「ボンバーヘッド」の愛称で知られ、恵まれたた体格と勝負強さを持ち味として、横浜Fマリノス、および日本代表として長年活躍した中澤佑二。現役引退後はラクロス指導者やタレント活動を行っているが、27日より劇場公開中の映画『スペース・プレイヤーズ』では、吹替声優に初挑戦。活躍の場を広げる中澤が、“この夏の三大名(迷)勝負”を振り返る。

【動画】モヒカン頭のレブロンは映像の最後の方に登場

■“世界との差”を感じた東京五輪 スペイン戦&3位決定戦

――1つ目は、東京2020オリンピックサッカー男子・準決勝、日本対スペイン戦(8月3日)。2012年のロンドン大会以来、2大会ぶりにベスト4に進出となりました。延長戦にもつれ込む120分の激闘の末、日本は0-1で敗れ、史上初の決勝進出はなりませんでした。

【中澤】日本は予選リーグ全勝で、非常にいい形で決勝トーナメントに進んで、「目標は金メダル」と言ったからには、スペインに勝たなければいけなかったし、勝つつもりで臨んだ試合だったと思います。試合は0 - 0のまま決着がつかず、延長戦でスペインに1点を決められ負けたと言うと、善戦したようにも思えますが、120分を通して、どの局面においても“世界との差”を感じた試合だったと思います。

 ピッチの上で選手が肌で感じるスピードと、ピッチの外から目で見るスピードはだいぶ違うものです。日本と世界との差が目に見えてわかったということは、プレーしている選手たちはより敏感に感じたと思います。全然違うな、まだまだなって。

――2つ目は3位決定戦のメキシコ戦(8月6日)。53年ぶりのメダル獲得を期待していたんですが、1-3で敗れてしまいました。

【中澤】メダル獲得への期待は大きかったと思います。それだけに、やっぱり日本のサッカーはダメじゃないか、メダル取れなかったじゃないか、と落胆した方もいたと思うんですけど、評価できることもたくさんあった。予選リーグを全勝で突破したことも進歩だったと思うし、ベスト4に入ったわけですから。

 久保建英選手がいて、堂安律選手がいて、冨安健洋選手がいて…オーバーエイジの吉田麻也選手がいて、日本の選手も成長しているけど、ほかの国の選手だって同じように、いや日本の選手以上に成長している。世界のサッカーは日々アップデートしていっているんだ、というのを目の当たりにして、みんなの目が覚めたのがメキシコ戦だったと思います。

――日本のサッカーに何が必要だと思いますか?

【中澤】昔に比べたら海外移籍がしやすい環境になって、海外でプレーする選手が増えました。日本の選手の個々のレベルは以前より上がっていると思うんですが、スペインにはすでにA代表で活躍している選手も多くいましたし、所属先のチームで中心選手として活躍している選手もたくさんいます。それが世界との差。ヨーロッパのトップリーグで”こいつがいないと駄目だ、代わりはいない”と思われるくらいチームの要として活躍するような選手が日本から何人も出てくるくらいにならないと、日本のサッカーのレベルが上がったと言えるところまでいかないのかなって思いました。

 決勝トーナメントを勝ち上がっていくことについても、個の力で海外の選手と対等に戦える局面が増えていることは評価できるけど、そこからいかに得点につなげるか、試合で勝ち切るにはどうしたらいいのか、ってことですよね。個の力を試合の中で最大限に発揮できるチーム力、総合力も必要だと、優勝したブラジルやスペイン、メキシコを見ていて感じました。

 日本代表や海外で活躍する選手に憧れてサッカーを好きになる子は多いと思います。僕もその一人でした。今回の五輪代表を見て、自分も頑張ろうと思ってくれた子どもたちは少なからずいると思うので、これからが楽しみであることは間違いないです。

■映画のエンドロールに名前が載るという夢だった

――最後の3つ目は、NBA史上最強のプレイヤーと呼び声の高いバスケットボール選手レブロン・ジェームズと対戦した試合です。

 レブロン・ジェームズが主演する映画『スペース・プレイヤーズ』では、映画スタジオの巨大なサーバールームに迷い込んでしまったレブロンと息子のドムが、誰もが一度は見た事のある有名なキャラクターが存在する究極の《無限バーチャル・ワールド》で、AI が作り出した最強デジタルチーム・グーンスクワッド【最強の殺し屋軍団】と対戦。

 中澤さんは、NBAのプレーオフでレブロンと対戦した経験がある、オールスター出場6回のスーパープレイヤー、デイミアン・リラード選手が演じたクロノス役の吹替を担当。対戦相手の動きをスローモーションにする“ディム・タイム”という秘技を操り、レブロンと名(迷)勝負を繰り広げました。

【中澤】(レブロンは)サッカー界でいうならクリスティアーノ・ロナウド。(アフレコでは)実際にレブロンと対決しているような気持ちになれました。マイケル・ジョーダンのドリームチームに熱狂した世代でもあるので、サッカーをやっていなかったらバスケットボールをやっていたかもしれないくらい大好きです。体育の先生に、サッカーでプロを目指していると言ったら、「やめたほうがいい、バスケの方がセンスがある」と言われた衝撃はいまも覚えています。確かに、バスケは見様見真似でもできたけど、サッカーは全然できなかった(笑)。

――それでもサッカーを選んで続けたんですね。

【中澤】さっきの話ではないけど、ワールドカップで活躍している選手に憧れて、ワールドカップに出るという目標を持つことができたので。練習がきつくても頑張るモチベーションがワールドカップでした。

――そのワールドカップには2006年ドイツ大会と10年南アフリカ大会に出場。夢をかなえたんですね。

【中澤】実は、映画も好きで、密かに憧れていたエンドロールに名前が載るという夢が今回、かないました。

――吹替をやってみていかがでしたか?

【中澤】映像に合わせてせりふしゃべるなんて、初めての経験でしたし、緊張しかなかったです。自分なりにキャラクターの気持ちになって、せりふを言ったつもりなんですけど、出来上がった吹替版を見たら、プロの声優さんとの違いに愕然としました。僕はサッカーしかやってこなかったんですけど、引退してからいろいろなお仕事の機会をいただいて、いろいろなプロの方と出会うことが増えました。今回も勉強だと思って、引き受けたんですけど、やってみないとわからないことって多いですし、やってみて気づくこともある。それを今後の自分の人生に活かしていきたなと思っています。

――映画の感想は?

【中澤】面白かったです。まず、レブロンの家がデカい(笑)。一流のバスケットボール選手になったレブロンが、自分の息子たちにもバスケットボール選手になってほしい、と思う気持ちはわかるし、ほかにやりたいことを見つけてしまった子どもと、どう折り合いをつけていくか、というのはリアルにある話だと思う。僕も父親にプロサッカー選手になることを反対されて、揉めましたから。だけど、僕は自分のやりたいことを押し通した。

――今は中澤さんが父親でもありますよね。

【中澤】娘が2人いるんですが、彼女たちがやりたいことと、自分の思いにギャップがあったら、この映画のレブロンのように悩むかもしれないけど、僕自身がやりたいことをやってきた人間なので、娘たちが本気でやりたいことならその夢を100%応援したい。親の思いもあるけど、子どもの気持ちにちゃんと向き合うことの方が大事。この映画が親子のコミュニケーションのきっかけになったらいいなと思います。