この1年、コロナ禍でペット需要が増加している一方で、飼育放棄も増加傾向にある。そこで今夏、日本動物愛護協会が“その一目惚れ 迷惑です。”と綴った広告を公開すると、ネット上で「そのとおり」「説得力」などと話題を呼んだ。そもそも欧米ではペットショップすらない国も増えてきているが、日本ではなぜなくならないのだろうか。日本のペット事情と課題を同協会に聞いた。

【画像】『一目惚れ』『にゃんぱく宣言』ほか、度々話題を呼ぶ日本動物愛護協会の広告シリーズ

■“飼いやすい”動物って? 「自分の犬や猫たちがどこから来たのか、考えてほしい」

 その一目惚れ、迷惑です――。なんとも愛らしい表情で見上げるトイプードルの写真とともに綴られたこの言葉は、日本の深刻なペット事情に訴えかけている。

「動物を家族に迎える場合、保護犬・保護猫を迎えるという考え方が増えてはきていますが、ペットショップからという方も多いと思います。犬や猫に限らず、動物たちが商品として小さなケージに入れて売られていることに違和感を覚えることもあるのではないでしょうか。『動物の愛護及び管理に関する法律』も、改正されるたびに厳しくなっています。しかし、販売する側の人間、購入する側の人間の意識が変わらなければ意味がありません」

 日本動物愛護協会常任理事・事務局長の廣瀬章宏氏は、幼い頃からペットショップでよく聞く言葉に疑問を抱いていたという。

「動物を家族に迎える場合、一時の感情ではなく終生飼養、適正飼養は絶対条件です。仕事柄、『飼いやすい動物は?』と質問されることがあります。私も幼少のころから多くの動物たちと共に暮らしてきました。ペットショップの人に『この子は飼いやすいですよ』と勧められたこともあります。

 カメ、熱帯魚、昆虫…、どんな小さな動物であっても、いざ飼育をするとなると、なるべく自然に近い状況に飼育環境を整えなければなりません。少なくとも、『飼いやすい』などということを簡単には口にできません。何をもって『飼いやすい』と言うのか、未だに答えることができません」

 今回の“一目惚れ”広告は、そんなペットショップでの安易な動物の販売と購入に対して警鐘を鳴らし、命を託す責任、命を預かる責任を考えてもらう、ということが目的だ。これは動物を飼うことを否定しているわけではなく、すべてのペットショップ、ブリーダーを悪としているわけではない。売る側が動物を商品ではなく、一つの命として向き合い、購入者が終生飼養・適正飼養が本当にできるのかどうか考えていることが重要だ。

「もちろん、“一目惚れ”をして、大切に家族に迎えている方もたくさんいます。ペットショップ、ブリーダーが飼い主の良き相談相手になっている場合もあるでしょう。しかし、今は様々な動物たちがお金さえ出せば簡単に手に入り、飼うことができます。迎え入れられた動物たちがすべて幸せに暮らしていると言えるのでしょうか? 一部には、飽きられて、遺棄まではいかないまでも、購入時の愛情は無くなってしまい、ただ飼われているだけ、生かされているだけで、幸せではない動物たちもいます。私たちは、日頃より行き場を失う動物や、ただ飼育されているだけの幸せではない動物を作らないようにするための啓発『蛇口を閉める活動』をしています。このCMもその一つです」(廣瀬氏/以下同)

 同協会の職員の一人は、ブリーダー放棄の保護犬と暮らしている。目の見えない老犬だ。お店にならぶ仔犬・仔猫達には、道具のように扱われ、次第に病気を抱え、痩せ細り、心を閉ざしている親犬・親猫たちもいる。そんな親犬の中の1頭を引き取った。「ぜひ、自分の犬や猫たちがどんなルートでどこから来たのか、どのような環境で生まれ育ってきたのか、考えるきっかけにもなってほしい」と、廣瀬氏は切実に訴える。

■コロナ禍により過去5年で最多飼育数を記録 保護団体増加するも、頼り過ぎる消費者に警鐘

 今回の広告に対し、賛否両論はあるものの、「攻めている」「やっと、このようなCMができた」「もっと早くCMをしてほしかった」といった意見が多数寄せられているという。これまでも日本動物愛護協会は、 “飼えない数を、飼ってはいけない”、“忘れてくれるな 俺の頼れる飼い主は 生涯、お前ただ一人”などと謳った『にゃんぱく宣言』や、“親切に見つけてもらってね”という言葉に対し、“優しそうに聞こえても、これは、犯罪者のセリフです”と促す『犯罪者のセリフ』など、インパクトのある広告を打ち出してきた。

