今年2月に公式ブログで自身がトランスジェンダーかつアセクシャル(無性愛/他者に対して恋愛感情・性的欲求を抱くことのないセクシュアリティ)であることを告白した、モデル・俳優の中山咲月。これまでもドラマ『中学聖日記』(TBS系)や『仮面ライダーゼロワン』(テレビ朝日系)などでジェンダーレスな魅力を放ってきた中山が、「男性として生きる」ことを宣言するに至ったきっかけとは? 自身のジェンダーを自覚したきっかけやカミングアウトに至るまでの葛藤について、直撃した。

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■女性として受けた取材に「気持ちが抑えられなくなった」カミングアウトまでの壮絶な苦悩

――トランスジェンダーかつアセクシャルであることをブログで発表された際、大きな反響がありました。ジェンダーに苦しんできた方からのコメントも多数ありましたが、そうした反響をどのようにとらえましたか。

【中山咲月】自分としては不安な気持ちがあったのですが、実はファンの方々は自分自身より自分のことを知っていてくれて。「やっと言えたね」「わかっていたよ」みたいに言って下さる方が多数いたことが嬉しくて、絆みたいなものを再確認できました。それに、ジェンダーに悩んでいるファンの方はもともと多かったのですが、「表に出る仕事をしている方でカミングアウトしている人は少ないので、勇気をもらいました」みたいなコメントがあり、思い切って言葉にして良かったなと思いました。

――そもそも告白しようと思ったのは、どんなきっかけからですか。

【中山咲月】実は自分がトランスジェンダーだとわかったのは、今年に入ってからなんです。コロナ禍でいろいろな映画を観ていた中で、生田斗真さん主演の映画『彼らが本気で編むときは、』にたどり着いて。カミングアウトの難しさを題材にしている作品で、観終わった後にすごく苦しく、なんともいえない気持ちになったのですが、その気持ちが何なのか突き詰めたときに「あ、自分もそうかもしれないな」と、初めて自分の心がわかったんです。

――「明日が来るのが怖くて眠れない時期を過ごした」とも聞きました。

【中山咲月】映画を観て、自分がトランスジェンダーだからこんなにも辛いんだと明確にわかってからは、気持ちが抑えられなくなって。明日が来るのが怖くて、不眠症気味になって。お仕事のインタビューなどで「女性だけど〇〇」みたいなことを聞かれても、その場では我慢できるのですが、家に帰ったあとに全部あふれ出ちゃって。一緒に住んでいる友達に止められなかったら、今、生きていないと思います。実際、半分死んでいるような状態で何ヵ月か生活していたんです。簡単に逃げることができないんだと思ったし、死にたいという感情が初めてわかったんですよね。

――止めてくれたお友達にも相談されていなかったんですね。

【中山咲月】はい。でも最初のカミングアウトはその子にしました。「知っていたよ」と言ってくれて救われました。友達は自分のことを性別関係なく、一人の人間として扱ってくれていて、自分の逃げ道を作ってくれていたとも思いました。

■「嘘をついていたのは自分に対してが大きい。自分が女だと気づかないようにしていた」

――「メンズファッションが好き」と言っていたことなどについて「嘘をついていた」ともお話しています。そうせざるを得ない背景には何があったのでしょうか。

【中山咲月】嘘をついていたのは、自分に対しての部分が一番大きいんです。最近思い返してみると、自分を女だと思ったことは今まで一度もなかったし、たぶん怖くて、わざと気付かないようにしていたんだと思います。例えば服に興味を持ち始めた小学生くらいの頃から、パンツスタイルが好きでしたが、親はスカートを勧めますし、小さい頃から友達と話が合わなくても無理やり周りに合わせていたところはありました。その一方で、昔から『仮面ライダー』などはずっと好きで観ていて、確かに男の子みたいだなと思うことは多いですね。

