コロナ禍による巣ごもり需要により、Uber Eatsを筆頭としたフードデリバリーサービスが軒並み躍進を遂げた。古くは“出前”の形態による中華料理や寿司から始まり、今では多種多様なデリバリーフ―ドが自宅に届くようになったが、チェーン展開のデリバリーサービスの元祖と言えば「宅配ピザ」だ。『ドミノ・ピザ』『ピザーラ』『ピザハット』が大手3社だが、多様化するフードデリバリー市場において、宅配ピザ業界はその真価が問われている。世界最大の宅配ピザチェーンである『ピザハット』の商品開発課・石橋恭子氏とマーケティング企画課・加藤輝泰氏に日本における宅配ピザの変遷、さらに今の時代における“宅配ピザの在り方”を聞いた。

【写真】ムック、『ピザハット』イベントで全身裸を公表し “衣装説”否定 白い手袋?は「皮膚ですぅ〜」カズレーザー驚き

■初上陸は1985年…海外映画や国内ドラマの原体験から、“憧れ”を届けた宅配ピザ

 1982年、スティーブン・スピルバーグ監督によるSF映画が空前の大ヒットを飛ばす。言わずと知れた名作『E.T.』だ。同作の劇中にも実は宅配ピザ(『ドミノ・ピザ』)が登場している。当時日本はバブル時代前夜。アメリカ文化への憧れが強まっていた時期でもあり、映画の感動と共に「さすがアメリカ、ピザも巨大」「あのピザを食べてみたい」と感じていた人は少なくない。その他にも映画『バック・トゥー・ザ・フューチャー』の中で、電子レンジに入れたらピザが完成する未来が描かれるなど、ピザは発祥地のイタリアを凌駕し、アメリカ文化を象徴する“宅配ピザ”として日本人に刷り込まれていった。

 そんな中、『E.T.』公開から遅れること3年、1985年に『ドミノ・ピザ』が日本に登場。次いで1987年に誕生したのが『ピザーラ』。『ピザーラ』は、株式会社フォーシーズ会長・浅野秀則氏が『E.T.』内に登場した『ドミノ・ピザ』に憧れ、そのフランチャイズ店を希望したが、直営以外の出店を断られ『ピザーラ』を作ったのは有名な話だ。そして『ピザハット』は1991年。実は1973年に日本に参入しており、当時はピザレストランとして営業。後に日本ケンタッキー・フライド・チキンが経営を受け継ぎ、宅配専門として再スタートを切った。

 日本に宅配ピザサービスが輸入されてからは、国内トレンディドラマでも宅配ピザが登場。憧れる都会人の生活、そこに登場する宅配ピザは視聴者にとって瞬く間に“憧れの食べ物”となり、ちょっとした祝い事やパーティー、友達との家飲みなどで「ピザにする?」と言った会話がなされるようになった。

■過剰なサービス合戦の行き着く先は? 日本発のトッピングや“みみ”までこだわるサービスも

 大手3社がしのぎを削った90年代、様々なサービス展開で差別化を図ろうと模索。最初に口火を切ったのが『ピザーラ』だった。「『ピザーラ』さんはとにかくパワーマーケティングでかなり多くのTVCMを流していました。対して『ピザハット』は、『スター・ウォーズ』など有名コンテンツやファン層の厚い秋葉原系アニメとコラボして認知を広げる活動を展開。『ドミノ』さんは30分で届かなければ無料などのスピードを売りにサービスを展開していました。過渡期ということもあり、90年代は今よりも各社独自のカラーが出ていたと言えますね」(加藤さん)

 30分ルールは当時人気を呼んだキャンペーンで、追随する競合も模倣。だが、宅配時の事故や交通違反が相次ぐようになり、人命に関わるためついに警察から指導が入り、たち消えてしまう。
「『ピザハット』は、スピード競争には一切乗りませんでした。それは、当時の技術ではスピードに追い付かずにどこかで破綻すると考えたからです。その代わり弊社では、生地を粉から手作りし、スピードではなく品質に注力していました。このように宅配ピザ業界は失敗と成功、試行錯誤を繰り返してきました」(同)

 ちなみにハーフ&ハーフのサービスは日本発祥。「日本には幕の内弁当の文化があります。一つのものではなくできるだけ多くの種類を食べたい。この発想がハーフ&ハーフを生み、多くの会社が模倣。またたく間に世界に広がっていきました」(石橋さん)

