漫画家・茅原クレセ氏は、スマホアプリ『マンガワン』で、鳥取から全国1位のキャバクラ店を目指す『ヒマチの嬢王』(小学館)を連載する一方、SNSでもキャバクラにまつわる漫画を毎日投稿。『ガチ萌えしたキャバクラボーイの話』が13.7万いいねを獲得するなど話題となっている。以前から『嬢王』(集英社)などさまざまなドラマ、漫画で描かれ、最近では、『アメトーーク!』(テレビ朝日系)のトークテーマになるなど、“キャバクラ”はさまざまな形でコンテンツ化されている。ではなぜ、“キャバクラ”はエンタメから注目されるのか。茅原氏に漫画の裏話と、昨今の“キャバクラ”コンテンツの変化について話を聞いた。

【漫画】おじいちゃんボーイの一言一句にキュン…「ガチ萌えしたキャバクラボーイの話」

■キャバクラ勤務で才能が開花の作者「自分に向いていそうな世界を見つけられた」

「小学生の頃からずっと漫画家になりたかったんですが、現実は厳しいので、いったん医療系の職に就こうと思い、免許もとりました。でも、漫画家を目指さずに終わるのは嫌だと思い、両親に相談して『3年だけ』という期限付きで上京したんです。でも、生活のためにお金を稼がなければいけないので、漫画を描きながら同時にキャバクラでも働き始めました」

 最初は生活のために“キャバクラ”を始めたという茅原氏。しかし、それが漫画のネタにつながっていく。

「キャバクラで働く前にも、飲食のバイトや病院実習とか、いろいろやったんですけど、どれもこれも叱られてばかりの劣等生でした。でも、キャバクラで働くようになって褒められることが多くなったんですよ。成績も初めていい方になって、ちょっと図に乗ったところもありますが(笑)、キャバクラがシンプルに好きで。社会で生きていけないと思っていたので、自分に向いていそうな世界を見つけられたことが大きいです」

 漫画の方も、『マンガワン』の投稿トーナメントをきっかけに声をかけられ、そこから『ヒマチの嬢王』の連載がスタート。“ファンタジー”の世界を描きながら、経営者目線のビジネスモノの漫画としても幅広い世代から支持され、現在単行本9巻まで発売されるほど人気を博している。

■控室では「ヌーブラ」談義…殺伐とした雰囲気は無くほとんどのキャバクラは平和

 そんな茅原氏は、毎日21時にキャバクラにまつわるツイートを投稿。そこで描かれるものは、キャバクラで実際に働いて見た自身の経験がもとになっているが、それは、これまでキャバクラコンテンツで描かれてきた、いわゆる“劇場型”とは少しテイストが異なる。

「お互いに足を引っ張り合うナンバーワン争いとか、お客さんの取り合いとか、女同士の骨肉の争いみたいなのをイメージされると思うんですけど、あれはごく一部だと思います。新宿歌舞伎町など繁華街のトップのほうではあると思いますが、たぶんそれは全体でも少数。私が経験した店の多くはガツガツした感じはなく、のほほんとしていました。実際、待機室で女の子同士が会話したり、更衣室で『ヌーブラはこれが良いよ』なんて話もするくらいです(笑)」

 とはいえ、お酒を飲む場所であるため、本音で接してくる人が多く、人間の“裏側”を見ることもたくさんあるそうだ。

「ツイッターのほうで、すごくバズったのは、『あんまりよくないお客さんの発言』ですね。例えば、『女は良いよな。いざとなればキャバクラか風俗すれば良いんだよな』みたいな言葉を、あまり清潔感のないお客様に限って言ってくる。身だしなみに気をつけているような人は言わないという話(笑)。それと、共感が多かったのは、アフターに誘われて、『私、朝早いし』と断ったら、『俺も朝早いから大丈夫だよ』と言われるとか。いやいやいや、関係ないから!(笑)。『私もそういう経験した』という声は多いですね。また、すごい借金をしながら通い続けるお客さんがいる、なんて話も聞きます」

 こうしたツイートは共感の声をもらう一方で、攻撃的なリプライも増えるため、実はあまり描きたくないと語る茅原氏。そうした思いから生まれたのが、ツイッターでの「ガチ萌えしたキャバクラボーイの話」だ。

「ボーイさんたちは、みんなスーツを着ていると礼儀正しいのに、スーツを脱ぐと途端に普通の人になるとか。そういうギャップが好きなんです。ボーイさんに限らずたとえば、金髪でグラサンかけている一見、“輩(やから)客”(反社や反グレのような客)のような人たちが来店した時、オラオラで上から嫌なことを言うと思っていたら、『女の子は緊張しちゃうけん、そんな見んで』みたいに可愛いことを言うとか。ありがたいことに、そういう何げないキャバクラでの日常が受け入れられていますね」

 当初、フォロワーが1万人行くまでのつもりだったが、この投稿を始めてからフォロワーが急増。今では4.5万人が茅原氏の投稿を待っている。

「嬉しいですが、完全にやめどきを失ってしまっています(笑)。作画には毎日2時間くらいかかりますが、その労力よりも、ネタが尽きないかが毎日怖いですね。キャバクラでは2年くらい働いていて、そのときのストックを出しているかたちですが、今は漫画で手一杯でキャバクラは辞めてしまったので、そろそろネタが枯れてきたなと(笑)。ただ、ユーザーの方からの声で思い出すことで、なんとかなっている感じです」

■“劇場型”コンテンツで描かれた誤解をキャバ嬢に代わって解きたい

 昨今、キャバクラを題材にしたコンテンツが多くの人に受け入れられ、求められるのか。茅原氏は次のように分析する。

「キャバクラは自分が積極的に関わろうとしないとわからない世界。ちょっと怖そうだけど、ノーリスクでのぞいてみたいというのが本音だと思います。その野次馬目線が、多くの人たちに求められているのかなと」

 知らない世界を覗いてみたいという好奇心のある読者に対し、茅原氏は漫画を通じ、キャバクラのリアルを知らせる一方、正しい楽しみ方を啓蒙するという意図も込めているという。

「いろんなドラマや漫画の影響で『枕営業をすぐしてくれるんでしょ』といった誤解をしているお客さんも多いと現役キャバ嬢が嘆いていることもあります。私はマンガで描いているのは良いお客さんが多いんですが、それは、読者層が主に30代の男性なので、『キャバクラではこういう楽しみ方をするのが普通だよ』と見本を示したい、という意味もあるんです。実際は嫌なお客さんもいるので、私が描いていることがすべてではありませんが…」

 ナンバーワンを目指す骨肉の争いのような従来の“劇場型”のド派手なコンテンツから、控室やボーイさんとの何げないやり取りなど、地味ながらも人間味あふれるコンテンツへの変化が、現代の読者に共感や親しみを抱かれ、ヒットの要因になっている。加えて昔から変わらない、安全な場所からまだ見ぬ“ちょっと危険かもしれない世界”をのぞき見たいという読者の欲求が、“キャバクラコンテンツ”をより強固なものにさせているのではないだろうか。

 コロナ禍のなか、キャバクラが攻撃対象になりがちな現状について、茅原氏は心を痛めているというが、一方で茅原氏の漫画を楽しみにし、「コロナ禍で大変だけど、漫画を読んで元気が出ました」などのメッセージを送ってくる人もいるという。こんなご時世だからこそ、“キャバクラコンテンツ”の需要がさらに高まっている。

取材・文/田幸和歌子