世界最高峰の映画の祭典『第93回アカデミー賞授賞式』が米・ロサンゼルス時間25日(日本時間26日)に開催される。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)後、初めて開催される今回は、例年と違う点がいくつかある。コロナが収束すれば元に戻るものもあるかもしれないが、時代の変わり目を感じるアカデミー賞になりそうなのだ。

『第93回アカデミー賞』ノミネーション一覧

 まず、新型コロナの影響を受け、授賞式の開催日が2月28日から延期されて、現地時間4月25日になった。授賞式の延期は4回目。過去3回は、ロサンゼルスが洪水被害に遭った1938年、マーティン・ルーサー・キング牧師が暗殺された1968年、ロナルド・レーガン大統領(当時)の暗殺未遂事件があった1981年。

 審査対象となる条件も変わっていた。従来は、ロサンゼルス郡内の映画館で1日3回以上、連続7日以上の期間上映された作品しか、候補になれない決まりだったが、2020年は新型コロナの影響で映画館が営業停止となったことから、ストリーミングやオンデマンドなどの動画配信サービスで初公開された映画も審査の対象に含める、とルール変更している。その結果、Netflixオリジナル作品が最多16作品35部門でノミネートを獲得した(※アメリカにおけるNetflix作品のノミネート数)。

 『第91回アカデミー賞』でNetflixの『ROMA/ローマ』が10部門でノミネートされ、監督賞、撮影賞、外国映画賞の3冠を獲得した当時、「ストリーミング作品排除」を訴える声もあがったが、劇場のスクリーンで観てこそ映画という考え方はあるにせよ、コロナ禍は映画興行の構造自体を変えてしまいそうだ。

 そして、授賞式は、オンライン開催は回避されたものの、これまで会場としていたハリウッドのドルビーシアターに関係者が大集結するのではなく、ドルビーシアターとロサンゼルスのユニオンステーションの2ヶ所をメイン会場に、リモート出演も交えて実施することがアナウンスされている。

 今回の授賞式のプロデュースは、エミー賞にノミネートされたプロデューサーのジェシー・コリンズ、『エリン・ブロコビッチ』でアカデミー賞にノミネートされた映画プロデューサーのステイシー・シェア、そして『トラフィック』でアカデミー賞監督賞、「オーシャンズ」シリーズの監督スティーブン・ソダーバーグが担当。どのようなセレモニーを見せてくれるのか。

■作品賞ノミネート作品にみる「多様性重視」への変わり目

 アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーは昨年8月、2024年『第96回』から作品賞の選考に新たな基準を設けることも発表している。「主要キャストに黒人やヒスパニック、アジアなどの俳優」「女性やLGBTQ、障がいを持つスタッフ起用」など「多様性重視」を“規定”として打ち出したのだ。長らく「白人男性優位」と批判されてきたアカデミー賞の変革の波は、すでに今回の作品賞ノミネート作品にも及んでいる。

 『ミナリ』(公開中)は、1980年代のアメリカを舞台に、農業での成功を夢見る韓国系移民一家の物語。韓国系移民の子どもとしてアメリカで育ったリー・アイザック・チョンが監督を務め、一家の父親役を演じたスティーブン・ユアンはアジア系として初の主演男優賞にノミネート。おばあちゃん役を演じたユン・ヨジョンは助演女優賞にノミネートされ、受賞すれば韓国人初、となる。

 『ノマドランド』(公開中)は、車上生活を余儀なくされた60代の女性が季節労働の現場を渡り歩くさまを、現代の“ノマド(遊牧民)”として描くロードムービー。監督のクロエ・ジャオは、中国で生まれ、米国で活動。アジア系女性として史上初めて監督賞へのノミネートを果たした。マーベルの新作映画『エターナルズ』(2021年公開予定)の監督にも抜てきされている。

 『プロミシング・ヤング・ウーマン』(7月16日より公開予定)は、ドラマ『ザ・クラウン』などに出演したエメラルド・フェネルの長編監督デビュー作。ある事件で医大を中退し、カフェの店員として平凡な毎日を送るキャシーの復讐劇だ。今回、作品賞、監督賞、脚本賞にノミネートされているが、意外なことに、監督賞にイギリス人女性(エメラルド・フェネルは英ロンドン生まれ)が候補となるのは史上初。