「『にゃんぱく宣言』『犯罪者のセリフ』そして『一目惚れ』と、すべての広告があれをしてはいけない、これをしてはいけないと、否定から入っています。いずれはこんな(否定形の)CMをしなくても、人と動物が幸せに暮らせる世の中にしなければなりません」

 例えば、保護犬、保護猫はどこから来たのかと考えたことはあるだろうか。もともと犬は狩りの仲間として、猫はネズミを捕るために人間社会に取り込んだ動物で、野生動物ではない。人が捨てた犬や猫が繁殖したり、飼育を放棄されたり、ペットショップやブリーダー崩壊からレスキューされる場合もある。

「今や多くの人や団体がそんな犬や猫の殺処分を無くすために、保護して譲渡する活動をしてくれています。そのおかげで多くの犬や猫が幸せになっています。しかし、このコロナ禍で犬や猫、その他動物に癒しを求め、『飼えなくなったら保護団体が引き取ってくれるだろう』などと安易な考えで購入する人もいます。不幸な犬や猫が増えれば永遠にこの活動は終わりません」

 犬や猫の新規飼育頭数は、犬は2019年の404千頭から、2020年は462千頭、猫は416千頭から483千頭((一社)ペットフード協会調べ)と、過去5年間で最も多い飼育頭数、高い伸び率を示している。廣瀬氏はじめ同協会は、今まではリモートワークの推奨等で在宅時間が増えているためお世話ができていても、以前の生活に戻った時に、「忙しくてお世話ができない」「思ったようになつかない」「うるさい、臭い」など飼育放棄される動物が今後増えてしまうのではないかと危惧している。

■本当に殺処分は減っているのか? ペットショップが簡単に開業できる日本の教育課題

 欧米に日本のようなペットショップが無いからと言って、虐待や飼育放棄が無いわけではない。そのため、一概に日本が欧米に対して遅れているとも言えないが、仔犬や仔猫が商品としてショーウィンドウに並ぶような生体販売については、まだまだ改善の余地はある。

「現在ペットショップやブリーダー業を営むには登録制となっており、割と簡単に開業はできます。命を商売の道具としか思わない業者は厳しく取り締まるために登録制から免許制にすることも考えていかなければならないと思います。飼い主側も、一時のブームなどに踊らされることなく、保護犬・保護猫を迎えるということを選択肢に入れ、家族に迎えようと考えている動物について、生態や飼育環境などの知識、いざという時の預かり先や動物病院の把握などは最低限してから迎えてほしいと思います」

 同協会では、動物を家族に迎える際に『飼い主に必要な10の条件』を提唱している。住まいはペットを飼える環境か?ペットの一生にかかる金額を把握しているか?寿命が来るその日まで、きちんと世話ができるか?365日休みなしで、しっかりと世話ができる体力と覚悟はあるか?動物たちの命を衝動買いしないよう、遵守しなければならない“当たり前”の条件だ。

 以前ORICON NEWSで、日本ではほとんどメリットがない犬の断尾・断耳行為が変わらず行われていることについて取り上げた際、「知らなかった」との声が数多く寄せられ、大きな反響があった。動物愛護の視点において、日本の倫理観や教育レベルはどの程度なのだろうか。

「ここ数年、猫ブームでSNSやテレビ番組などで可愛い猫の映像があふれています。殺処分は減ったものの、その8割が猫だということをどのくらいの人が知っているのでしょうか。殺処分だけではありません。多くの外で暮らす猫たちが交通事故、虐待により命を落としています。これらは殺処分数には含まれていません。『殺処分0』は聞こえの良い言葉ですが、本協会の考える『0』とは、動物の命を大切にしない人、動物の命を粗末にする人がいなくなった時に、はじめて本当の意味での0が達成できると考えています。

 それには、子どものころからの動物愛護教育も重要で、現在活動の中で力を入れている部分でもあります。学校での講演を行い、本協会で作成したポスターが中学1年生の道徳の教科書に掲載されています。また、子どもでも簡単に読むことのできる啓発冊子などを作成して配布しています。大人になった時に動物たちに優しい人になってもらいたいですね」

 飼う側は、一時の感情ではなく終生飼養、適正飼養を最優先に考えてから。また売る側は、動物を商品ではなく、一つの大切な命として向き合い、生体の販売よりも飼い主に寄り添った良き相談者的な立ち位置に。双方の意識の高まりなくしては、“本当の意味”での『殺処分0』が叶う日はやってこない。