〈なんだか、楽になったわ。誰かと話すって心地いいのね。知らなかった〉と映画『シン・エヴァンゲリオン』のキャラクター、式波・アスカ・ラングレーのセリフを引用した境内の掲示板がSNSで話題に。埼玉県川越市にある最明寺の取り組みで「とうとう仏教まで世界観に入ってきたか」「お寺の住職さんエヴァ好きかw」と注目されている。ほかにも『鬼滅の刃』をイメージした花手水なども取り組んでおり、「埼玉の鬼滅寺」という異名も。こうした反響についてどう受け止めているか、また今後最明寺が目指している「お寺の在り方」について副住職・千田明寛氏に話を聞いた。

【画像】炭治郎の有名セリフも仏教との関連性が、『鬼滅』『エヴァ』King Gnuまで最明寺の掲示板一挙公開

■鬼にも合掌する心優しい炭治郎のふるまい「日本のアニメやマンガは仏教との親和性が高い」

「昨年、新型コロナの影響で世界は大きく変化しました。つらい時期だからこそ、少しでも人々を和ませる言葉を届けたいと思い、アニメのセリフを掲示板に貼ることにしました」

境内の掲示板はたびたびSNSで注目されるが、最明寺も例外ではない。アニメ映画『シン・エヴァンゲリオン』のキャラクター、式波・アスカ・ラングレーのセリフを掲載したところ、これがTwitterで拡散され1.9万RT、8.6万いいねを記録。お寺の掲示板にアニメの名言という斬新さが注目され、さまざまなメディアにも取り上げられた。このほかにも昨年には『鬼滅の刃』の主人公・竈門炭次郎のセリフ〈人のためにすることは結局巡り巡って自分のためにもなっているものだし〉なども掲載した。

「昨年取り上げた『鬼滅の刃』は、登場人物たちが、仏教で大切にしている合掌のポーズを取るシーンが多く登場したり、仏教の慈悲を感じさせる場面が数多く存在したり、仏教との親和性が高いです。

 一方、今回の『エヴァ』はキリスト教要素が多い作品ですが、たとえば4月に貼り出していたカヲルくんのセリフ〈縁がキミを導くだろう〉の〈縁〉は仏教でも大切にしている言葉です」

 掲示板に掲示する言葉は意外にも自由なんだとか。そういうこともあり、アニメや漫画のセリフを引用することも多いのだという。

「馴染みがあるアニメや漫画のセリフを引用することで、言葉の真意が心に入ってきやすいのではないかな、と狙った部分はあります。私自身マンガが大好きで、ずっと「少年ジャンプ」を愛読していることもあり、少年漫画が多いですが(笑)」

■LGBTQ仏前結婚式は海外からの問い合わせも「人の“死”だけでなく、“生”でも深く関わりたい」

 ほかにも、「LGBTQ仏前結婚式」を企画。今年4月にはLGBTQカップルYouTuber「PIGLETS」による模擬結婚式が行われ、県内のトップニュースにもなった。

「“LGBTQ”という言葉が日本にも浸透してくるようになった頃、全国の寺院シンポジウムでも、性的マイノリティの方々のお葬式の方法や戒名の問題について討議がなされていました。そんな折に川越で毎年開催されているLGBTQイベント『SAITAMA RAINBOW PRIDE』に参加しました。そこで初めてLGBTQカップルの方と知り合ったのですが、本当にどこにでもいる普通の恋人同士なんだというのが印象的でした。驚いたと同時に、自分にも彼らに対して少なからず偏見を持っていたことに気付かされました。

 彼らとはその後も交流を深めていきました。その時期にちょうど川越市が県内で2番目に『パートナーシップ宣誓制度』が制定したこともあり、伝統的な宗教施設からも何かお手伝いできることがないかと、2020年5月から、LGBTQ結婚式をスタートしました。結婚式を選んだのは、日本仏教のイメージが強いお葬式などの人の“死”だけでなく、“生”でも深く関わってみたいと思ったからです」
 
 結婚式への問い合わせは日本人のみならず、中国やオーストラリアなど、海外在住のカップルも多い。現在の日本ではあまりイメージのない寺での「仏前結婚式」だが、「実は相当歴史が古い」とのこと。「お寺は先祖を祀るところ」という先入観ゆえに、その取り組みは突飛に思えるが――。

「今の日本のお寺は、お彼岸やお盆の時に来る場所、お葬式のための場所というイメージが強く、若い人たちにとって“死に近い場所”というイメージが強くなってしまっているのではないかと思います。

