太平洋戦争後も約30年にわたってフィリピン・ルバング島で孤独な日々を過ごした小野田寛郎(おのだ・ひろお)旧陸軍少尉の実話をもとに、フランスの若き才能アルチュール・アラリ監督が作り上げた映画『ONODA一万夜を越えて』(10月8日公開)の記者発表会が5日、都内にあるフランス大使館で行われた。

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 会見には、主人公・小野田寛郎の青年期を演じた遠藤雄弥、同じく成年期を演じた津田寛治のほか、帰国のきっかけを作る鈴木紀夫役の仲野太賀、仲間の日本兵を演じた松浦祐也、カトウシンスケ、井之脇海、小野田たちにゲリラ戦を命じた谷口教官役のイッセー尾形が“正装”で出席した。

 言葉の通じないフランス人監督のもと、多国籍なスタッフに囲まれ、カンボジアで約3ヶ月にわたる撮影に参加した遠藤たちは、それぞれ俳優人生の転機となるような貴重な経験をしたことを述懐した。

 遠藤はクランクイン前にアルチュール監督から「今回の撮影は冒険になる、一緒に楽しみながら進んでいきましょう、といった内容のメールをもらいました。まさに冒険のようでした。思ってもみなかったような感情が湧いてきて、豊かな時間を過ごすことができました」と振り返った。ただ、現地の水やローカルフードは体に合わなかったようで、「現場ではみんな熱を出したり、お腹を壊したりして、満身創痍だったんですが、作品のストイックさにマッチしたかな」と、撮影をともにした松浦、カトウ、井之脇らと笑いあった。

 役づくりの一環で減量するため、「ナッツしか食べなかった」という津田は、お腹を壊すことはなかったというが、アルチュール監督から受けた演出は「芝居を考える上で大きな転機になった。その後の僕の仕事の仕方も変わりましたし、人生の転機になった作品です」と、言い切った。

 津田が「監督から芝居をしないことを求められました。疲れた芝居をするのではなく、本当に疲れてほしい、とへとへとになるまでジャングルを走ってから撮影した」といったエピソードが披露されると、遠藤たちも大きくうなずいた。

 仲野は「言語、国籍、場所が違っていても、一つの映画を作るという目的でみんなが一つになっていたし、改めて映画作りの美しさを目の当たりにした撮影だった。監督は人間を描くことに関して、ひとつの真理を持っている気がして、僕はそれを信じて演じることができました。優秀な監督はどこの国でも何歳であっても鋭い眼差しを持っているんだなと深く気付かされました」と、噛みしめるように語る。

 百戦錬磨のイッセー尾形にとってもアルチュール監督の演出は衝撃的だったようだ。「谷口が小野田を抱き起こす場面で、通訳の人が言うには、監督は私が抱き起こすのではなく、触っただけで遠藤くんが起き上がってくるんだ、と。そんなのこと言っているの?と思いましたけど、小野田にとって、谷口教官がどんな存在か、そのカリスマ性を表現したかったんでしょうね。試写を観て、小野田の体験そのものを体験できました。体、皮膚に残って、いまだに鳴り響いています」と、監督の手腕を激賞。さらに「最年長の僕でさえ戦争を体験していない。この映画はすべて想像力で成り立っている。誰だって想像できる。今、この映画を体験することは意義がある」と熱く語っていた。

 同映画は、7月にフランスで開催された「第74回カンヌ国際映画祭」「ある視点」部門でオープニング作品として上映され、フランスをはじめ各国で上映中。津田は「すでに映画をご覧になった方は、『こんな日本兵見たことがない』という意見が多いです。外国の映画では第二次世界大戦中の悪役として描かれることが多く、日本で描かれる日本兵は大和魂を持った日本兵である事が多い。この映画で描かれる日本兵はどれにも属さない稀有な日本兵。現代を生きる人たちにシンクロしているような気がします」と作品の見どころをアピール。

 遠藤は「今、コロナ禍で時代の大きなうねりの中にいる私たちが見て、人としての在り方、どう生きるべきかを問われるよう作品になっていると思います。ぜひ劇場で見ていただいて、何か心に響くものがあったら幸いです」と、呼びかけていた。