今年20周年を迎えた『太鼓の達人』。今ではゲームセンターに行くと必ずと言っていいほど置かれている国民的ゲームだが、2001年初頭の登場時は、和太鼓をバチで思い切り叩くというゲームシステムは未知の挑戦だった。しかし、あれから20年、『太鼓の達人』は家庭用ゲーム機やスマホへ進出しつつ、アーケードでもほぼ当時の姿のままで根強い人気を誇っている。プラットフォームは進化しながらも、愛され続ける理由とは。その真相と今後のグローバルな展開に、当時を知る担当者に開発秘話から迫った。

【比較画像】20年間変わらない? 初代『太鼓の達人』と最新筐体のビフォーアフター

■「当初は社内で理解も期待もされなかった」和太鼓をゲーセンに置く“違和感”に逆風も

 当初の開発メンバーである中館氏は「開発を始めた当時はここまで長く続くと思っていなかったので、感無量ですね」と20周年を迎えた心境を語るが、「最初は『こんなものが売れるわけがない』という社内の逆風がすごかったんですよ(笑)。でも世に出してみたらお客さんに遊んでいただけたので作ってよかった。続けてこられて本当によかったです」と述懐する。

 2000年初頭のアーケード市場では、一世を風靡した「beatmania」や「Dance Dance Revolution」など、音楽ゲームが人気を得ていた。そこに参戦する形で、『太鼓の達人』をリリースすることになった。「先行していくつか出ている中で、さらに新しいダンスゲームや音楽ゲームを作ろうという動きがあり、和太鼓というアイデアが生まれました。今までにない音楽ゲームを作ろう、ということで始まったんです」(中館氏)。

 しかし、それまでの同社の音楽ゲームがヒットしていなかったことと、しかも和太鼓という突飛なアイデアは、歓迎されなかった。「社内では、最初は理解も期待もされていなかったですね」と、中館氏は当時の苦労を明かす。

 そこで試作機を作り、ロケテストと言って実際にゲームセンターに筐体を置くことに。すると物珍らしさも手伝って、瞬く間に人気に火がついた。「まさか和太鼓がゲームセンターにあるって誰も思わないですよね(笑)。今でこそ、おかげ様で当たり前の存在ですが、当時は異色のものでした。テストの段階で行列ができてましたね」と語るのは、中館氏と同じく当時を知る笹岡氏。「いわゆる今まで音楽ゲームで遊んでいるお客さんの層ではなく、ご家族、小さいお子さんのいるファミリーやカップルの方が並んでいただいたりして。従来の音楽ゲームとは違うものだという理解が社内にも広がったんです」(笹岡氏)。最初の製造は数百台程度だったが、口コミで人気が広まり、あっという間に倍増。その勝因は筐体のインパクトだけでなく、シンプルなゲーム性も奏功した。「既存の音楽ゲームはどんどん難しくなり先鋭化していったのですが、『太鼓の達人』の和太鼓は叩くだけのシンプルなもの。しかもゲームセンターに置いてあるものを見ればいつでも叩きたくなるものになると思いました」(笹岡氏)。

■一方でシンプルなルールに進化を望む声も…結局変えられない“理想形”に葛藤

 興味深いのは、変わらないゲームシステムだ。バチを使って筐体を叩くスタイルは20年間、大きな変化はないのだ。しかし、「実は…変えましょうという話は毎回出ています(笑)」と笹岡氏は明かす。たとえば、太鼓の数を増やすという案もそのひとつ。「他に、太鼓をドン・カッは、スイッチとしては2個しかないわけですよね。そうすると遊んでいるうちに慣れてくるので、それじゃつまらないのでもう1個増やそうか、とか」(笹岡氏)。しかし、筐体に実装されたことはない。それはなぜなのか。

 「新しいものを作り出したい要望は会社からも毎回出るのですが、気持ちよく音楽を叩くコンセプトは変えないでいこうと。そこを突き詰めていくと、基本的なルールは変えないことになり、結局シンプルが一番という結論にたどり着くんです」(笹岡氏)。つまり、最初の段階で『太鼓の達人』の理想形は完成していたのだ。

