世の中には飼い猫だけでなく、数多くの地域猫が人と共に生きている。“餌やり”と言われる人に世話をされ、一見すると外で伸び伸びと暮らしているように見えるが、鳴き声や糞害などで迷惑に思う人もいる。地域猫とは、そんな難しい存在だ。ある公園に住んでいた地域猫・花子は、まさにそのような問題の狭間にいた猫。NPO法人『ねこけん』の代表理事・溝上奈緒子氏に、花子と地域猫問題について聞いた。

【写真】「トイレの横で…」ひっそり眠る地域猫に涙…、保護されのんびり猫にジョブチェンジ!

■餌をもらう一方で邪魔者に…、「地域猫は不妊・去勢して終わりじゃない」

 花子は長い間、餌やりさんからご飯をもらいながら公園で暮らしていた。夜になると、段ボールの物陰で寝る毎日。すでに高齢であるため、餌やりさんも心配しながら様子を見守っていたそうだ。

 しかしその公園では、掃除をしている男性が猫に嫌がらせをする様子が目撃されていた。時にはバールや鎌を手に持っていることもあったという。猫の住んでいる場所に何かを投げ入れたり、鋭い小枝を猫たちの歩く道に突き立てたり、割れた陶器の欠片をばらまかれたこともあった。公園の掃除をする人にとって、猫たちは公園を汚す邪魔者である。地域猫を可愛がって餌をあげる猫好きな人も多いだろうが、同時に鳴き声を不快に思ったり、糞害で迷惑をこうむる人も、確かに存在するのだ。花子はまさに、この狭間に立たされた猫だった。高齢の花子にとって、生きるために必要な餌を得られる公園は、不安と恐怖の場所でもあったに違いない。

 そんな経緯もあり、花子は『ねこけん』によって保護された。目力が強い三毛猫の花子。その名前の由来は、トイレの横に住んでいたからだという。普通であれば、これで一件落着だが、この話には後日談がある。

 「餌やりさんはとても花子を可愛がっていたようで、『うちの猫だから返してほしい』と言ってきたんです。私たちも家で飼っている猫であれば、返すことに異存はありません。なので『家の中にいる花子を写した写真が1枚でもあれば、お返しします』と伝えました。でも、『写真はないが返してほしい』との一点張りでした」とのこと。しかも、返してほしい、自分の猫だと言うわりに、保護後に病院で診療した医療費の支払いの話をすると、すぐに連絡が取れなくなってしまったそうだ。

 「地域猫は、不妊・去勢して終わりじゃないんです。もちろん、ご飯をあげることも大事ですが、その子の健康管理、トイレの世話、掃除までして初めて地域猫と呼べる猫になるんだと思います。もしも迷惑している方がいるなら、自ら出向いてその方たちと折り合いをつける。迷惑をかけないように努力して、認めてもらうしかない。地域猫にご飯をあげるなら、そこまでする覚悟が必要です。猫のことだけでなく、猫を嫌いな人たちのことも考えなければいけません」。

 こうして保護された花子。誰かに傷つけられることも、飢えることもなく、穏やかな生活を送れるはずだった。だが、病院で診療を受けた花子に見つかったのは、脾臓の悪性腫瘍。即手術をしたが、肝臓やほかの臓器にも転移が見られた。

 年齢や体の状態から、手術で取り除くことは不可能。あとは、投薬で治療するしかない。状態にもよるが、余命は2~3ヵ月だろうと診断された。「おそらく、餌やりさんに花子を返していたら、すでに命はなかったでしょう」。

 闘病生活を送りながらも、花子の前にバールや鎌を持った人は、もう決して現れない。今、花子はほかの猫たちと共にのんびり、ふわふわと自由に暮らしている。ケアや投薬などの甲斐もあり、すでに宣告された3ヵ月も過ぎているそうだ。

 猫を可愛がる人もいれば、嫌う人もいる。だから地域猫の問題は難しい。だが、花子だって好きで、危険な公園で暮らしていたわけではないだろう。もとは飼い猫であったり、捨て猫であったりしたのかもしれない。単に排除するのではなく、ひとつでも命を救うために。一時的な餌やりだけではなく、彼らが生きていくための折り合いを人間がつけてあげることが望ましい。TNR(TRAP:捕まえる、NEUTER:不妊・去勢手術をする、RETURN:元の場所に戻す)活動は、その一歩だ。

 数奇な運命をたどった花子の残りの寿命はわずかかもしれないが、不安も恐怖もない幸せな時間を最期まで享受してほしいものである。

(文:今 泉)