猫たちの保護を行っているNPO法人『ねこけん』には、さまざまな猫たちがやってくる。なかには、飼い主がいるにも関わらず、人間の都合で「引き取ってほしい」と依頼されることもよくあるそうだ。“居場所”をなくしてしまった猫たちはどうなるのか? その後について、代表理事・溝上奈緒子氏に聞いた。

【写真】「まるで別猫!」不安で鳴き続けた風子、今では幸せいっぱいにゴロゴロ…新たな家族と暮らす風子

■飼い主の離婚で居場所をなくす…、二晩鳴き続けた猫の運命

 風子は、ある夫婦によって飼われていたアメリカンショートヘアの猫。目がクリクリっとしていて、とっても可愛らしい美人猫である。だが、そんな夫婦はやがて離婚することを選択。風子は元妻が引き取ることになったが、しばらくして元妻は「猫を飼えなくなった」という状況に。すでにペット不可の物件に住んでいた元旦那は扱いに困り、『ねこけん』に相談したという。

 「猫を飼うならペット可の物件に住む、これは当たり前のこと。離婚には事情があると思いますが、飼い猫まで巻き込んでいいということではないと思います」と溝上氏。「自分で飼い始めたのに、自分の都合で『引き取ってほしい』と言ってくる依頼は、本当に多いです。すでに猫を飼っているにも関わらず、ペット不可の団地に引っ越しをしてしまった、という事例もあります。一体何を考えてのことなのか…、困惑するケースが多々あります」。

 環境の大きな変化は、猫にとっても大きな負担となる。特に、愛する飼い主と離れ離れになるとき、そのストレスは計り知れない。上記の元夫婦に事情があったことは理解できるが、傷つくのは猫のほうだ。

 「うちにきたとき、風子ちゃんは何日もご飯を食べず、二晩鳴き続けました」と、溝上氏は保護当時の様子を語る。はじめは隠れてしまい、なかなかボランティアメンバーの前に姿を現さない。きっと、なぜ家族が迎えにこないのか、必死に呼んでいたのだろう。

 そんな風子だったが、預かりボランティアの献身的なお世話もあり、徐々に環境に慣れていった。本来の甘えん坊の性格を見せはじめ、スタッフも本当に安心したという。しばらくして、風子は里親とのトライアル期間を経て正式な家族として迎え入れられ、『ねこけん』から巣立っていった。風子に付けられた新たな名前は、「凪」。波が穏やかなことを表す言葉だ。この言葉が表すように、ずっと安心して暮らせる穏やかな心を保ってほしいと願うばかりである。

 『ねこけん』で保護している中で最高齢と思われる『鈴』。以前、高齢夫婦から「自分たちで看取れる年齢の猫を家族に」との相談を受け、鈴はその家族に迎えられた。だが、鈴も年をとり、トイレではない場所におしっこをしてしまう回数が増えてきた。『ねこけん』からは可能な限り夫婦にアドバイスを送ったり、フォローをしたりしていたそうだ。

 しかし、鈴の面倒を見ていた夫婦は精神的に疲れてしまった。「ケージに入れるのは、かわいそうだから無理」「私も疲れてしまって」という相談から、しばらくしてついに発せられたのは、「引き取ってください」という言葉だった。高齢の夫婦にとって、猫の介助は想像以上の労力だったようだ。

 「猫は高齢になると病気にかかりやすくなるため、頻繁に病院へ連れていかなければなりません。もちろん、費用もかかります。迎えたときは幼い、若い猫ちゃんであっても、やがて年をとっていくのは必然。なにかあっても早期発見につながるように、動物病院で健康診断も受けさせてほしいです」

 猫の譲渡を希望する人は後を絶たないというが、若い猫もいずれ年をとっていくことを、理解しなければならない。愛情を持ち、最期まで家族の一員として暮らせるのか。溝上氏は、理想だけでは猫の命を守ることはできないと語る。

 「しっかりと現実を踏まえ、未来を見据え、最期まで家族として暮らせるよう、譲渡の際も厳しすぎると言われるほどの条件を設けています。例えば、『ねこけん』の規定では60歳より高齢の方には子猫を譲渡していません。猫と一緒に人間も高齢になっていくので、そういうことも考えてルールを設けさせていただいています」

 鈴は再び『ねこけん』で保護され、生きていくことになった。腎臓が悪くなっているので、この先、点滴や投薬が増えていくかもしれないが、可愛い家族として、メンバーが鈴の世話を続けていく。

 猫を家族に迎えるということは、命を迎えるということだ。その子がどんな状態になっても、家族として変わらぬ愛情で世話をすることは当たり前だし、飼い主にはその責任がある。『ねこけん』で保護猫を受け入れるときは、「必ずみんなを幸せへと送り出す」と、猫たちと約束をしている。その幸せが続くことを、メンバーたちは願っている。