キャリアウーマンだった憧れの伯母の孤独死をきっかけに30代独身女性が終活に奮闘する漫画『ひとりでしにたい』(講談社)が、「笑える終活マンガ」として話題を呼んでいる。一見重いテーマに絶妙なギャグと現代社会へのシニカルな視点を織り交ぜ、『第24回文化庁メディア芸術祭』マンガ部門優秀賞を受賞した。主人公と同世代の作者・カレー沢薫に、「ひとりでよりよく死ぬための30代からの終活」について聞いた。

【画像】風呂場で衝撃的な叔母の孤独死…30代独身女性が婚活より終活を選んだ理由は?

◆終活を考える=前向きに生きること、現代は既婚未婚問わずひとりで死ぬ可能性が高い

──カレー沢先生は主人公・鳴海と同世代ですが、「30代からの終活」をテーマに漫画を描かれたきっかけを教えてください。

【カレー沢薫】 老後への漠然とした不安からいろいろ調べ始めたのがきっかけでした。私自身は結婚していますが、順当に行けばたぶん夫や親の方が先に逝くだろうと。またおそらくこの先も子どもは作らないだろうなと考えたときに、「私が最後にひとりになる可能性が高い」ということに気づいたんですね。

──同書では、「子どもが面倒を見てくれる老後なんて都市伝説」というセリフもあります。現代の30代にとって『サザエさん』や『ちびまるこちゃん』はもはや異世界なのでしょうか?

【カレー沢薫】 私より少し下の世代になると不思議な世界観に見えるかもしれません。いずれにせよ、現代は既婚でも未婚でも子どもがいてもいなくても「ひとりで死ぬ可能性が高い人」は多いと思います。また私は人付き合いが苦手なので、なるべく人に迷惑をかけずに済ませたい。そのために頑張ってお金を貯めればなんとか乗り切れるのでは…とリサーチしたのですが、残念なことにお金だけは解決できない問題が続々と出てきてしまいました。

──やはり親戚や友人といった身近な人々と繋がりが重要という結論に?

【カレー沢薫】 とは言え、私も含めてそれができない人もいます。だけどそういう人が「自分が理想とする死に方」ができないのは絶望的。「なんとかひとりでよりよく死ねないものか」という切実な思いで、情報を集めながら本作を描いています。調べれば調べるほど終活には気力も体力も必要ですから、やはり若いうちから準備を始めたほうがいいなと。むしろ“終活を考えること=前向きに生きることなのではないのか”とさえ思うようになりました。

◆どんな悲惨な状況も“オモシロ”に転換して描けるのが漫画

──SNSでも大きな反響を呼んでいますが、どんなコメントが印象的でしたか?

【カレー沢薫】 30代、40代の女性から「ためになった」という声を多くいただき、同じように考えている人はけっこういたんだなと実感しています。ただ本作に共感してくれたあるコメントに対して、おそらく男性だと思うんですが「終活より先に婚活だろ」といったツッコミを見まして、「ああ…」と。

──本作のテーマを誤解して受け取られてしまったと。

【カレー沢薫】 主人公・鳴海のお父さんのように昭和の考え方というか、自分の最期は妻あるいは子どもが看取ってくれるものだと盲信している男性もまだまだいるんだなと思いました。まあ、男性は男性で生きづらいことも多い世の中なので「親の介護」「お寺との関係」「自分の老後と終活」とかまで考えたくないのかもしれません。

──たしかに目をそらしておきたい現実ばかりです。そこを絶妙なギャグで包んで笑わせてくれるのも本作の魅力です。

【カレー沢薫】 どんな悲惨な状況もオモシロに転換して描けるのが漫画だと思うので、ユーモアは意識しています。ただ目をそらせばそらすほど面倒になることは多いので、そこも漫画を通じて伝わればいいなと。あとは「親に読ませたい」と言ってくれる読者も多いですね。介護や看取りについて親と話し合いをしようとしたら、「縁起でもない!」と一蹴された方も多いようで。こうした話題をカジュアルに話せる世の中になれば、もっと生きやすくなるんじゃないかなと思って描いているところもありますね。

──年下エリートイケメン・那須田くんは、鳴海に希望を与える存在なのでしょうか?

【カレー沢薫】 深刻な題材なので、多少は夢のある要素もあったほうがいいのかな? と思って投入したキャラクターだったのですが、当初、一部の読者には怒られました。「結局、オトコとくっついてハッピーエンドかよ」と。たしかに第1話はそう受け取られかねない終わり方だったのですが、描きたいのは恋愛ではなく、環境や価値観が違う2人がどのように終活を考えていくかなので、もう少し我慢して読み進めていただければありがたいです。

◆「自分がどのように生きたいか」を考えるのが終活の第一歩

──コスパ重視でミニマリストの那須田くんと、オタ活には課金を惜しまない鳴海。正反対だけど現代の20代から30代を映し出したような2人です。

【カレー沢薫】 だから終活の正解も1つではないんですよね。だけど今の時代は情報に溢れているので、どうしても振り回されてしまう。たとえば「豊かな老後のために友人関係を大切にしましょう」という1つの言説もありますが、私のように人付き合いが苦手な人がそれをやるとただただ疲れるだけで。「終活=よりよく死ぬ」ために生きづらい日々を生きるのも本末転倒ですし、まずは「自分がどのように生きたいか」を考えるのが終活の第一歩だと思います。

──現代はリアルの友人のほかにも、ネットを介した交流もあります。これからの終活のテーマにもなりそうですが、いかがですか?

【カレー沢薫】 大いにあると思います。何かと悪者にされがちなネット社会ですが、ネットが人間関係の最後の砦になっている人も多いはずで、私も確実にそうなんですね。やっぱり人間にとって同じ趣味や共感で話ができる相手はいてほしいもので、そこにリアルとネットの差はほとんどなくなっていると思います。孤独死が増えた原因の1つは、ひと昔前のようにご近所づきあいがなくなったことだと言われますが、ネットでも同じようなことが言えると思います。例えば、「しばらくSNSにログインがない」ことで異変に気付いてもらえるサービスなどがこれから必要になってくるんじゃないでしょうか。

(文/児玉澄子)