「スマートフォンとアイデアだけ」で注目を集めることができる「ショート動画」がトレンドになっている。TikTokをはじめYouTube、Instagram、Twitterでもショート動画機能が追加され、誰でも1分以内の短い動画を作成、編集、共有することができる。これまでは一部のプロの独壇場であった映像制作の裾野が広がったことで、隠れた才能に光が当たるチャンスも増え、「ショート動画」の中にも多くの人を感動させる長編映画に化ける可能性の“タネ”が埋まっているかもしれない。

【画像】東京国際映画祭と同じキービジュアル

 そこで紹介したいのが、世界中のさまざまな映画祭で行われている「企画マーケット」の存在だ。日本で唯一の国際映画製作者連名公認の国際映画祭である「東京国際映画祭(TIFF)」と併催されているコンテンツマーケット「TIFFCOM」でも実施されている。

 「TIFFCOM」とは、日本の映画、テレビ、アニメを中心に、インターネット(OTT、VOD)、最新技術(CG/Digital/VR/AR)、原作(小説・コミック)、書籍の映像化権、リメイク、キャラクター、ゲーム、玩具、音楽、コンサート、ポストプロダクション、地域文化に旅行まで、さまざまなコンテンツホルダーが出展する見本市。アジア諸国だけでなく、世界各国から有力なバイヤーが参加して、完成したコンテンツの売買だけでなく、マルチメディア展開の主に映像化の機会を広げる場として利用されている。

 このTIFFCOMのCEO椎名保氏によると「香港、カンヌ、ベルリンなど、世界中のさまざまな映画祭・マーケットで企画マーケットが開催されるようになりました。最近は、完成済作品の売買の場を提供するだけでなく、才能ある作り手を支援する、企画段階からよい作品を見つけていくという流れが進んでいるんです。TIFFCOMにも企画マーケットがあるということを積極的にアピールしていきたい」と話す。

 TIFFCOMでは昨年、「Tokyo Gap-Financing Market(TGFM)」という企画マーケットを創設したばかり(今年2回目が開催)。これは、アジアの要素を含む予定のある長編映画またはTVシリーズ企画で、総予算の60%(TVシリーズ企画は50%)は確保済みだが、あと少し足りないという作品を募集し、選抜された企画(製作会社)に、業界エキスパート(プロデューサー、セールスエージェント、配給会社、金融業者、放送局、投資家など)とのミーティング機会を提供し、資金の足りない部分(ギャップ)を埋めて、企画成立をサポートすることを目的としている。

 初開催した昨年のTGFMからはすでに複数の企画が完成し、映画祭への出品や販売が行われている。『復讐は神にまかせて』(エドウィン監督、インドネシア/シンガポール/ドイツ)はその一つで、ロカルノ国際映画祭で金豹賞(最高賞)を受賞し、今年の「第34回東京国際映画祭」でも正式上映された(ワールド・フォーカス部門)。

 「TGFMは企画マーケットとしては最終段階のものですが、世界中には目的も意図も多種多様な企画マーケットがあります。長編映画化につなげるための短編映画の制作を支援するもの、脚本やプロモーションビデオを作るためのもの、ジャストアイデア、コンセプトだけで応募できるものもあります。次世代の有能な人材の発掘はもちろん、新たなクリエイティブの創出、主催者側にとってはほかとの差別化という面でも、企画マーケットが注目されているんです」(椎名氏)

 例えば、オランダ「ロッテルダム国際映画祭」の企画マーケット「CineMart」(2022年が39回目)は、企画・プロジェクト段階のものを対象としており、ここに応募して選ばれた企画には国際的な映画プロデューサーや制作会社、映画の業界のプロなどと引き合わせる機会が与えられ、かなりの割合で映画化を実現させている。

 アジア最大のジャンル映画祭「プチョン国際ファンタスティック映画祭」の企画マーケット「NAFF It Project」は、アワードの受賞者に大手映画会社や配信事業者のポストプロダクションを行っている会社で約150万円相当の仕上げ作業をやってもらえる権利を与えるといったことが行われている。

