YouTubeを筆頭に、音楽はネットで聴くだけでなく“見る”時代となった今、MVのクオリティは年々高度化している。そんな中、昨年チャンネル開設された『THE FIRST TAKE』はこの1年で総再生数は10億回を超え、ヒット動画を連発している。従来の“MV”とは違う類になるだろうが、ただひたすらにアーティストが歌う姿を素材挿入やカット割りも少な目で見せ、近年の“見る音楽”にはない動画構成になっているのだ。高音質や1発撮りという緊張感、コロナ禍によるリアルライブの激減などももちろん要因の1つだろうが、“MV変遷と動画構成”の視点から、改めて同チャンネルのヒットの秘訣に迫る。

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■THE BEATLES、マイケル・ジャクソン、『MTV』の台頭で一気に世界に浸透したMV

 さかのぼると、斉藤由貴「卒業」(1985年)、宇多田ヒカル「Automatic」(1999年)、新垣結衣「heavenly days」(2007年)などはアーティストをじっくり写す形で場面切り換えや画変わりなしに見せている。これはそれまでMVが音楽番組などで一部分を切り取られるからこそ持っていた構成で、全部フルで見るのはコアファンくらいだからこそ、成り立っていた側面がある。

 一方、ここ最近は瑛人の「香水」やAdoの「うっせえわ」など、YouTubeのMVからヒット曲が生まれることが増え、米津玄師やYOASOBIのように高度なアート技術や良質なストーリーが組み込まれることも多くなった。そうした流れの中で、『THE FIRST TAKE』の画変わりの少ないシンプルな動画構成は、逆に若い世代に新鮮に受けたと考えられる。

 MVのルーツとしては諸説あるが、現在のMVに近いものはTHE BEATLESのようだ。1960年代後半、ライブ活動を休止していた彼らにはテレビの音楽番組への出演依頼が殺到したが、億劫だった彼らは演奏シーンなどを収録・編集した映像をテレビ局に送り、それが放映されたことがはじまりという。

 1981年になると音楽専門チャンネル『MTV』がアメリカで開局され、24時間ぶっ通しでMVを流し続ける。1983年、マイケル・ジャクソンが13分34秒にわたる「スリラー」のMVを発表、そのミュージカル映画のような壮大な映像は世界中を席巻した。以降、ほとんどアーティストが出演せずにグロい生物がフラッシュバック的に登場するイエスの「ロンリー・ハート」(1981年)や、アニメと実写が融合するa~haの「テイク・オン・ミー」(1985年)など、多くの革新的なMVが誕生することになり、80年代の洋楽界は完全に“MTV時代”となるのである。

■MVの浸透で日本の音楽番組にも新風が クリエイターの登竜門的な役割も果たすように

 日本でも、MTV開局の1981年には米ヒットチャート番組『ベストヒットUSA』(テレビ朝日系列)が、1984年には洋楽MVを紹介する『THE POPPER’S MTV』(TBS系列)が深夜に放映開始。地方局でも『SONY MUSIC TV』や『ミュージックトマト』(ともにテレビ神奈川)といった洋楽MV番組が開始されると、1989年に日本初の音楽専門チャンネル『スペースシャワーTV』が開局。『ザ・ベストテン』(TBS系)や『夜のヒットスタジオ』(フジテレビ系)など、邦楽の生歌披露が主流だった音楽番組に新風をもたらした。

 このころには、オフコースやサザンオールスターズ、TM NETWORKといった邦楽の人気アーティストたちもMVの制作に乗りはじめた。ただ、当時のMVはPV(プロモーションビデオ)と呼ばれ、CD(当時はレコードも多数)の販促・広告目的で作られたものだったが、内容的には今のMVとさほど変わらず、2000年代あたりからPVからMVと呼び名が変わっていった。

 80年代から90年代にかけて「MV監督」は、映像クリエイターの登竜門的な役割も果たすようになった。新しいコンテンツであるMVは自由度が高い上に映画とテレビ番組の垣根もあまりなく、ある意味実験的に制作を任される舞台として、映画『スワロウテイル』で知られる岩井俊二監督も、1980年代後半に桑田圭祐やビーイング系アーティストのMVを監督し、堤幸彦監督もとんねるずの「雨の西麻布」などの作品に携わっている。

■チャート番組によりMV需要が急上昇、プロモーションの重要要素として定番&多様化

 1992年に『MTV』日本版放送が開始。翌年にはチャート番組『COUNT DOWN TV』(TBS系列)が始まり、30分間に40位~1位のMVを詰め込むという内容で、まさにMVありきの番組(曲によっては静止画の紹介もあった)。1998年になると、MVを題材としたバラエティ番組『プロモマニア』(スペースシャワーTVとフジテレビ系)も登場。日本でのMVの需要が急上昇し、CDの発売と同時にMVを制作するのはもはや当たり前となり、制作する側もユーザー側もMV必須の時代となる。