――告白について、ご家族や事務所の方はどんな反応をされましたか。

【中山咲月】実は家族にはまだちゃんと伝えられていなくて。家族も大変な時期だったので、今後の方針などがもう少し固まってから話そうと思っています。それから、事務所に伝えるまでも、すごく時間がかかりました。「自分は普通じゃないんだ」という落胆がすごく大きかったし、周りに迷惑がかかるだろし、仕事への影響もあるだろうし、何ヵ月間か言えずにいたんです。それで、本当に限界になったとき、友達に「死ぬくらいなら全部投げだして、わがままになっていいんじゃないの? 今すぐ電話しな」と言われて、マネージャーに電話しました。その後、どんなことを自分が言ったのかは全然覚えていないですが、「今後は一緒に考えながら、中山咲月という人間を伸ばせる活動をしていこう」みたいなことを言われました。

――そこからブログでのカミングアウトになるわけですね。

【中山咲月】はい。実はブログは以前から、非公開の状態で、感情があふれ出たときにそのときの感情を書き溜めていたんです。

――今はジェンダーについて公表する著名人などもいて、昔より多様な性理解が広がってきていますが、そういった印象はありますか。

【中山咲月】確かにここ1年くらいで変わってきた気はします。1番大きく変わったなと思うのが、当事者のカミングアウトだけでなく、当事者じゃない人たち、生まれた性別と心が一致している方が言及するようになったことに大きな変化を感じます。

■体も徐々に男性へと変化「特別扱いではなく、男性と同じ土俵で戦っていきたい」

――9月に刊行されるフォトエッセイ『無性愛』(ワニブックス)では「中性的じゃ足りない、もう男でいさせてください」という、かなりセンセーショナルなキャッチをつけていますが、中山さんの理想の男性像とはどういうものでしょうか。

【中山咲月】明確に目標とする人はいませんが、昔から「内面がかっこいい人になりたい」と思っていて。今は男性・女性の境目が良い意味でなくなってきているので、性別関係なくかっこよくありたいというのが自分の理想です。内面が素敵だったらそれがきっと表に滲み出てくると思うんですよ。なぜそんなにも内面にこだわるかというと、実際に自分が男性と同じ土俵で戦うときに、身長とか男らしさとか、どうしても足りない部分がたくさんあると思うから。内面のかっこよさだったら負けないぞと言えるように、内面を磨いていきたいです。

――タイトルを『無性愛』としたのはなぜですか。

【中山咲月】トランスジェンダーはクローズアップされることが多いですが、「無性愛」はまだまだ認知されていなくて、実は今一番自分が苦しみを感じる点なんです。理解してくれなくても良い、そういう人がいるのだと知ってほしいという想いを込めてタイトルにしました。

――改めてどんな想いをこの本に込められたのでしょうか。

【中山咲月】「男だからこうしろ」「女だからこうしろ」といったことだけでなく、世間でカテゴライズされて決めつけられて、やる気をなくしたり、傷ついたりする人はたくさんいると思うんです。ジェンダーに悩む人だけでなく、そうした悩みを抱く人にはぜひ読んでほしいです。自分は慰められることがすごく苦手で、本当に限界のときには慰めの言葉が全く響かないことを身をもって知ったので、「一緒に頑張っていこうね」と伝えたいんです。

――体も少しずつ変化させているそうですね。

【中山咲月】自分で頑張るには限界があるので、少し医学に頼りながらバランスも保ちつつという感じですね。以前に比べて声も低くなってきました。最初は声変わりすると、もう元に戻れないので、不安もあったのですが、むしろいろんなことに前向きになれたし、今の自分が好きなので、間違ってなかったなと思います。

――今後改めて「中山咲月」として、どんな活動をしていきたいですか?

【中山咲月】男性として生きていくと決めたので、特別扱いではなく、男性と同じ土俵で戦っていきたいし、俳優業もやっていきたいし、歌にも挑戦してみたい。アニメも大好きなので声の仕事もやってみたいです。やりたいことが増えた分、これから新しい姿をいろいろお見せできるようになれればと思ってます。

(取材・文/田幸和歌子)