 こうした企画マーケットを適宜利用して、「ショート動画」で芽生えたタネが、世界中で上映される長編映画やドラマシリーズとして花開く、といった夢のような青写真も描けるのだ。ただ、チャンスを勝ち取って行くには、企画の中身そのものも大事だが、“売り込み上手”であることも重要だ。実はこの“売り込み”が日本人は下手だという。

■日本のクリエイターや業界エキスパートに知ってもらいたい

 「一番難しいのが人に伝えること。自分ではすごいと思っていても、何がすごいのか、相手に伝えることが大事。ワンシートといって、A4(用紙) 1枚で伝えるべき内容をわかりやすく明確にまとめてプレゼンすることがある。作品を象徴するメインビジュアル1枚と、キャッチコピー、3行くらいのあらすじで、どういった映画が作りたいのか端的に伝えて、相手に興味を持たせる。このワンシートを作るプロもいるくらいなんですが、そのワンシートで伝えるスキルを上げるために有効な機会がこれまでなかったので、2018年に始めたのがMPA/DHU/TIFFCOM マスタークラスセミナー&ピッチング・コンテストです」(椎名氏)

 ピッチング・コンテストの「ピッチ」とは、短いプレゼンテーションのこと。MPAは「モーション・ピクチャー・アソシエーション」のことで、アメリカのメジャー映画スタジオ5社と、動画ストリーミングサービスのNetflixが加盟する業界団体だ。

 このピッチング・コンテストでは、シノプシス(シナリオを書く前につくられるもの。題材は自由、2000字以内)をベースに書類選考の一次審査を経て、応募された企画の中から5企画が最終審査に進み、5分間のスライドプレゼンテーションを行う。審査員に「ぜひ映像化された作品を観たい」と思わせたものが勝ちだ。ここで最優秀賞に選ばれると、5日間の「FILM IMMERSION COURSE IN L.A.」旅行に連れていってもらえる。ハリウッド映画業界のプロデューサー、エージェント、エンターテインメント弁護士に会ったり、スタジオやプロダクション、脚本家やプロデューサーの組合などを訪ねたり、まさにプライスレスな体験ができる。若い作り手の育成を主たる目的としたコンテストだ。4回目の実施となった今年の最終審査は、新型コロナの影響で事前収録したものがオンライン配信された。

 もう一つ、「Japanese Movie & Animation Pitching」というセミナーもある。実写映画、アニメのジャンルにおいて、今後、国際共同製作にチャレンジしていきたいプロデューサー等を対象に、海外の企画マーケットへの参加を支援するために実施されているもの。NPO法人VIPO(映像産業振興機構)による数回のピッチトレーニングを経て、プレゼンテーションするまでを実践的に学べ、海外の企画マーケット担当者、海外バイヤー等からフィードバックを受けることができる(今年は事前収録した5分間のプレゼンテーションをTIFFCOM期間中に配信した)。企画をブラッシュアップしたり、TIFFCOM参加者との出会いにつながったり、英語ピッチングのスキルアップにも役立つ。

 TIFFCOMでは、世界中にある各種企画マーケットや国際共同製作の情報を提供するサイトを開設して、もっと日本のクリエイターや業界エキスパートに知ってもらい、活用を促していきたい考えだ。椎名氏は「国をまたいだ製作や、海外での映画祭、配給、配信展開を見据えてパートナー探しをすることも増えてきており、TGFMによって一つでも多くのすばらしい作品が生まれることを願っていますし、可能性を感じています。今はIP、キャラクター、出版物などありとあらゆるものが映像化につながる時代です。配信の市場も意識しながら、映像化できる原石になるようものを扱うマーケットも充実させて、映像産業の活性化にもつながればと考えています」と今後の展望も語っていた。

■企画マーケットの募集情報
https://www.unijapan.org/news/entry/

■Japan Film Co-production Portal (国際共同製作情報サイト)
https://www.co-pro.unijapan.org