 『Judas and the Black Messiah(原題)』は、ブラックパンサー党の指導者フレッド・ハンプトンと、同党に潜入した青年ウィリアム・オニールの実録映画。フレッド・ハンプトンはなぜ惨殺されなければならなかったのか、衝撃的な実話に基づき真相に迫る。ダニエル・カルーヤやラキース・スタンフィールドが出演し、シャカ・キングが監督を務めた。本作は、ブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter、略称:BLM)など、人種・人権について注目が集まっている今の時代だからこそ描けた物語と言われている。日本では今夏にレンタルリリース予定とのことだ。

 『ファーザー』(5月14日公開予定)は、フランス人劇作家フロリアン・ゼレールが、自身の戯曲を映画化。認知症の目線で描くというこれまでにない視点が斬新で、不安と困惑に揺れる親子を描いたヒューマンドラマでもある。30年前、『羊たちの沈黙』で世界に衝撃を与え、アカデミー賞を受賞した現在83歳のアンソニー・ホプキンスが認知症の父親を演じ、『女王陛下のお気に入り』で主演女優賞を受賞したオリヴィア・コールマンがその娘に扮した。

 『サウンド・オブ・メタル 〜聞こえるということ〜』(Amazon Prime Videoで配信中)で耳の聞こえが悪くなる病気に直面したヘヴィメタルバンドのドラマー役を演じ、主演男優賞にノミネートされているリズ・アーメッドは、パキスタン系イギリス人。

 「記憶」を失う主人公を演じたアンソニー・ホプキンスが“史上最高齢”で、「聴力」を失う主人公を演じたリズ・アーメッドが“自身初”の主演男優賞を競っている状況も興味深い。

 もちろん、ハリウッド映画らしい作品も健在だ。それが、『Mank/マンク』と『シカゴ7裁判』。どちらもNetflixオリジナル作品というのが、なんともはや。

 『Mank/マンク』(Netflixで配信中)は、1930年代のハリウッドを、映画『市民ケーン』の脚本仕上げに追われるハーマン・J・マンキーウィッツの視点から描いた。デヴィッド・フィンチャーが監督、ゲイリー・オールドマンが主演を務めた。

 『シカゴ7裁判』(Netflixで配信中)は、ベトナム戦争抗議デモで起訴された7人の男の実話をもとに、テレビドラマ『ザ・ホワイトハウス』『ニュースルーム』、映画『アメリカン・プレジデント』『ソーシャル・ネットワーク』『マネーボール』など、数々の秀作の脚本を手掛けてきたアーロン・ソーキンが監督した法廷ドラマ。エディ・レッドメイン、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、サシャ・バロン・コーエン、マイケル・キートンらが出演している。

 昨年の『第92回アカデミー賞』では、ポン・ジュノ監督が手掛けた韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が、英語以外の外国語映画として作品賞を受賞するという同賞史上初の快挙を成し遂げて幕を閉じたが、今年の作品賞の行方は、正直全く予想がつかないほど、秀作ぞろいとなっている。どの作品が受賞しても、2021年という今の時代を切り取った瞬間になることは間違いない。

■日本で『第93回アカデミー賞』授賞式を見るなら

『レッドカーペット生中継!第93 回アカデミー賞授賞式直前 SP』
4月26日(月)前7:30[WOWOW プライム][WOWOW オンデマンド]

『生中継!第93 回アカデミー賞授賞式』
4月26日(月)前8:30[WOWOW プライム][WOWOW オンデマンド]

【出演者】※上記2番組共通
案内役:ジョン・カビラ、宇垣美里
スペシャルゲスト:中島健人(Sexy Zone)
スタジオゲスト:行定勲(映画監督)、河北麻友子
リモートゲスト:町山智浩(映画評論家)
レッドカーペットリポーター:小西未来(映画ライター)