双葉社が発行する60周年を迎える月刊文芸誌『小説推理』6月号(4月27日発売)の誌面を『クレヨンしんちゃん』がジャックすると、5月号の次回予告で発表された。映画シリーズ第29弾『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』の公開(※公開延期が発表され、公開日未定)を記念して実現したコラボレーション企画だ。文芸誌と言えば出版社の中でも"聖域"といったイメージが強い。一方、かつてはPTAに睨まれたこともあったが30年の歴史を重ねて国民的存在となった“しんちゃん”。この異色顔合わせはどんな化学反応を生むのか? 同誌の秋元英之編集長に話を聞いた。

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●しんちゃんコラボに即断「作っている側は文芸誌が堅苦しいものだと思っていない」

 双葉社の『小説推理』といえば、推理・ミステリー小説を中心に、時代小説、SF小説、エンタメ小説など幅広いジャンルの連載やエッセイ、評論を掲載する文芸誌。近年では湊かなえ『夜行観覧車』、雫井脩介『犯人に告ぐ』、柚木麻子『ランチのアッコちゃん』といったベストセラーが輩出され、現在も赤川次郎や西村京太郎といった大御所作家から、青柳碧人や額賀澪といった気鋭の人気作家が連載中だ。
 その『小説推理』6月号と『クレヨンしんちゃん』という異色のコラボは『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』の公開を記念して実現したものだが、前身の雑誌から今年で60周年となる『小説推理』の中でも“大型コラボ”は初の試みだという。

 「昨年末、弊社の『クレヨンしんちゃん』担当から『来年の映画は謎解きミステリーがテーマ。しんちゃんたちの迷推理が冴え渡るストーリーなので、"推理"つながりで何かできないか?』という提案があったんです。私も『それはおもしろい!』と即断しました」(秋元編集長)。
 『クレヨンしんちゃん』と言えば、双葉社の看板コンテンツのひとつ。とは言え、“お堅いイメージ”の文芸誌がコラボ相手に選ぶコンテンツとしては、ちょっと意外だと考える人が多いのではないだろうか。

 「そういったイメージがあるのは承知しています。でも、私たちは文芸誌が堅苦しいものだなんて少しも思ってないんですよ。そもそも小説は自由な表現がおもしろいものですから。また双葉社の『面白いことにフタをしない』といったエンタメ精神溢れる社風もあるのかもしれません。『小説推理』は、発売の1年ほど前からどんな内容になるのか固めていくので、企画の変更はできなかったんですね。なので、6月号は通常号にしんちゃんの企画をプラスする内容に変更しました。制作の進行はキツかったものの、前のめりで関わってくれた編集部員には大変助けられました」(秋元編集長)。

 連載陣などの内容は、通常号との変更はなく、加えて、住野よる氏、椰月美智子氏、宮下奈都氏、青柳碧人氏、額賀澪氏、早見和真氏という6名の人気作家による『私としんちゃん』をテーマにしたエッセイが掲載される。

 「『しんちゃん』とぶつけても引けを取らない人気作家の方々にご寄稿をお願いしました。作家のチョイスにあたっては、リアルタイムで『しんちゃん』に触れてきた世代を意識しています。それぞれ独自の世界観をお持ちのみなさんが、人生のどこかで出会った『しんちゃん』とのエピソードは、作家ファンにもしんちゃんファンにも読み応えのある内容になっています」(秋元編集長)。

 また『小説推理』の表紙はグラフィカルでスタイリッシュな画風のイラストレーター・岡野賢介が担当しているが、ここにも『しんちゃん』が登場する。

 「弊誌の表紙は1つのクライム・サスペンスが展開していく様子を年間を通してイラストで表現しています。岡野さんの画風も好評で、文芸誌業界では注目していただいているんですよ。そこに『しんちゃん』が絡むとなれば、さらにザワついてもらえるのではと期待しています。そこが特に期待する化学反応ですね。また表紙をご依頼した際には岡野さんも『僕がしんちゃんを描いていいんですか!?』と驚きと喜びを滲まされていて、改めて『しんちゃん』の偉大さを感じました。岡野さんからは『どんなシーンにするか悩みましたが、しんちゃんはいつでもマイペースで能天気なんだから、どんなシリアスな場面でも楽しんじゃうんだろうなと想像しながら今回のシーンを考えました』とコメントをいただき、楽しく書いていただけたようで良かったなと思いました」(秋元編集長)。

●子どもが夢中になり、大人が眉をひそめるコンテンツには根源的な魅力がある

 ところで一般に文芸誌の読者の年齢層は高く、『小説推理』も長年の読者がメインであるという。そこに『しんちゃん』をぶつける懸念はなかっただろうか?
「今や『しんちゃん』は子ども向けではなく、すべての世代が楽しめるホームドラマです。その意味では『小説推理』6月号はお子さんやお孫さんとの会話が生まれるきっかけにもなるのではないでしょうか。さらに若い世代の方が連載小説を1本でも楽しみ、その先も読みたいと思ってくれたらこんなにうれしいことはないですね」(秋元編集長)。

 かつてはPTAから「子どもに読ませたくない漫画」と糾弾された『クレヨンしんちゃん』。しかし連載&アニメ放送開始当時の子どもたちも今や親世代。そして現在もなお子どもたちの心を捉え続けている。

 「私自身は『しんちゃん』が始まった頃にはすでに大人だったのですが、『子どもが夢中になり、大人が眉をひそめるコンテンツには根源的な魅力がある』という持論がありました。子どもは素直で、大人は“新しいもの”にまずは疑いから入る傾向にありますからね。実際、『しんちゃん』はみるみる社会現象になっていき、自分の嗅覚は間違ってなかったと思いました(笑)。そして30年を経た今や『しんちゃん』はまさに国民的存在です。それだけに今回のコラボ企画は楽しいながらに責任も感じつつ、しんちゃんに『オラをこんなふうに料理してくれてありがとう』と言ってもらえるような内容を目指しました」(秋元編集長)。

 特に映画版『クレヨンしんちゃん』は、毎回「大人も泣ける」と評価が高く、第10作目『嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦』は数々の映画賞を総ナメにしたほどだ。ではミステリーも絡んだ最新作『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ! 花の天カス学園』を秋元編集長はどのように観たのだろうか。
 「とある事件を鉄壁の推理で追うミステリー。伏線やミスリードの張り巡らせ方も王道中の王道で、さらにヒューマン性もしっかり描かれている。『本音と二日酔いは吐いたほうが楽だ』みたいな、大人にこそグッと沁みるセリフも随所に散りばめられていて(笑)、おふざけと真面目のバランスが絶妙。小説でこれをやられたら『参りました!』ですね」(秋元編集長)。