人口およそ1,000人の限界集落、徳島県那賀町木頭地区の入り口に昨年4月に誕生した「未来コンビニ」。世界的デザイン賞を受賞するほど斬新かつ洗練された建物が山間に突如現れる光景は一際目を引く。この建物は、地元住民の買い物難の解決や地元の子どもへの文化的機会の提供など、様々な役割を担う木頭地区の新たなシンボルだ。限界集落における地域創生の第一歩がなぜこのユニークな外観のコンビニだったのか? また、この「未来コンビニ」から始まる地域創生のモデルとはどのようなものなのか。「未来コンビニ」の店長・小畑氏と、未来コンビニ設立当時からプロジェクトに関わっている、KITO DESIGN HOLDINGS株式会社・仁木氏に話を聞いた。

【画像】「近未来感すごい!」山奥に突如現れる“世界一美しいコンビニ”の正体 建物の全貌と木頭地区の風景

■若者の移住の決め手にも…地元住民と移住者、観光客の拠り所として機能するコンビニ

 木頭地区では、以前から深刻な過疎化に悩まされていた。人口の半分以上が高齢者であり、買い物をできる商店も少なく、人が気軽に集まれる場所も少ない。そして何より、生活の不便さが子どもたちの未来への展望を希薄化する──。そんな限界集落と呼ばれる地域がぶつかる、いくつもの課題に直面していた。

 そこで、地域住民の生活向上であり、観光名所にもなるような場を作ることで地域創生をはかろうと、一大プロジェクトが発足した。県内での地方創生の先進地、神山町と上勝町で実施した若年移住者へのヒアリングでは「田舎だが、コンビニがあったから」という声も聞かれた。一般的な町おこしであれば、特産物に特化した商店や文化施設でもよいかもしれない。しかし、やはりこの町にも、気軽に立ち寄れて、生活に必要な商品全般がそろうコンビニエンスストアが必要だとういう判断に至った。

 「未来コンビニには、インフォメーションの役割もあるんです。国内からの移住者だけではなく、インバウンドへの対応も考えていましたから、ここへ来れば木頭地区のすべてがわかるような場所にしようという意図がありました。そしてなにより、木頭地区に住む人々は圧倒的に高齢者の比率が高い。そういった方々が気軽に買い物をできるお店が必要だというのが大きかったですね」(仁木氏)
 

 また、地元の子どもにとっても魅力ある街づくりをしたいという想いがこのコンビニ建設の背景にある。「最寄りのコンビニは車で一時間以上の場所にしかない環境で、地元の子どもたちはコンビニって知らないんですね。そういう子どもにもコンビニっていうのがどういう場所か知ってもらいたかった」(仁木氏)

 「世界一美しいコンビニ」というコンセプトを掲げ、世界三大デザイン賞「レッド・ドット・デザイン・アワード」の最優秀賞を受賞するほど大胆かつ近代的な外観にこだわったのも、地方の子どもにもアートに触れる文化的機会を与えたいという想いがあったからだ。
 
 「過疎地に生まれ育つ子どもは、都市部の子どもに比べて文化的なものを見て刺激を受けるような経験が少ないです。その問題提起が外観へのこだわりにも繋がっています。良い意味で異質なものを見て、クリエイティブな刺激を受けてもらいたいです」(仁木氏)

■地域密着で新たな価値を生み出すコンビニ、限界集落ゆえの仕入れの苦労も

 そして建設された「未来コンビニ」は、既存のコンビニから大きく飛躍した機能を持つコンビニとなった。生活必需品はもちろん地元農産物や特産品も並び、広々としたカフェも併設。このカフェは、地元住民に新たな“集う場所”を与え、観光客に“立ち寄る場所”を提供している。

「小さなコミュニティにあるコンビニなので、買い物に来てくれるお客さんと店員の距離が近いのが特徴です。スタッフと話をするのを目当てに来てくださる方も多くいらっしゃいますし、そこは都会のコンビニと違うところかなと思います。観光でいらした方も、よく話しかけてくださるんです」(小畑氏)

 とはいえ、限界集落の独立したコンビニの商品の仕入れは困難なことが多いだろう。聞けば、そこにも多くの知恵と努力が結集されている。

 「コンビニを作ることになった当初、いろいろなコンビニチェーンさんにお声をかけさせてもらったんですが、なかなか反応は難しくて。そのなかで応えてくれたのがヤマザキさんなんです。こんな地域まで卸してくれるヤマザキさんは、本当にすごいです。とはいえ、冷凍食品やアイスなど仕入れられないものもあるので、そこは他の商店から卸してもらうなど、融通を利かせてもらっています」(仁木氏)

 「木頭地区のゆず製品だったり、木頭杉で作ったお箸だったりを仕入れて特産品として販売もしています。あと特殊な調味料などは、地元の商店さんにお手伝いいただいて、卸してもらっています」(小畑氏)

 店内に併設するカフェでは、コーヒーチェーン店で働いた経歴を持つ店長自らが指揮をとり、ドリンクや軽食を企画・販売。既存のフランチャイズ制ではなく、まさに手作業であり手作りで完成したプロジェクトだ。不可能を可能にし、その地域に未来への希望を持たせる「未来コンビニ」は、新しい地域創生の形だといえるだろう。

 そして、そんな偉業を知る上で最も驚くのは、今回のプロジェクトは自治体などの行政による実施なのではなく、株式会社メディアドゥ代表取締役社長CEO・藤田恭嗣氏が出身地への恩返しとして、木頭地区の子どもたちのために、ひいては町全体の繁栄のために動き出したプロジェクトだということ。「未来コンビニ」で販売する木頭ゆずの加工商品も、このプロジェクト展開の中で設立した加工販売会社「黄金の村」によるものだ。

 「行政からの助成金などを利用したものではなく、完全に弊社独自のファイナンスによるものなんです。行政主軸で行うとすると、どうしても建物デザインなどに制約も出てしまうし、通常の“道の駅”にしかなれない。それでは木頭地区の未来を掲げたプロジェクトのテーマとずれてしまうし、地域のアイデンティティを大事にするためにも、自分たちで創るべきだと思ったんです。ただ、行政にも色々後押しはしていただいいますし、弱者支援というところではご協力もいただいています。未来コンビニを作ることで目指したのは、寄付による生き残りではなく、”自立”ですから。今後も地元の課題に沿った解決案を提示していきたいです」(仁木氏)

 「未来コンビニ」という建物ができたことで、誰もが通り過ぎるだけだった町が誰もが立ち止まる街になる。そこに宿泊施設があることで長期滞在ができるようになり、働ける場所を見つけた人が住むようになればと考え、まずは閉館した旅館を再生させたゲストハウスのプロジェクトも進行中。そして子供たちから高齢者まで全ての人が元気な町にする。そこまで含めた地域創生のモデルとして、広がっていったら嬉しい、と語る「未来コンビニ」。

 この「未来コンビニ」の誕生を軸に、移住してきた人たちが仕事をしやすいコワーキングスペースや、高齢化が進む地域の方々が楽しく体を動かせるキックボクシング道場など、いろんな形で人が集まれるものを今後も作っていく予定だという。大事なのは、地域全体を、住民の力で活性化させること。そして活気を取り戻していく木頭地区の姿は、地域創生の成功モデルとして全国の町おこしの参考になっていくだろう。