リアルライブやフェス開催への激しい議論が巻き起こる中、一部ユーザーからは「ライブは配信で十分だ」という声も聞こえてくる。たしかにデジタルに親和性のあるアーティストはサービスへの巧みな誘導や投げ銭などの仕組みを活用し、ファンと絶妙な関係性を築きながらコロナ禍で活動の幅を広げられたようだ。とは言え「配信だけでは収益が成り立たない」というアーティストが多いのも事実。配信ならではのメリットをアフターコロナにも繋げ、ライブ市場とアーティストの活動をさらに活性化させる道筋とは何か。

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■コロナ禍のフェス開催に“正解はない” 「置かれた状況で最善の策を」

 コロナ禍では開催ギリギリになって政府や自治体が要請を出すことも多く、開催する・しないにかかわらず、決断に苦しんだフェス関係者は多かったはずだ。一部の音楽フェスからクラスターが発生してしまったこともあって、リアル音楽フェスへの当たりはいっそう厳しくなっていると言える。

 一方で、コロナ禍を機に一気に普及したのが配信ライブである。コロナ発生前の2019年より、音楽ライブに特化した配信プラットフォーム『MUSER』を運営するBEAMINGの代表を務める次呂久博幸さんは、昨今のリアルライブへの印象について語る。

「リアルライブを批判するつもりはないですし、いち音楽ファンとして現場には変えがたい喜びがあることも知っています。ルールを破るのはもってのほかですが、コロナ禍の今は正解がないぶん、それぞれの置かれた環境で何ができるか、試行錯誤していくしかないと思っています」

『MUSER』は9月11日から2日間、完全オンラインの音楽フェス『MUSER FEST.2021 -MUSIC AID-』(以下、『MUSERフェス』)を開催する。国内はもちろん、海外からは伝説的ヒップホップグループ、Run-D.M.C.でMCを務めてきたDMC from RUN DMCら、総勢24組を誘致。先端技術を用いたステージを用意して、ハイブリッドな映像体験とともに演出するという。

「フェス開催を選択せざるを得ないときに、オンライン開催という選択肢があれば、創造の幅は広がるでしょう。リアルライブはダメ、配信ライブが正義、というふうに対立軸で捉えたくはありません。むしろ平常に戻ったときに、リアルライブと配信ライブがきちんと共存できるカルチャーを作っていきたいんです」

 フェスを企画した次呂久さんは、同フェスの着想を、1985年に開催された20世紀最大のチャリティフェスティバル『LIVE AID』に得たと語る。

「映画『ボヘミアン・ラプソディ』のクライマックスでも描かれた『LIVE AID』は、イギリスのウェンブリースタジアムとアメリカのJFKスタジアムの2ヵ所から世界約130ヵ国にリアルタイムで衛星中継されたオンラインフェスの原型。日本はもちろん、世界各国から多数のアーティストが中継で出演しました。今回の『MUSERフェス』も同様に、海外勢は現地からの遠隔配信となります。海外アーティストの招聘が難しい今は、国境を超えたパフォーマンスを届けられる配信の強みが最大限に生きるタイミングだと考えています」

■配信ライブ=儲からない? 「寄付ではあるけど“見返り”もある」

 初主催の配信フェスとして注力する『MUSERフェス』は、リアルフェスさながらの熱狂を体験できる映像表現に挑戦。配信ライブを機にアーティストの活動を支援する試みにも力を入れるという。

「CDが売れなくなった一方でストリーミングが徐々に拡大し、国内音源市場も海外市場と同様に回復の兆しを見せつつあります。ところがストリーミングによってアーティスト自身に入る収益は微々たるもの。CDとは比べ物になりません。だからアーティストにとって、ライブでの収益はより重要性を増すようになってきました。だけどリアルライブはキャパに上限があります。そこでリアルライブに配信ライブを加えれば、アーティストの収益のプラスになるし、いろんな事情で会場に足を運べないファンにとってもうれしいのではないかと考えたのが『MUSER』の成り立ちでした」

 ところが、このコロナ禍でリアルライブができなくなった。しかし配信ライブのチケット代は、リアルライブよりも低く設定されるケースが多い。これも配信ライブだけでは収益が成り立たない要因のひとつだが、そこを補完するべく多くの配信プラットフォームでは「投げ銭」システムを取り入れている。とは言え、ここにも課題はあるようだ。

「投げ銭という応援カルチャーは以前よりネットにありましたが、コロナ禍の初期にはライブができずに苦境に立たされたアーティストを支えようとかなり盛り上がりました。ところが“コロナ慣れ”とともに、投げ銭の総額はどんどん減少傾向にあります」

 そもそも投げ銭は見返りを求めない寄付のようなもの。払っても払わなくても同じサービスが提供されるわけで、ユーザーに無償の愛(+経済力)がないと成り立たないシステムなのだ。

「投げ銭をアーティストの持続可能な活動を支えるものにするためには、発想を進化させなければいけないと考えました。『MUSER』では投げ銭に応じて、特別な体験やアイテムといった特典をアーティストのみなさんに提供していただいてます。つまり寄付ではあるけれど、見返りもある。“ふるさと納税”に近い感覚ですね。これによって一般的な配信ライブでは視聴者の10人に1人が投げ銭をすれば成功だとされていますが、『MUSER』では平均で2人に1人と高確率で投げ銭が集まるようになりました」

■「投げ銭」収益は“今後のライブ主催者”に還元、フェス開催の意義

 なお『MUSERフェス』の投げ銭については個々のアーティストに還元されるのではなく、フェス全体の収益も含めて、ライブ主催者を支援するための『#Music Lives Matter 基金』の設立に活用される。今後のライブ(配信/リアル)の制作費として、申請は音楽ライブの主催者であれば個人・法人問わず誰でも可能だ。

「本フェスはLIVE AIDのチャリティ精神にのっとったもので、アーティストのみなさんの賛同もあって実現しました。DMCもRun-D.M.C.の初期に出演した『LIVE AID』に深い思い入れがあると、本フェスにも快諾してくれました。僕自身も大ファンなので、彼の出演が決まったときにめちゃくちゃうれしかったですね」

 アメリカに拠点を置く配信プラットフォーム『LiveFrom』と連携し、アメリカ、イギリス、ドイツなど世界7ヵ国にリアルタイム配信されるのもLIVE AIDのスタイルに近い。とは言え、「当初思い描いていた形が完全に実現したわけではない」と次呂久さんは語る。

「もともとは『LIVE AID』と同じような、リアルライブと配信ライブのハイブリッドを構想していたんです。各国の会場では現地のアーティストがリアルライブを行い、それを配信でリアルタイムに世界と繋いで、家やパブリックビューイング会場で観られるような。わりと早い段階で難しそうだと判断し、完全オンラインに切り替えられたのはタイミングもよかったのだと思っています」

 今は「配信ライブはリアルライブの代替え品」と捉えている人が多いかもしれない。しかし配信ライブのシステムはこれからますます成熟していくだろう。リアルライブの喜びはいつの時代も変わらないが、配信ライブならではのシステムを存分に活用すれば、リアルとはまた別の熱狂を届けることができる。そんなマインドを持つアーティストや主催者が増えれば、ライブはさらに豊かで楽しいものになるに違いない。