世界中で空前の大ブームを起こしている韓国発のNetflixシリーズ『イカゲーム』。Netflix史上最大のヒットとなった同作によって、グローバルにおける韓国コンテンツの価値と存在感はますます高まっている。“デスゲーム”という決して斬新ではないアイデアが、これほどまでに世界の視聴者の心を掴んだのは、なぜなのか。そして日本のコンテンツ業界は、グローバル市場を見据える上で、そこからどのような課題と学びを得られるのだろうか。Netflixの広報担当者に同作のヒットの背景と日本オリジナル作品の状況について聞いた。

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◆韓国作品は一時的な流行や現象を超えて、世界規模で愛されるジャンルの1つとして定着

 Netflixシリーズ『イカゲーム』が配信開始から4週間で世界1億4200万世帯が視聴し、Netflix最大のヒット作となった。これまでトップだった米国発シリーズ『ブリジャードン家』(配信開始4週間で世界8200万世帯が視聴)を大きく更新した記録だ。

 Netflixの広報担当者は「韓国のクリエイターは過去数十年にわたってアジア地域の韓流ブームを先導し、そのなかで培った確固たる制作能力を土台にクオリティとストーリー性の高い作品を継続的に生み出し続けています」と高く評価。これまでにも『愛の不時着』や『梨泰院クラス』といった韓国ドラマが世界的にヒットした。

 そして『イカゲーム』では、アメリカ、ブラジル、フランス、インド、トルコほか世界94ヵ国で「総合TOP10」の1位を獲得する快挙を成し遂げた。これは映画『パラサイト 半地下の家族』のアカデミー&カンヌ同時受賞やBTSのビルボード1位に並ぶインパクトであり、名実ともに韓国がアジアを超えて「世界のコンテンツ大国」になった証左とも言える。

 Netflix担当者は「韓国発の作品は一時的な流行や現象を超えて、世界規模で多くの人に愛されるジャンルの1つとして定着し始めていることを実感します」と語っている。同社が2015年~2020年に韓国コンテンツに投資した額は約7億米ドルだったが、2021年度には一気に約5億米ドル(予定)へと引き上げられた。

 『イカゲーム』は、登場人物たちが高額の報酬などを賭けて死を伴うゲームに巻き込まれる様相を描く、“デスゲーム”と呼ばれる古今東西あまたの作品が制作されてきた定番ジャンルだ。

◆言語や文化が違っても共感、普遍的な感情を巧みに操る韓国作品

 近年の日本作品では、Netflixシリーズ『今際の国のアリス』シーズン1が、2020年12月10日より世界190カ国に配信し、4週間で世界1800万世帯が視聴。韓国や台湾、ドイツ、イタリアなど世界40ヵ国で総合TOP10入りを果たした。

 この数字も『イカゲーム』のメガヒットの前ではやや霞んでしまうことは否めないが、Netflix担当者によると「『イカゲーム』を観た視聴者が『今際の国のアリス』を発見して視聴する傾向があり、配信から9ヵ月以上が経つ作品にも関わらず50ヵ国以上で再びTOP10入りをしています」とシーズン2への躍進にも期待がかかる。

 ところで『イカゲーム』にあって『今際の国のアリス』にないものを、“キリスト教の要素”であると指摘する声は多い。世界最大の宗教であるキリスト教が日常生活や道徳観に深く根差している国は多く、世界的にヒットした映画やドラマの多くにキリスト教のメタファーが散りばめられているというわけだ。

 これはキリスト教に限らず、「世界の大衆が共感できる要素」と言い換えてもいいだろう。担当者はヒットした韓国作品の共通点を「いわゆる“feel”、つまり言語や文化が違っても共感できる普遍的な感情をとても巧みに扱っている」と言う。

 日本のコンテンツ業界は長らく内需志向が高く、視聴者=日本人ならではの感情や価値観に依拠した作品づくりが多かった。また、Netflix担当者が「日本発の作品は世界中の日本文化ファンの共感を得て、ますます人気が高まっています」と語るように、そうしたガラパゴス性は世界中に「日本文化ファン」を生んできた要因でもある。しかし、世界同時配信されるVODの視聴者は「日本人」や「日本文化ファン」だけではなく、「世界の大衆」である。

 Netflixでは、CJ ENMやStudio Dragonといった韓国のエンタテイメント企業と複数年にわたる戦略的なパートナーシップを結んでいる。日本から文化や言語を超えてグローバルで受け入れられる作品を生み出すために、コンテンツ製作者もさらに広い領域でNetflixと協業していくことが必要ではないだろうか。

◆“世界の大衆”が視聴者であるVOD、映像美や芸術性の追求でガラパゴス化する日本作品

 日本の映像作品の多くが世界に出ていく際に評価されがちなのが「映像美」や「芸術性」だ。海外の映画祭でも歴史的に日本人監督や作品の受賞が多いのが、アート志向の高いヴェネチア国際映画祭であることからもそれは明白だろう(黒澤明監督『羅生門』『七人の侍』、北野武監督『HANA-BI』『座頭市』、黒沢清『スパイの妻』など多数)。

 それらはもちろん優れた作品だが、芸術性の高さと大衆受けが共存しにくいのも事実。「世界の大衆」が視聴者であるVODであるなら、なおさらわかりやすさで勝負するのが勝ち筋ではないだろうか。韓国が「世界の大衆」に向けた作品作りを行うなか、日本では地上波などのマス向けの作品とは異なる芸術性を追求した作品をVODで制作するという意識が根強いように感じる。

 『イカゲーム』のシンボリックな○△□の記号は、言語や文化が違ってもわかりやすく、グッズや広告展開がしやすいことからもさまざまな経済効果を生んでいる。また衣装もキャッチーで、SNSの「#squidgame」には多くのファンアートやコスプレが投稿されている。ハロウィーンシーズンに配信を開始したのも戦略だったのだろうか、1つのコンテンツを最大化することに成功している好例だ。

 もちろんすべての作品がわかりやすさを追求するべきというわけではない。しかしNetflix担当者が「日本は独自の作品を生み出す世界屈指のストーリーテリング大国」と評価しながらも、グローバルでインパクトを与える実写作品がいまだVODで生まれていないのは何かしら足りないピースがあるはず。その突破口を開く挑戦があれば、日本のコンテンツ業界は大きく変わるのではないだろうか。

 今や世界の多くの人々が「韓国のコンテンツ=面白い」と認知している。少々遅れをとった日本からも、世界同時配信されるVODの特性を生かして、「日本のコンテンツ=面白い」と世界から信頼されるような作品が誕生することを願ってやまない。

(文/児玉澄子)