日本中の視線を集めた格闘技のビッグイベント『THE MATCH 2022』(以下、THE MATCH)。この大会では那須川天心と武尊による“運命の一戦”が行われ、東京ドームを超満員&ABEMAのPPV販売が50万件以上など、大きなムーブメントを作り出した。

【動画】武尊の魅力を語るK-1プロデューサー・中村拓己氏

 その『THE MATCH』を制作実行委員として開催したK-1の中村拓己プロデューサー(40)のインタビュー後編では、間近で見てきた武尊というカリスマファイターの魅力、日本の格闘技の歴史に残る『THE MATCH』実現までの経緯、そして、無期限休養に入った武尊のいないK-1の今後について、そのビジョンに迫る。

■“K-1の絶対的エース”武尊の魅力は「放っておけない“弟気質”」

 現在のK-1人気の立役者であり、『THE MATCH』の主役でもあった武尊について、中村氏は「応援される人ですね。放っておけないというか、“弟気質”というか、頑張ってほしいと応援したくなるんです。もちろん、彼がとても努力して強くなって、プロとして重ねてきた圧倒的なキャリアもすごいのですが、人間としての魅力があるんです」と表現する。

 天心戦までは10年以上も無敗を継続し、キャリア41戦で40勝1敗という記録を誇っていた武尊は、まさに“K-1の絶対的エース”であり、ファンにとってはカリスマであるが、中村氏はそんな武尊のK-1デビュー時を振り返る。

 「現在のK-1がスタートした2014年、若くて強くて上に行きそうな選手は何人かいたのですが、ほぼ横一線で武尊選手がずば抜けてスター性があったわけではなかった。そこから彼は試合の内容でも勝敗でも結果を出して、メディアに出て自分を世の中に発信することにも積極的で全力でした。そして、ターニングポイントで大きい試合が巡ってきて、そういうのを引き寄せるのも素質ですし、必ずものにしてきたことも武尊選手のすごさです。競技者としての強さプラス、試合以外でも自分の見られ方を常に考える意識の高さ、その両方があって、そして人間としての魅力もある。これらを備えていて、K-1がリスタートしてみんなが新たなスターを求めているというタイミングが合致した結果、武尊選手というスターが誕生しました」

 武尊という唯一無二のエースが休養することで、K-1そのものがピンチになるのでは、と心配するファンも多いが、中村氏は「武尊選手のポジションを誰が狙っていくのか、若くてギラギラした選手がいっぱいいるので、そこから誰が抜け出すのか。まさに2014年にK-1がリスタートしたときと同じ状況といえます」と前向きだ。そして、「武尊選手のフォロワーではオリジナルを超えられないので、自分の中に確固たる柱を持っていて、それを自分なりに世に発信して、それが支持されて結果を出していく選手が次のスターになると思います」と、“第2の武尊”ではなく、オリジナリティーを持った新エースの誕生を待望する。

 ちなみに、武尊の近況を尋ねると「THE MATCH後に海外に行ってリフレッシュしていました。K-1が2014年にリスタートしてからずっと激しく戦い続けて、あれだけの大勝負に挑み、本人が会見で言っていたように体のダメージも気持ちの疲れもあるので、まずはゆっくりしてもらいたいです」と説明する。気になる今後については、「本人がまた戦いたいとなったら、試合を考えればいいかなと。もしかしたら、すぐやりたいって言い出すかもしれないし、2~3年休むかもしれないし、それはもう本人次第です。武尊選手本人が心の底からまた戦いたいと思った時に、戻ってきてくれたらいいなと思います」とエールを送った。

■日本中を興奮させた『THE MATCH』 実現までの道のりと、プロデューサーとしての思い

 そんな武尊が東京ドームでメインイベントのリングに立ち、まさに格闘技界の伝説となった『THE MATCH』。格闘技ファンだけではなく多くの人から注目を集めたこのイベントについて、改めて中村氏に振り返ってもらった。

 武尊と天心は長年にわたり対決を待望されてきたが、K-1とRISEという異なる団体のエースであったため、実現は難しいと思われていた。しかし、2020年の大みそかのRIZINで行われた天心の試合直前、何の予告もなく武尊が会場に現れて天心の試合を観戦し、試合後には拳を合わせた。「その少し前からRIZINさんを通してRISEさんと交渉がスタートしました。普段は交流がない団体さんとの仕事ということで、どんな仕事でも新しい方たちと何かを作るのは時間がかかると思いますが、我々も双方のやりたいことを調整していくのに時間はかかったと思います。そのなかで、K-1のイベントがコロナで延期になったり、武尊選手がケガをしたり、RISEさんやRIZINさんもそれぞれで大会を開催されていて、さまざまな調整が大変でしたが、中立の舞台を作ってなんとか実現させようという思いは共通していたので、最終的に今年の6月に東京ドームで実現できて、あんなにたくさんの人たちに武尊VS天心という試合を見ていただけて、本当に良かったと思います」。

 この大会ではメインイベントを含めてK-1対RISE(シュートボクシングや新日本キック含む)の対抗戦が全16試合行われたが、つまりK-1からは16人の選手しか出場ができなかった。日本中の注目を集めた舞台だっただけに、多くの選手が出場を希望していたが「こちらがスタンバイできる選手とRISEさんたちでスタンバイできる選手で階級が合わなかったり、どうしても選手の希望通りに試合を組むことは難しかった」と胸の内を明かし、「それでも、最終的にはお客さんが見たかったと思うカードをできる限り実現できたのでは、と思っています」とプロデューサーとしての充実感と責任の重さも伺わせた。