 もともとお寺は、人々が生まれて、死ぬまでのトータルサポートをするための場所なのです。かつては地域の子どもたちのために寺子屋という塾を開いていたり、女性を守る駆け込み寺としての機能もあった。私はお寺を昔ながらの在り方に戻していきたいと考えています」

 お寺業界の中では新しい取り組みであるLGBTQ結婚式だが、実際に模擬結婚式に参加した地域の人々からは、ポジティブな反応が多かったという。

「宗教によっては、同性婚の婚姻を許さない戒律があるものもありますが、仏教には『生きとし生ける者皆幸せであれ』という教えがあり、どんな人も幸せになる権利があると説いています。だから、仏前ではLGBTQ結婚式を挙げることができるのです。日本はアジアでも最大級の仏教国ですから、この文化が浸透していく土台は十分あると考えています」

■本当は継ぎたくなかった住職 インドへの留学が転機に

 地域の人々や関わりの深い檀家も、最明寺のバイタリティある活動を肯定的に見守ってくれているという。その背景には、千田氏や檀家たちのお寺業界自体への危機感があった。

「現在、若者の“寺離れ”は深刻化しています。今のままでは、現在全国に約8万件あるお寺は、50年後には3/1に減ってしまうというデータ結果も。回避するためには、お寺はこれからを生きる若者にとって身近な存在になっていかなければいけません。昔のように地域に根づくコミュニティとして、人々と共生していける場所になっていく必要があります」

 現在33歳の若き副住職である千田氏だが、彼が仏門に入ったのは26歳の時。もともとは国際的な仕事がしたいと思い、大学では国際政治を学んだ。

「日本の寺院は世襲です。僕は長男として生まれましたが、最初はお寺を継ぐのが嫌で、普通に就職するために一般大学に入学しました。でも、思い返せば地域の人たちは、僕のことを“いつか住職になる子、死んだあともお世話になる子”としてかわいがってくれていたんです。そう思うと、ここまで人々に望まれる職業はほかにないと思い、住職になる決意をしました」

 住職になる決意をした千田氏は、京都・比叡山で修行を積んだ後に、仏教の本場・インドでへ留学をした。そこでの体験が千田氏の僧侶観・お寺への在り方を考え方に深く影響している。

「現在の日本仏教は死後のサポートにまつわることが多いのかと思います。では、外国の仏教はどのなのかと思い、インドへ留学をしました。インドには、さまざまな人種が住んでいて、宗教や肌の色、言語すら違う人々の、ありのままを受け入れる文化が根付いている。島国の日本での自分の生きてきた環境との違いに驚かされました。

 それに、寺院が人々の生から死までをトータルサポートする風潮がしっかりと土地に根付いていて、人の出入りも日本の自分の寺とは比べものにならないほど多い。両親がいない子どもたちのための保護施設があったり、貧しい人々のために炊き出しをしていたり。かつて日本の寺院にあって、今はなくなりつつある文化が、インドにはありました。だから私も日本でそうした文化を再び根付かせていきたいと励んでいます。

 現在は、LGBTQ支援のほかにも、ピンクリボンや障がい支援なども行っています。お寺から出来ることは、そう大きなことではないのかもしれません。しかし、何かあった時に地域に相談できる場所があるというのは、今のような時代だからこそ心の支えになると思いました。そして、日本の寺院はそんな地域コミュニティの大切な一部として大きく機能していた時代が確かにありました」

 一見奇抜で、それぞれが無関係にも見える取り組みは、すべて「かつてあったお寺の在り方に戻していきたい」という想いのもとにある。それがSNSを通して若い世代の反響を呼び、お寺業界全体のブラッシュアップにもつながっていく。

「若い人々のお寺に対する印象が変わっていけば“寺離れ”は減速していくでしょう。伝統を守ることは大切ですが、時代に沿って変容していくことも大切。昔から地域に根付いてきた寺院だからこそ出来る様々な活動があると信じております。

 最明寺の取り組みは地域の人々からの反響だけでなく、海外の方からも大きな反響を得ています。これからの時代は“グローカル”。地域から世界へ向けてグローバルな発信をしていくことが大切だと考えます」

 そのためには地域の人との交流も重要になってくる。掲示板の言葉以外にも注目されている花手水は、地域の複数の花屋と提携して週替りで企画したものだ。おかげで寺の訪問者数は10倍近くに増加。花手水目当てに訪れる人も多く、日本のみならず世界からも反響を得ている。

「時代に合った新しい要素を加えながら、地域コミュニティとしても機能するお寺を目指していきたい。まずは何より、地域の方々の心のよりどころになれるよう、精進してまいります」
(取材・文/ミクニシオリ)