第26回手塚治虫文化賞の贈呈式が2日、東京・汐留の浜離宮朝日ホールで開催され、マンガ大賞を受賞した『チ。―地球の運動について―』の著者の魚豊氏(25)が出席した。

【写真】トロフィーを抱えて笑顔の谷口菜津子氏&オカヤイヅミ氏

 同作は、天動説が定説の時代に、禁じられた地動説の証明に命を懸ける人間たちを描いた物語。15世紀のヨーロッパが舞台で、異端思想が火あぶりに処せられていた時代、主人公の神童・ラファウは飛び級で入学する予定の大学において、当時一番重要とされていた神学の専攻を皆に期待されていた。しかしある日、ラファウの元に現れた謎の男が研究していたのは異端思想ド真ン中のある「真理」だった。

 5月の発表時点では24歳で最年少での受賞となった魚豊氏は、盾と鉄腕アトム像を受け取り、壇上で「いろんな人の協力があって、こういう賞をいただけた。本当に感謝しております」と口にした。

 その後「2分ぐらいのスピーチということで何を話そうかなと思っていたんですけど…。社会問題に触れたり、漫画の記号表現に触れたりしようかなと思ったんですけど、そんなので言えることはない」。続けて「そもそも漫画で描けること、言えることが全然ない人間。というのも人より特殊な人生を送ったわけでもないし、マジョリティ側で、のほほんとやってきた。なにか問題に直面して悩んでいる人に届く言葉も持っていない。面白いものが読みたかったら過去の偉人の名作が膨大にあるから、それを読めばいい」と素直に明かした。

 そして「『なんでやっているんだろう』『僕が描く意味なくない?』という話だと思うんですけど、僕もそう思って悩んだり、不安になることもがないわけではない」と胸のうちを語りながらも「そういう不安を凌駕するぐらい僕は自分の漫画に自信がある。それはなぜかと言うと、僕の漫画はほかの誰でもない僕にとって必要」と力説。「僕の漫画が僕に勇気を出させたり、挑戦させたり、冒険させてくれる要素もある。自分の漫画は自分しか描いてくれない。こういうめっちゃ名誉ある賞をいただくと、人から褒められるためにやっているんじゃないかと勘違いしそうになる。9割ぐらいは褒められるためにやっているんですけど…。残りの1割、初期騒動は自分に届く言葉とか、自分に刺さる場面を描いてみたいという思いで始めた。こういう機会で、初心に戻って。その根底は1歩も引かずに、そこから積み上げていって将来的に副次的に誰かの何かのためにつながればいいなと思っております」と熱く語り、スピーチを締めくくっていた。

 『ビッグコミックスピリッツ』で2020年9月より連載がスタートし、「マンガ大賞2022」第5位、「マンガ大賞2021」第2位、「次にくるマンガ大賞2021」コミックス部門第10位、「このマンガがすごい!2022」(宝島社)オトコ編第2位を受賞した人気作品で、コミックス累計発行部数は200万部を突破。コミックス最終巻は6月30日に発売される。

 「手塚治虫文化賞」は、日本の漫画文化の発展、向上に大きな役割を果たした手塚治虫氏の業績を記念し、手塚氏の志を継いで漫画文化の健全な発展に寄与することを目的に、朝日新聞社により1997年に創設された賞。〈マンガ大賞〉〈新生賞〉〈短編賞〉〈特別賞〉の4賞がある。

 新生賞は『教室の片隅で青春がはじまる』(KADOKAWA)、『今夜すきやきだよ』(新潮社)の谷口菜津子氏、短編賞は『いいとしを』(KADOKAWA)、『白木蓮はきれいに散らない』(小学館)のオカヤイヅミ氏が受賞。特別賞は該当なしだった。