■コロナ禍でも売上キープ、ゲームが多様化しても求められる“実体験” eスポーツとの親和性活かし、海外進出も

 2000年代後半になると、携帯・スマホゲームなどが普及しはじめ、ハードそのもののバリエーションが増えた。それがアーケードゲーム市場に少なからず影響が出たことは間違いない。さらに現在、世の中はコロナ禍。そんな中でも『太鼓の達人』は、安定した売り上げをキープしているという。時代や環境が変わっても、同ゲームがアーケードならではの強みをしっかり打ち出せている証拠だ。「スマホなどで手軽にゲームが楽しめるようにはなったのですが、実際にバチを持って大きな太鼓を叩く体験は、ゲームセンター以外にはできないですよね。力いっぱい叩けることって、なかなかない体験なんです。そこに独自性があるので、時世に左右されずに求められ続けているんだと思うんです」(笹岡氏)。

 20周年を迎え、アーケード筐体が国内稼働台数約4000台、Nintendo SwitchTMで発売中の『太鼓の達人 Nintendo Switchば~じょん!』が全世界累計販売本数140万本を数えるまでの成長を遂げたが、ブランドの価値を高めていく施策を続々と打ち出していこうとしている。「次は海外だと思っています」と笹岡氏。「アジアでは筐体、北米では家庭用も売り出していますが、まだまだ広げる余地はあります。今までは国内だけでしたが、グローバルも視野に入れながらゲームではなく、ブランドとしての『太鼓の達人』も高めていきたい」(笹岡氏)。

 そのひとつの施策がeスポーツだ。「アーケードだと5年ぶりに世界一決定戦があり、家庭用だと毎年小学生向けに大会をやっています。この2軸で、eスポーツという側面でも盛り上げていきたいんです」と、統括IPプロデューサーの佐藤氏は語る。

「実はeスポーツの分野では『太鼓の達人』のタイトルを使わせてほしいという引き合いが多いんです。ルールが分かりやすく誰でも簡単に楽しめて、演奏する姿も見ごたえがありますからね」(佐藤氏)。

 笹岡氏は「一歩、その先に踏み出してる感じはあります」と話す。「eスポーツのイベントで盛り上がっている様子を見ていると、エンターテインメントしてちゃんと消化できている気がするんです。『太鼓の達人』はライブ感があるんですよ、それが伝わるという意味だと、ゲームの画面だけ観ている通常のゲームよりも盛り上がりは出ると思います」と分析する。

■「『太鼓の達人』は卒業しない」形態を変えて楽しめる様々なプラットフォームを展開

「お客さんはアーケードからスタートしますが、卒業をしないんですよ。ぐるぐる回ってくれるんです」と佐藤氏は説明する。子どもの頃に『太鼓の達人』で遊んだユーザーが、大人になって移動中にスマホで遊び、結婚して子どもが生まれれば、家庭用ゲームで太鼓を叩く。その子が少し大きくなれば、ゲームセンターに一緒に行くようになる。それぞれの役割はありつつも、ひとりの人間が年齢や環境に応じてゲームの種類を使い分けることも特徴なのだ。「ライフサイクルの中に必ず『太鼓の達人』があり、そのどれかがその人に確実にハマッていく感じですね」(笹岡氏)。

 そこで目指す未来の理想形について中舘氏が語る。

「皆様が知っているほどヒットしているコンテンツはさまざまなプラットフォームでいろいろな製品形態がありますよね。しかも世界中に展開している」(中館氏)。

そのためには『太鼓の達人』がより日常に根差した存在になる必要があるという。「20周年を皮切りに、ビジュアル面でも新しいブランディングをしたいと考えており、大人女子向け、かわいいデザインのグッズやデジタルコンテンツを出していこうと考えています。『太鼓の達人』というブランドが、その人の日常のスキマに必ず入り込む感じを目指しています」(笹岡氏)。

 日常という意味では、TikTokとのコラボレーション企画も始動。アプリ内のゲームエフェクトで『太鼓の達人』が遊べる機能がリリースされた。「みんなが日常で遊べるSNSのツールに入り込んでいるんです。本格的な遊びではなく、ユーザーコミュニケーションが重視される場でまず広がり、そこで知ってくれた人が、最終的に『太鼓の達人』を好きになるきっかけになればいいなと思っています。今までアーケードから始まった人を、今度は逆から流していくこともできるんじゃないかなと」(佐藤氏)。

 グローバルな展開を見せる『太鼓の達人』がこれからどんな成長を遂げるのか。世界中の誰もが知る、日本を代表するコンテンツになる日も遠くないかもしれない。

(取材・文/鴇田崇)