現在では、猫は屋内飼育することが当たり前になってきたが、いまだ数多くの地域猫も外で生きている。“餌やり”と言われる人に世話をされ、一見すると伸び伸びと暮らしているように見えるが、鳴き声や糞害などで迷惑に思う人もいる。地域猫とは、そんな難しい存在だ。餌をもらいながらも、まるで妖怪のような姿になるまで放っておかれた猫、そして公園のトイレ近くで迫害されながら暮らしていた猫について、NPO法人『ねこけん』の代表理事・溝上奈緒子氏に聞いた。

【写真】「まるで別猫!」思わず二度見、妖怪のような地域猫がツヤツヤ仰天チェンジ

■あまりの悲惨さに「思わず二度見」、誰にも助けてもらえなかった猫

 その猫はまるで、こぶがいくつもぶら下がった、妖怪のような姿をしていたという。ボランティアメンバーが、あまりの姿に思わず“二度見”をしてしまったことから、この猫は『二度見ちゃん』と名付けられた。保護後によく見てみると、猫にぶら下がっていたこぶの正体は大きな毛玉。身体中の毛が玉状になって身動きが取れず、四肢の筋肉も落ち、神経にも異常が出てしまっていた。「動くたびに毛が引きつって痛かったでしょうね」と溝上氏は語る。

 二度見ちゃんはバリカンで慎重に毛を剃られ、ようやく毛玉の鎧から脱出できた。耳に入っていたVカットの跡(不妊・去勢手術済みの証)から、ある程度は管理された地域猫であることもわかった。ケガしていた後ろ足にも治療が施され、ブログでは「もう外には出ていかなくていいんだよ」と語りかけられている。その後、猫本来の可愛らしい姿を取り戻した二度見ちゃんは、『千代ちゃん』と改名。あとは幸せな家族との出会いを待つだけ…と思われたが、検査で極度の貧血、心臓に病があることが発覚。今後、回復することは見込めないという。過酷な外の世界から保護されたものの、この猫の末路には悲しい現実が待っていた。

 二度見ちゃんがここまでの状態になってしまったのは、餌はもらえど、それ以上のケアをされることがなかったから。保護当時、溝上氏は餌やりをしていた女性に「たとえ地域猫であっても、ご飯をあげているんだったら、きちんとケアをしてあげるべきじゃないんですか?」と問いかけたという。だが女性は、「それがこの子の運命ですから」と答えた。

 地域猫活動は猫を愛する人たちによって行われるものであり、殺処分の減少にも一役買ってきた。だが一方で、糞尿被害など住民間でのトラブルが生まれることもある。だからこそこの活動では、地域住民の理解、不妊・去勢手術、エサの管理、トイレの設置などを掲げていることが多い。「運命」と言ってしまえば冷たいように感じるが、すべての猫を保護することは難しく、また迷惑と感じる人も大勢いる。これらの矛盾を、保護ボランティアがなんとか是正しようとしているのが現状だ。溝上氏も、「運命を変えたい」、「地域猫の最後はこうなってしまう、それを知ってほしい」と語る。

 もう一例、花子は長い間、餌やりさんからご飯をもらいながら公園で暮らしていた。夜になると、段ボールの物陰で寝る毎日。すでに高齢であるため、餌やりさんも心配しながら様子を見守っていたそうだ。

 しかしその公園では、掃除をしている男性が猫に嫌がらせをする様子が目撃されていた。時にはバールや鎌を手に持っていることもあったという。猫の住んでいる場所に何かを投げ入れたり、鋭い小枝を猫たちの歩く道に突き立てたり、割れた陶器の欠片をばらまかれたこともあった。公園の掃除をする人にとって、猫たちは公園を汚す邪魔者である。地域猫を可愛がって餌をあげる猫好きな人も多いだろうが、同時に鳴き声を不快に思ったり、糞害で迷惑をこうむる人も、確かに存在するのだ。花子はまさに、この狭間に立たされた猫だった。高齢の花子にとって、生きるために必要な餌を得られる公園は、不安と恐怖の場所でもあったに違いない。

 そんな経緯もあり、花子は『ねこけん』によって保護された。名前の由来は、トイレの横に住んでいたからだという。普通であれば、これで一件落着だが、この話には後日談がある。

 「餌やりさんはとても花子を可愛がっていたようで、『うちの猫だから返してほしい』と言ってきたんです。ただ、その人の家で飼育している様子はまったくありませんでした」。『返してほしい、自分の猫だ』と言うわりに、保護後に病院で診療した医療費の支払いの話をすると、すぐに連絡が取れなくなってしまったそうだ。

 「地域猫は、不妊・去勢して終わりじゃないんです。もちろん、ご飯をあげることも大事ですが、その子の健康管理、トイレの世話、掃除までして初めて地域猫と呼べる猫になるんだと思います。もしも迷惑している方がいるなら、自ら出向いてその方たちと折り合いをつける。迷惑をかけないように努力して、認めてもらうしかない。地域猫にご飯をあげるなら、そこまでする覚悟が必要です。猫のことだけでなく、猫を嫌いな人たちのことも考えなければいけません」。

 こうして保護された花子。誰かに傷つけられることも、飢えることもなく、穏やかな生活を送れるはずだった。だが、病院で診療を受けた花子に見つかったのは、脾臓の悪性腫瘍。即手術をしたが、肝臓やほかの臓器にも転移が見られた。余命2~3ヵ月と診断された花子は、高齢のため手術が難しく、投薬治療を受けることとなった。

 猫を可愛がる人もいれば、嫌う人もいる。だから地域猫の問題は難しい。だが、猫たちも好きでそんな生活を送っていたわけではないだろう。もとは飼い猫であったり、捨て猫であったりしたのかもしれない。単に排除するのではなく、ひとつでも命を救うために。一時的な餌やりだけではなく、彼らが生きていくための折り合いを人間がつけてあげることが望ましいだろう。