九十年の生涯で描いた作品三万点以上、江戸時代に活躍した天才絵師・葛飾北斎。その人生を題材にした映画『HOKUSAI』(公開中)。後に「北斎ブルー」と呼ばれ、彼の風景画を象徴する色ともなった「ベロ藍」の美しい色合いを見つけた北斎(田中泯)が、雨の中で歓喜の舞いを始めるシーンの本編映像が解禁された。

【動画】映画『HOKUSAI』「ベロ藍」誕生シーン

 新千円札のデザインやパスポートに採用されるなど、北斎の代表作「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」もこのベロ藍あってこそ生まれた作品。ベロ藍は18世紀初頭、ドイツ・ベルリンの染料業者によって偶然できた合成顔料。日本には延享4(1747)年に初めて輸入されたと伝えられる。「プルシアンブルー」とも呼ばれるこの青色絵具は、発見された地名をとって「ベルリン藍」、省略して「ベロ藍」と呼ばれるようになった。

 北斎の人生に関する資料はほとんど残されていない中、現存する資料や史実、作品が生まれた年代などを繋ぎ合わせてオリジナル・ストーリーを紡ぎ、北斎の知られざる生涯を映画化。青年時代の北斎を柳楽優弥、老年期を田中が熱演している。

 流行り病や権力者による表現への弾圧など、決して自由とは言えない制約された状況でも、何ものにも屈せず、“自分らしさ”を貫き通し、心を削られるような困難が起こっても、「こんな日だからこそ描く」と筆をとり続けた北斎。

 解禁された本編映像は、青年期の北斎を演じた柳楽がイチ推しのシーンと語る、老年期の北斎が、青い絵の具(ベロ藍)まみれになって雨の中で歓喜の舞いを始めるシーン。実は当初脚本には舞を踊るという演出はなかったそうで、田中のアドリブであったと橋本一監督が明かしている。突然雨の中に飛び出したその様子に現場スタッフも驚嘆し、カットがかかると思わず現場は拍手に包まれたというエピソードも。ダンサーとして世界を舞台に活躍してきたる田中だからこそ実現できた奇跡の1シーンと言える。

 また、あるシーンの撮影では、「俺の中の北斎が逃げていってしまう!」という声が田中から漏れる一幕もあったそうで、まぎれもなく本作の中で、田中が北斎として生きた時間が存在していたといえるのではないだろうか。

 5月28日に公開されてから、SNS上では田中演じる北斎に「全てが葛飾北斎!」、「田中泯さんのダンスの様な美しい演技の表現には見惚れました」、「北斎が 宿ったかのような魂で演じていた」と、絶賛の声も上がっている。

 田中は、本作『HOKUSAI』とともに現在公開中の映画『いのちの停車場』にも出演しており、吉永小百合演じる主人公の父親役という重要な役どころを演じている。俳優デビューは57歳、現在76歳にして俳優として大ブレイクを果たしている田中は、まるで70歳を過ぎてから代表作「冨嶽嶽三十六景」を生み出した、葛飾北斎のようだ。