ、村内集落の約25%に当たる53戸が流され、101人が亡くなった。船舶も263隻が流失、全壊した。
 同地区の石碑は、洋野町役場種市庁舎から約1・6キロ北西にある海岸沿いの野原に立っている。義援金を活用して旧種市村が建立し、表面には津波の発生日時のほか「不慮の津浪に不断の注意」と注意喚起の文言、裏面には昭和の三陸大津波の犠牲者の名前が刻まれている。
 石碑が伝えてきた教えのたまものか、碑の前に築かれた高さ12メートルの防潮堤と水門によって町は東日本大震災の高さ約11メートルの津波から守られ、震災による犠牲者は出なかった。

防災へトレイル活用

東日本大震災で約11メートルの波が到達した洋野町種市の川尻地区。防潮堤が機能し、町内の大きな被害は免れた(岩手日報社小型無人機で撮影)
 環境省が定めた、八戸市から福島県相馬市間の自然や文化、歴史を歩いて楽しむ約千キロの道「みちのく潮風トレイル」は6月、全線開通した。洋野町の沿岸約27キロもコースに入っており、同町種市の石碑は「川尻津波供養塔」として、ウニ増殖溝や中野白滝などと並んで道中の観光ポイントの一つになっている。
 洋野町は、解説付きでトレイルコースを歩くツアーなどを定期開催している。6月にも潮風トレイルのコースを、三陸ジオパークのジオサイトを見ながら歩く体験会を開き、町内外の9人がガイドと共に散策を楽しんだ。
 散策などでは石碑についても解説している。同町が東日本大震災で犠牲者を出さなかったのは石碑の教えを伝え続け、避難訓練を地道に続けてきたことが下地となっていると紹介。不断の備えや避難の大切さを広めている。
 ツアーを担当する町水産商工課の上岡谷孝幸主任は「素晴らしい景色を楽しむとともに過去の災害を学び、未来の防災に一役買えるよう活用していく」と力を込める。
 東北地方環境事務所によると、同トレイルには自然を楽しむだけでなく、被災地域の交流人口を増やし復興を促す狙いもある。同事務所は沿線自治体などと協力し、スタンプラリーやトレッキングツアーなどを企画し利用を促している。
 同事務所八戸自然保護官事務所の友野雄己自然保護官は「外から人が訪れるきっかけとなり、震災についても詳しく知ってもらえるようPRしていきたい」と意気込む。
 トレイルは12、13日に東北地方に接近した台風19号の影響で、コースの一部が損壊した。通行止め区間もあり、通行には注意が必要だ。
みちのく潮風トレイルを歩き、洋野町内のジオサイトを巡る体験会。参加者は川尻津波供養塔についても理解を深めた(洋野町提供)
【2011年3月12日】 東日本大震災の津波で漁船などが打ち上げられた洋野町種市の川尻地区(洋野町提供)

2020年07月21日 公開
[2019年10月31日 岩手日報掲載]

碑の場所を確認する

洋野町種市の川尻津波供養塔

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