 また、生地の“みみ”にまでチーズを入れたサービス「チーズクラスト」は『ピザハット』による発明だ。「弊社はグローバル企業ゆえ、生地やチーズ、トマトソースなどを世界基準のものから変えることは許されませんでした。ですから、変えても大丈夫な“みみ”に目をつけたんです(笑)。ですが、これではすぐに他社さんに模倣されてしまいます。そこで、チーズの“みみ”をひねってつまめるようにし、メイプルシロップをかけてデザートになる『チージーロール』が誕生しました。模倣されてもその先を…と、さまざまな工夫を凝らしてきました」(石橋さん)

 だが、凝りすぎて失敗したケースも。例えば『ナインズ』と呼ばれる小さいピザを9個集めたピザを過去に販売。「これは真似されませんでした。きっと採算が合わなかったのでしょう(笑)」と石橋さん。学生時代もアルバイトとして『ピザハット』で働いた加藤さんは「当時私は現場にいましたが、オペレーションが大変で…値段も普通のピザと同じで手間だけかかる。現場は悲鳴を上げていました(笑)」と懐かしむ。

 品質の向上はもちろん、保温機能に関しても様々な技術革新が起きた。配達員がピザを運ぶ袋もその1つだ。冷めないよう、袋の中に一定の温かさを保ったプレートを常備。ピザが美味しく食べられるのは60度以上、その適温を宅配時にも保つことに成功した。これもライバル同士が切磋琢磨した結果、生み出されたサービスだった。

■“企業秘密”はもう古い? ピザ業界全体の底上げに尽力することがピザハットの指針

 宅配ピザは基本的にメイン商品が“ピザ”のみ。単一の商品を展開する故の宿命として、サービスは常に模倣し模倣され、一定期間が経過すれば均一化される。ユーザー心理としても「一番頼むピザ屋は、自宅から一番近いピザ屋」という思考が最も働くはずだ。この状況下において、どのように各社は差別化を図ればいいのか?
「『ピザハット』がファミリー層をターゲットにしていたのに対し、『ドミノ』さんは、明確に若年層にターゲットを絞った戦略を早い時期から行っており、TwitterなどのSNS展開にも先見の明がありました」(加藤さん)

 また、『ドミノ』はピザをお持ち帰りで一枚買うと一枚無料になるなど、コストパフォーマンスの良さを重視。同サービスに対して加藤さんは「宅配ピザ業界の不文律が崩れる可能性も考慮すべき。ピザ業界の“安売り戦争”は避けたい」と感じたことも。だが一方で、「宅配ピザの需要は15年ほど変わっておらず1300億円規模。『ドミノ』さんがディスカウントサービスをやることによって1400億円を超えるようになったのですから、それも業界全体が盛り上がるためには必要なのかもしれません」と複雑な思いを吐露している。

「単一企業として利益を上げることはもちろん重要ですが、宅配ピザ業界全体としての底上げを最優先に考えるべき時代が到来しています」(加藤さん)
一昔前なら“企業秘密”を徹底し、如何に競合他社を出し抜くかに注視してきたが、今は時代が異なる。あえて手の内を見せることで業界全体の向上に繋がり、かつ、模倣されることをいとわない“姿勢”そのものがユーザーからの信頼を勝ち得ることにも繋がる。『ピザハット』では、近年“情報公開”を常に心がけている。
「ここまで手をかけるからこそ美味しい! と思ってもらうほうがお客様の信頼を得られます。テレビでも工場に潜入する番組がありますが、情報を公開することで逆にブランディング化ができる時代が来ています」(石橋さん)

 Uber Eatsを筆頭とする一連のフードデリバリーサービスとは、“歩幅の合わせ方”について熟慮すべきと考えているようだ。コロナ禍による巣ごもり需要は、フードデリバリーサービスとの連動により、宅配ピザ業界も一定の恩恵は受けた。だが、公式ホームページからではなくフードデリバリーサービスのサイトから注文されてしまうと、そこで完結してしまうし、余計な手数料をユーザーが支払わなければならない。ここに“おんぶに抱っこ”では業界全体が衰退してしまう。
「ウィズコロナになるかアフターコロナになるか、今はとても重要な時期。フードデリバリーが注目される今、ピザがパーティーなどの特別食から“日常食”に変化するチャンスだと思っています」(石橋さん)

 宅配ピザは多種多様なトッピングや生地はもちろん、特別な日から“おひとり様”まで、あまたあるデリバリーフードのなかでも抜きん出て汎用性が高い。様々な商品が乱立する中でも、やはり“最強”と言えるだろう。
「我々『ピザハット』としても、現在“おひとり様”専用メニューであるMY BOX(マイボックス)に注力していますが、どのようなシチュエーションにも合わせることが出来る。これが宅配ピザ最大の強みです。ピザのフタを開けた瞬間、誰もが笑顔になれる……宅配ピザの“原体験”から変わらぬ光景を、業界全体として常に大事にしていきたいです」(加藤さん)

(文/衣輪晋一)