キーボードを手に「みーき、みーき、みーき、幹てつや」と自身の芸名をリズミカルに歌いながら、1990年代後半に『ボキャブラ天国』(フジテレビ系)で一世を風靡(ふうび)した幹てつや(54)。浜崎あゆみのものまね芸人・あゆと結婚し、お笑いコンビ・かりすま~ずとして活動してきたが、2017年には第1子、昨年に第2子が誕生し、今では“2児のパパ”になった。育児のために、コンビ活動が精力的にできない中で襲いかかった“コロナ禍”。バイト時代からの縁で任されていた飲食店は、今年の4月末に閉店を余儀なくされ、収入も“ほぼゼロ”になった幹が、新たな活路として選んだのは“俳優業”だった。

【写真】印象がガラリとチェンジ! 矢沢永吉になりきる幹てつや

 これまでも俳優として活動をしていたが、あくまで主軸は芸人。そんな幹が、俳優業に興味を抱くきっかけとなったのは、2016年に放送された『鴨川食堂』(NHK BSプレミアム)で共演した、萩原健一さんとの出会いだった。「ショーケンさん(萩原さんの愛称)といえば、とっつきにくいイメージがあるじゃないですか? ところが、現場で実際に接してみたら、全然そんなことなくて、本当に気遣いの方で、一人ひとりに声をかけてくれていました。僕はご一緒するシーンも多かったので、いろんな話も聞かせてくれました。その中で『芸人さんは独特の間を培っていて、それが役者に生かされる。それが武器になるから、君は役者を続けた方がいいよ』とおっしゃってくれたんです」。共演以降、俳優の2文字が頭の片隅にあった幹だったが、芸人活動のメインとなるイベント出演などとの兼ね合いから、一定期間撮影に費やすドラマや映画の仕事に恵まれなかった。

 「一昨年、ショーケンが亡くなられたとのニュースに触れて、改めて真剣に考えて、お芝居に挑戦したいと思うようになりました。事務所とも話をして、1年が経った時、コロナ禍となって、スケジュールが真っ白になって、任されていた飲食店も今年4月末に閉店せざるを得なくなりまして、収入がほとんどゼロ状態になって。このタイミングだからこそ、動けるエンターテインメントをと考えた時、54歳にもなって飛び込める世界じゃないかもしれないけど、俳優業にトライしようと心に決めました」

 この世界に足を踏み入れるきっかけとなった、師匠の桂文枝からも背中を押してもらった。「師匠のもとから独り立ちをして活動をするようになって、30年くらいが経ちますが、今でも気にかけてくれていて、今年になってからは毎日、弟子たちとのLINEグループに長文のメッセージを送ってくれるんです。『ホンマに成功したいんやったら、人がやらないようなことをしないといけない』とか、いろんなコメントをくださって。それを何度も読んで考えて『待っていたらアカン。挑戦や』という気持ちになりました。師匠からのやさしい言葉が本当に支えになっています」。歌とエンターテインメント、笑いの融合を求めて活動を続けてきた幹らしく、ミュージカルの舞台を目指して一歩を踏み出した。

 レッスンも行いながら、オーディションを自ら探すも、年齢の壁がたちはだかる。「ネットなどを使いながら探してみるのですが、50歳以上も受けて入れてくれる募集がなかなかなくて…。書類選考を受けることができても、そこでもけっこう落ちました。かといって、なんでも出られたらいいというものでもないので、ちゃんと自分が出たいと思える作品の募集に送っていきながら、いいタイミングでひとつお仕事をいただけました」。54歳で飛び込む“役者の世界”。甘くないこと、チャンスも限られていることは十分に理解している。「野球で例えると、僕はベンチに入れるかどうかという立場で、若手のように『何度か使ってみるか』という風な起用はないので、素振りを欠かさず、1回きたチャンスでしっかり結果を出さないといけないと心得ています」。

 見事にチャンスをものにした幹のもとに、9月28日から10月3日まで上演された舞台『The Great Gatsby in Tokyo』をはじめ、28日から11月3日まで行われる舞台『Three Kingdoms~最終章~』、12月2日から4日まで上演されるミュージカル『未来旅行はじめました』と、仕事が舞い込んできた。「この歳でこんなことをしてもいいのかとか、無難な道を選ぼうかとも考えたのですが、挑戦してみてよかったです。『ボキャブラ』ファンの方からしたら『幹てつやって、今何しているの』とか『もう消えた』『まだ生きているの』とかっていう認識だと思うのですが、生きているよと伝えたいです」と屈託のない笑みを浮かべる。

 『ボキャブラ』ブームから20年以上が過ぎ、爆笑問題、くりぃむしちゅー、ネプチューンといったメンバーたちは、今では確固たる地位を築き上げている。「幹さんの今回の挑戦を知った、ボキャブラ仲間のみなさんは、どのような感想を持たれるでしょうか?」と向けると、少しの間をおいて、ゆっくりと胸に秘めた思いを口にした。「みなさんの記憶から消えていても、『ボキャブラ』のインパクトが残っているところもあって、思い出してくれることもあるので、本当にありがたいなと感じています。『ボキャブラ』メンバーの方が、いろんなところで活躍しているところに、早く追いつきたい。離れていて背中も見えないですけど、一生懸命追いかけて『やめてないよ、だいぶうしろだけど走っているから』と伝えたいですね」。

 54歳にして訪れた“俳優1年生”としての新生活にも、気持ちは前を向いている。「大きな夢ですが、朝ドラと大河ドラマ、ミュージカルでは『レ・ミゼラブル』に出たいと考えています。できるところまで戦ってみたいです。舞台の現場でも最年長になるので、役者としては1年生なんですけど、そのギャップでちょっとプレッシャーもあるのですが(笑)、必死になってついていっています。何もやることがなくてどうしようっていう時よりも、やらないといけないことがたくさんっていう、今の状況の方がありがたい。本当に充実していて幸せです」。芸人としての活躍にも磨きをかけるためにも踏み出した、大きな一歩。俳優という新たな幹を育てるべく、きょうもがむしゃらに走り続ける。