 90年代後半は、安室奈美恵、宇多田ヒカル、浜崎あゆみ、倉木麻衣などの“歌姫”の時代にもなり、奇抜な衣装が話題になった紀里谷和明監督の宇多田ヒカル「traveling」や、大河ドラマ的な壮大なストーリー展開の浜崎あゆみ「Voyage」など、それぞれの魅力を最大限に引き出すMV表現が注目される。

 また、グラフィックデザイナーがMVを演出するケースや3DCGアニメーションなどを駆使したアート色の強いMV、膨大な予算を投じた海外ロケを大胆に演出した作品も増えていく。80年代に松任谷由実などのレコード・CDジャケットのデザインで知られる信藤三雄氏は、フリッパーズギターといったいわゆる渋谷系のデザインワークを手がけていたが、MV制作に進出。ものすごい崖で熱唱する桜井和寿を上空から撮影するというMr.Children「Tomorrow never knows」(1997年)が発表されると、GLAY、華原朋美、L'Arc〜en〜Cielなどの大物ミュージシャンも大自然の中の大スケールMV、いわば“絶景系”MVがブラウン管で見られるようになった。

■音楽をネットで“見る”時代に、誰でも世界ヒットを生むチャンス到来で動画構成も激化

 2000年代前後には、俳優やモデルが出演するストーリー性あふれるMVが急増する。ワンカットで生歌唱を同時録音した森山直太朗「さくら(独唱)」や、前述の新垣結衣「heavenly days」もこの頃だ。また、2006年に発表されたMr.Children「箒星」の初回限定版付属DVDには、同作のMVの世界観を約18分のショートムービーが収録された。以降、スペシャル映像コンテンツがCD初回盤の特典となるケースも増加したが、これもMVが“作品”として認知されていたからこそ成立するムーブメントといえるだろう。

 こうしてMVが隆盛を極める中、2001年に携帯型デジタルオーディオプレイヤー「iPod」シリーズが発売され、2003年には「iTunes Store」が配信サービスを開始。2005年についに“黒船”ともいうべき世界最大の動画共有サービス「YouTube」が開設されると、状況が変わってくる。

 2005年にメジャーデビューしたPerfumeの「ポリリズム」(2007年)がネットの口コミで大ヒットすると、毎回手法を変えて新しい演出にチャレンジするMVに注目が集まるようになる。以後、椎名林檎、YUKI、サカナクション、RADWIMPSなどオリジナルの世界観を創出するアーティストが続出し、2011年のきゃりーぱみゅぱみゅの「PONPONPON」(2011年)はネットを通じて世界的ヒットとなった。各レーベルが公式のMVを公開しはじめたのが2008年以降、そして権利意識の高いソニーミュージックが公式を設けたのが2011年、ここにきて音楽はネットで聴くという時代がスタートしたのである。

■シンプルな動画構成が若年層には新鮮さも? “しっかり音楽を聴ける”貴重な場に

 一方、大資本(レーベル)には頼らず、自ら制作・発信するアーティストたちも増えてくる。2014年には、米津玄師が作詞・作曲・作画すべてを自身で手掛けるアニメーションMV「アイネクライネ」を公開。顔を出さない全編アニメーションが謎のアーティストとして神秘性を生み出し、その後、Uru、瑛人、ヨルシカ、YOASOBI、最近ではAdoなど、YouTubeの動画作品から話題を呼び、本人の顔や姿の目立った露出がないままヒット曲が生まれるという現象が起きはじめる。同時に、「さくら(独唱)」のように歌唱の実力をシンプルに見せるMVが減少した。

 そうした音楽業界に新風をもたらしたのが、『THE FIRST TAKE』だ。アーティストの歌う表情を間近で撮影し、失敗しても撮り直しなしの一発勝負。白壁のスタジオで、ダンサーや入れ込み素材もなしのシンプルな画作り。同チャンネルは従来の“MV”と一括りにはできないが、音楽を動画で聞く時代になった今、“しっかり音楽を聴ける”動画として、貴重なコンテンツとなった。また、チャンネル開設直後、奇しくも世界中で新型コロナウイルスの感染が拡大。リアルライブの開催が困難となった今、“ライブ感”が味わえる同チャンネルは、アーティストの生の歌唱を切望する多くの人々の欲求を満たす場所となったのである。

 こうしてみると、『THE FIRST TAKE』の大ブレイクはMV界=音楽動画の“原点回帰”ともいえるし、今までの音楽界においては、80年代のMTV全盛期から90年代のニルヴァーナに代表されるグランジブームの“揺り戻し”ともいえるかもしれない。今後はまた徹底的に作り込んだ壮大なMVが流行する可能性もあるが、“一発撮り”の歌唱勝負の本動画が1ジャンルとして確立されたことは間違いないだろう。