 現体制のK-1が2014年に新たに始まって以来、最大級のイベントを成功させたが、その余韻に浸ることなく『THE MATCH』の翌週には初の女子大会を開催。8月には福岡国際センターでフェザー級世界最強トーナメント、さらに9月の横浜アリーナでは武尊が返上したスーパーフェザー級王座決定トーナメントを行うなど、“アフターTHE MATCH”のストーリー、そして新エースを巡る激しい戦いはすでに始まっている。

■可能性にあふれる「K-1甲子園」と地方に広まる「K-1ピラミッド」 動画を生かし世界も目指す

 今月には福岡大会のほか、若手発掘の重要な場となる「K-1甲子園」も開催される。その名の通り高校生のための大会で、現在のK-1の王者や中心選手の多くが過去に出場してきた。「高校の3年間という限られた期間しか参加できないので、ここで優勝できなかったら一生優勝できないというドラマ性や、高校生特有のキラキラ感もあり、勝っても泣いて、負けても泣いて、まさに青春です。ここで負けた選手が数年後にプロになって、こんなに強くなったのかという成長物語のスタートでもあります。丸刈りで色白だった子が、数年後には日焼けして金髪になって、とか(笑)。いろんな楽しみ方のあるK-1甲子園というコンテンツをもっと大きくしたいです」と、中村氏もポテンシャルを感じている。

 K-1甲子園の同日には、大学生日本一を決める「K-1カレッジ」も開催されるなど、プロ興行だけでなくアマチュア大会にも力を入れている。中村氏はK-1を競技として100年続けるために、ピラミッドの確立の重要性を何度も説明した。その取り組みは確実に浸透しており、8月11日に3年連続でK-1のプロイベントを開催する福岡は、その成功例と言える。K-1ジム福岡があり、プロを目指すためのアマチュア大会の回数が増え、ビッグイベントには地元の選手が多数出場し、その大会には九州の企業が冠スポンサーとなる。まさに福岡のなかでピラミッドが形成されており、これを他の地区に広げていくことを見据えている。

 さらに、大会名の「WORLD GP(ワールドグランプリ)」の名前の通り、将来的には世界進出も目指す。「海外となればハードルは高いのですが、日本国内でピラミッドが出来つつあるので、10~15年くらいの時間をかけながら世界に広げていくことが、K-1の次のミッションだと考えています。6月の女子大会の初代女子アトム級王座決定トーナメントで優勝したパヤーフォン選手の動画は、彼女の出身地であるタイで再生数がすごく多い。これも新しい世界進出のやり方ですし、格闘技はルールが少なくインパクトのある映像が広まりやすいので、K-1らしい激しい戦いの魅力を生かしていきたいです」。

■中村プロデューサーが解説する『K-1 AWARDS 2021』ベストバウト&KO賞&MVP

 最後に、『THE MATCH』をきっかけにK-1に興味を持った人に向けて、K-1の魅力をわかりやすく紹介してもらうために、K-1が毎年開催しているMVPやベストバウトを決定する表彰式『K-1 AWARDS』から、昨年のベストバウト&ベストKO賞&MVPについて解説してもらった。

・最高試合(ベストバウト)
武尊VSレオナ・ペタス(2021年3月28日『K'FESTA.4 DAY.2』日本武道館)
「この試合は、“K-1とはこういうものだ”ということが1番伝わる試合です。武尊選手がずっとスーパーフェザー級王者として絶対的なポジションにいて、レオナ・ペタス選手はいろんなライバルを1人ずつ倒して、もういよいよ誰も相手がいないっていうところで、満を持しての挑戦でした。試合が始まると、2人ともポイントを考えずに最初から真っ向勝負して、武尊選手がパンチをもらって動きが止まる危ないシーンもあったのですが、それでも前に出て打ち合って最後はKO勝利する。K-1の一番の魅力である“KOで倒す”を見せるため、2人とも勇敢な気持ちでリスクを考えずに戦う姿は、K-1を見たことがない人にも迫力が伝わると思います」

・ベストKO賞
マハムード・サッタリ
「現在のK-1は軽量級の日本人の戦いが中心なのですが、クルーザー級(90キロ以下)のサッタリ選手は、体の大きな外国人選手が豪快に相手を殴って蹴って倒すという、いい意味で“昔のK-1らしさ”を体現してくれる選手です。わかりやすく体が大きくて迫力があるし、親日家で普段は優しそうな雰囲気だけどリングに上がると相手を一発でやっつける。『THE MATCH』でも豪快なKO勝利をあげてくれました。昔のK-1と今のK-1をつなぐ、象徴的な選手です」

・MVP
野杁正明
「野杁選手はK-1甲子園に高校1年生の時に優勝して、そこからずっとプロでやってきて、彼も武尊選手やサッタリ選手とは少し違う意味で“K-1の象徴”で、圧倒的な実力とクオリティーでK-1という競技のレベルの高さを体現してくれます。すごく喋りが面白いとか、相手のこと悪く言ったりとか、試合前に言葉で盛り上げるタイプじゃないけど、試合の動画はすごく再生される。リング上でプロとして見せられる男が野杁選手で、まさに職人です」