これまで、さまざまな猫を保護してきたNPO法人『ねこけん』。多くの猫は新しい家族と出会い、幸せな生活を送っている。そんな中でも、代表理事の溝上奈緒子氏が「忘れられない」と語るのが、老猫の「三毛婆さん」だ。ある1匹の猫を救った女性、そして「三毛婆さん」がたどった数奇な運命について聞いた。

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■「人間でいうと116歳」高齢の猫に待つのは安楽死…三毛婆さんを救った年若い女性

 2017年9月26日、25歳になった猫、三毛婆さんが息を引き取った。人間でいうと116歳というスーパーご長寿のおばあちゃん猫。しかし、三毛婆さんは一度、命を絶たれそうになったことがある。それを救ったのは、1人の女性だった。

 「相談をくれた女性は、当時20歳くらい。ドラッグストアで働いていて、そこに毎日、猫1食分のエサを買って帰る老女がいたそうです。でもある日、『猫を飼い続けることができなくなったから、もう来ない』と言われたと。詳しく聞いてみると、その人が飼っている猫は19歳。引き取ってもらえる人もいないので、保健所で安楽死(殺処分)してもらうしかない…と。それは大変だということで、彼女は奔走し、うちに相談メールを送ってくれたんです」。

 彼女は最初、猫を愛護団体に引き取ってもらおうと提案したそうだが、怒られると思った老女は拒否。相談を受けた『ねこけん』も入り、なんとか説得して猫を引き取ることに成功した。

 そうして保護された三毛婆さんだが、やはり19歳の高齢ともなると譲渡会でも家族が見つかる可能性は低い。仮に見つかっても、最期を看取るだけになってしまうかもしれない。すべてを考慮した上で、溝上氏は自分で引き取ることを決断したという。

 その日から三毛婆さんは、溝上家の家族として暮らし始めた。初めて会ったときの三毛婆さんは、すべてを受け入れ、輝きを失ったような目をしてうずくまっていた。悲しみも、怒りも、喜びもなかった三毛婆さんだったが、日を追うごとに元気を取り戻していく。時には若い猫とおもちゃを奪い合い、時にはカエルの着ぐるみを着てお茶目な姿を見せる三毛婆さん。好奇心いっぱいに大きな目を見開き、くるくると表情を変える様子は、とても19歳の老猫には見えないほどだった。

 三毛婆さんを救った女性依頼者のことが、今でも忘れられないと溝上氏は語る。

 「『ねこけん』で猫を保護した場合、依頼者から月1万円の保護費用を支払ってもらうシステムになっています。でも三毛婆さんの場合は私が飼うことに決めたので、保護費用はいらないと伝えました。でも依頼者の彼女は、『自分にはそれくらいしかできないから』と、自分ができる範囲で5000円を毎月支払ってくれたんです」。

 20歳前後の女の子にとって、毎月5000円の出費は厳しかったことだろう。そもそも、自分が飼っていた猫でもない。だが彼女は、それから6年もの間、一度も欠かすことなく5000円を払い続けた。たとえ一緒に住んではいなくとも、彼女は間違いなく三毛婆さんの家族であった。毎月払い続けた5000円は、彼女から家族へ向けた愛情だったのだろう。

 そんな愛に支えられ、三毛婆さんは溝上家で強く愛らしく、幸せな生活を送った。だが、ついに別れのときがくる。溝上家に来て6年、2人の家族に守られた三毛婆さんは息を引き取った。

 「彼女には、元気な三毛婆さんの写真をいつも送っていました。三毛婆さんが亡くなったことを伝えると、『ありがとうございました。私には仕送りしかできなくてすみませんでした。みなさまには感謝でいっぱいです。最後の仕送りをします。お花を買ってください』と、1万円を送ってくださいました」。

 静かに眠る三毛婆さんの傍らには、彼女が最後に送ってくれたお金で買った花が添えられた。そのピンクの南国の花は、三毛婆さんの胸に咲くトーチのようだった。一度は愛する飼い主によって絶たれそうになった命を、最期まで燃やし続けた三毛婆さん。きっと虹の橋を渡った先で、家族たちへの感謝を伝えていることだろう。

(文:今 泉)