「夕日を1ドットにする実験。」という文とともに投稿された写真がTwitterで話題に。写真は、夕日の風景が小さな水晶の中でドット絵となって映しだされた一枚で、「心めっちゃときめく!」「発想に感動」「欲しい!」と大きな反響を呼んでいる。実はこの水晶、投稿主・ものりさん(@Hakusi_Katei)が、コンセプトとデザインを企画し製作したもので、“周辺の景色の解像度を下げてドット絵化”する『ピクセルミラー』というツールだ。なぜこのようなツールを作ろうと思ったのか、作者のものりさんに話を聞いた。

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■コンセプトは「デジタルとアナログの間」、“天然のドット絵ツール”の反響は「ここまで予想はしてなかった」

 『ピクセルミラー』は、ドット絵になるよう凸レンズの型を応用しカットされた水晶でペンダントとして身に着けられる。通販サイトBOOTHにて30個(15,000円)で限定販売したところ数秒で完売となるほど反響を呼んだ。

――『ピクセルミラー』のコンセプトを教えてください。

【ものりさん】コンセプトは「アナログとデジタルのあいだ」です。アナログな石(水晶)のみで覗き込んで風景の解像度を下げる、コンピューターを使わない天然のドット絵ツールです。

――Twitterでは「科学なデザイナー」と自己紹介をされています。どのようなご活動をされているのでしょうか?

【ものりさん】材料の科学博士であり、デザイナーです。「科学」と「デザイン」を組み合わせる活動を学生の頃から行っています。今回は、山梨の宝石研磨会社である「依田貴石」さんと共同で『ピクセルミラー』を製作しました。

――『ピクセルミラー』も研究との関わりのなかで製作されたものですか?

【ものりさん】もともとガラスやプラスチックなどで、「材料の形を100万分の1ミリの世界で組み立てて面白いものを作る」という研究を行っていました。『ピクセルミラー』は直接その研究に関わってはいませんが、「材料の形を変えて新しい体験を作る」という意味では、やっていることは変わらないですね。

――限定販売があっという間に完売したとのこと。反響は予想していましたか?

【ものりさん】ここまで受け入れてもらえるとは、正直予想していませんでした。ツイートを見ていて、小学生くらいの方から高齢な方まで幅広く反響をいただけたことに、特に驚いています。

――“風景の解像度を下げるツール” の製作は、どのようなきっかけで思いついたのでしょうか?

【ものりさん】6年前より「Pixel Art Park」というドット絵のオンリーイベントを有志で運営しています。このイベントの催し物として、何かツールを使って来場者の方たちを全員「ドット絵」にできないかと思ったのが始まりでした。

――とても面白い発想ですね。

【ものりさん】その後、宝石研磨会社の依田貴石さんと一緒にお仕事をする中で、古くから宝石に使われる「Opposed bar cut(通称:ピクセルカット)」という加工法を知り、それを透明な材料に施してレンズの形に調えてあげれば、覗き込んだもの全てをドット絵にできるのではと考えました。

――開発研究には数年かかったそうですが、製作するうえで特に苦労した点は?

【ものりさん】最も苦労したのは、「ドットに見えるようにする」ことでした。石のみという恐ろしい制限のなか可能な限り風景を「ドット絵」にするには、水晶を傷つけないような形状の研究や、依田貴石さんの機械を使わない「伝統の手擦り技術」が必要でした。ほかにも、あらゆる山梨の伝統技術を巻き込み、依田貴石さんと一緒に試行錯誤しました。

――投稿には「美しい」「心ときめく」「マインクラフトの世界」といった声が寄せられました。ものりさんが感じる“ドット絵”の魅力とは?

【ものりさん】マス目の制限の中で、制限のない、色んな解釈ができるものを作れることに魅力を感じています。今では色んなものが「リアル」になりましたが、かつてのゲームの中で、カクカクな背景やキャラクターたちにあんなにも感情移入をして強いリアリティを感じたのは、きっと自分だけではないと思います。

――確かに、ものすごくハマりました。

【ものりさん】ドットのマス目にない部分を、物語や自分の中の想像力が補ってくれるから、なぜかリアルに感じるし、何より解釈を押しつけられていない感じがするんです。型にはまっているけど型にはまらない、そんなところにドット絵の魅力を感じています。

――写真に対して「現代はこれくらいの解像度で見えている方がマシ、という批判を感じる」といったコメントも。実際にはそのような考えはありましたか?

【ものりさん】作品のコンセプトにも関わるところなので、このコメントはとても嬉しかったです。今の世の中では「便利」がなんとなく一方向な気がしていて、なんでも見えすぎたり聞こえすぎたりしていると感じています。これ以上「便利」になっても、世界の画素数が上がっても、自分には「これくらいの解像度で世の中と触れ合っていたい」という思いがあります。

――便利すぎる世の中に疲れを感じている人は多そうですね。

【ものりさん】あらゆるものがデジタルで高解像度な世の中で、あえてアナログで低解像度の便利ではなく不便なツールを作りたいという思いも強くありました。例えば「視力の良くなるレンズ」はあっても「視力が悪くなるレンズ」は、まるで当たり前のように生まれていなかったり、普及していなかったり。便利な人、便利すぎる人を、あえてちょっとだけ不便に面白くする道具だってあっていいはず。そんな思いを『ピクセルミラー』の内側にこっそり隠してあります。

――『ピクセルミラー』のおすすめの使い方やシチュエーションはありますか?

【ものりさん】ツールであり水晶のペンダントでもあるので、家の中や外でいろんなものをピクセル化してみたり、単純にアクセサリーとして身に着けたりと、使い方は本当に自由です。個人的には、青空や夕焼けなど、自然のコントラストを覗いてドットにするのがとても好きです。まだわかっていないことも多い作品なので、むしろ購入された方にいろいろ実験していただいて、おすすめの使い方やシチュエーションを教えてもらいたいですね。

――これからの展開が楽しみですね。

【ものりさん】『ピクセルミラー』は実はまだ始まったばかりで、現在も大型にしたり変形したり色をつけたりと研究を行っています。映像作品や展示など、何かほかにも面白い使い方があるのではと考えていて、今後は自分も遊びながらいろいろな可能性を探っていきたいと思っています。

――現在は完売中の『ピクセルミラー』ですが、今後の再販は予定していますか。

【ものりさん】6月後半を予定しています。以後、月に1回のペースで販売できたらと思っています。詳細はTwitterにて発信しています。

――伝統技術と科学のコラボレーションについては、今後も検討されていますか。

【ものりさん】依田貴石さんの「手擦り研磨」のような日本の伝統技術など、材料にまつわる技術にとても興味があり、今後も色々と関わっていけたらと思っています。科学やデザイン、SNSを組み合わせたりして、まだ世界にない新しい体験を今後も発信したていきたいですね。