「エンターテインメントはイタズラに似ている。驚かせたい、楽しませたいとニヤニヤしながら準備する。その瞬間が一番楽しい」。俳優の中村倫也(34)は、初エッセイ集『THE やんごとなき雑談』(KADOKAWA)の中で、このようにつづっている。同書はもちろん、実際に対面して行ったインタビューでも、中村の“楽しませる力”がいかんなく発揮された。

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■1本のエッセイを作るまで40回読み返す 人間関係の悩みを解消するきっかけ

 自意識過剰でモテたくて仕方なかった学生時代。クラスメイトに突然奪われたファーストキス。料理や掃除に買い物、たまの実家への帰省と親孝行、そんなありふれた休日。同書では“つかみどころがない”中村のリアルな日常、本音、そして思考のあと……などをユーモアとペーソスあふれる筆致で描く。ロゴや挿絵イラストはすべて本人作で、カバー、表紙にいたるまで、こだわりが詰まっているが、出来上がった本をまじまじと見つめながら「物になったなという感じがしますね」と笑みを浮かべる。

 「まえがき」では、中村が「まず、物事の本質を考えてから行動」する姿勢を感じることができるが「まえがきとあとがきに関しては、そこまで考えずに書くことができました」と明かす。「エッセイを読んでもらう前の名刺交換のようなまえがき、1冊読んだ時のあとがきという形で『スルッとまとまるといいな』というのが頭の中にありました。それに、まえがきとあとがきは約1000字ずつなのですが、エッセイの2000字に比べたら、かなり書きやすかったです(笑)。最初に2000字のエッセイを書き終えた後に、編集から後出しで『実は2000字って難しいんですよ』って言われて、先に言ってくれよと思いましたね(笑)」。

 比喩(ひゆ)表現もさえわたり、心地よいリズム感の文章に仕上がっているが、自分で何度も読み返しながら完成させていった。「一段落書いて、それだけで読み返して、もうひとつ進んだら、また最初から読み返して…。1本のエッセイが書き上がるまでに40回くらいは読み返しているんじゃないかな。エッセイが完成した後も、書いている時の主観とは違った、ちょっと落ち着いた客観的な目線も入れて読み返してみるために、1日寝かせてから読んでみたり。書籍化にあたっても、句読点、カギカッコなどを考えて、読み直していきました。そう考えると、なんだかワイン作りみたいですね…って、ワイン作ったことないんですけど(笑)」。

 思考に思考を重ねながら完成したエッセイだが、明確な“読者像”などを想像しながら書いていたのだろうか。「いえ、特定の誰かとかないんですけど、あえて言うのであれば、これが世に出るというイメージですかね。ざっくりとしていますが、世に出て多くの人に読まれる可能性があるという意識でしょうか。自分の中にあった感覚や経験などを世に出して、どこかの誰かのなにかになればいいなと。漠然としているんですけど、自分の中には具体的に、そういった気持ちがありました」。

 インタビューであっても、ユーモアを交えながら相手を緊張させない気遣いを見せる中村だが、同書の中にある一遍「種と鎖」では、10年ほど前には「全く人を信用せず、どんどん排他的になり、全てが敵に見える」時期もあったと打ち明けている。自分の中にあった“鎖”を断ち切るには「悩み事をシンプルにしていくクセ」をつけることが必要だった。

 「若い頃は悩みますし、放っておいても“悩みたい”みたいな感情になることがあるので。自分というものも不確かで、組織や社会での立ち位置もあやふやで、それはいろんな経験を積んで変わっていくことではあるんですが、一つひとつの悩みなどが無数にあるので、どうしても漠然としちゃうんですよね。それをシンプルにシンプルに細かくして考えていくと『じゃあ、やってみろよ』という結論にいたりました(笑)。こういう仕事柄というものもありますが、自分の力を発揮できれば、期待が高まるでしょうし、期待が需要になって、需要に応えられたら結果になっていく仕事だと思うので、シンプルにしていく中で『やってから悩もう』という考え方になりました」

■「好きな人ができたら結婚を意識してきました」 コロナ禍で考えたこととは

 朝ドラ『半分、青い。』(2018)出演をきっかけに中村自身が「桁違いに注目を集めた」時期につづられているエッセイもあることから、仕事にまつわるエピソードも見られる。「自分の生活の核に仕事があるので、どうしても仕事のことが多くなるとは思うのですが、それだけじゃダメだなと思って。いろんなことも書いたのですが、人によっては仕事との向き合い方や生き方というものに、何かを採取して、自分の部屋にひっそり持って帰ってもらう本になっていたら、うれしいですね」。多忙との向き合い方にも、達観した考え方をもつようになった。

 「(18年の大ブレイク時よりは)物理的なスケジュールはゆるくなっていますが、やることや背負っているものは増していて、そこに対するバランスの取り方を見つけているところです。それも、結局はシンプルにする作業なのですが、リラックスしていられる日々が多くなってきていますね。物理的に忙しい時は、もうしょうがないですね。人間寝ないと生きていられないので(笑)。毎日必死に食らいついていくしかないです。時間だけですから、みんな等しく有限なのは」

 「拝啓、あの日の女子たち」は結婚に関するエッセイとなっているが、自身の結婚観について「結婚願望というまでじゃないですけど、好きな人ができたら結婚を意識してきましたので、今に始まったなにかではないのですが。親もそろそろいい歳ですし、安心させてあげたいなと思いますかねー」と明かす。今回の書籍の中でも、家族とのエピソードも登場するが「父は寡黙なので、結婚の話はしやがらないんです(笑)。しやがればいいのに(笑)。いまだに親慣れしてないので、ヘラヘラしていますよ」と口元が緩む。中村本人も「本当に泣けるエッセイですよね(笑)。自分でも満足度の高いもの」と太鼓判を押す、父とのやりとりを描いたエピソードも収録されているが、それによって思わぬことに悩まされたそうだ。

 「親父を書いたことによって、オカンと兄貴も書いてあげないとかわいそうだなと思うようになりまして…。親父だけ書いたら、オカンから、亡くなる直前まで(しがれた声に声色を変えて)『私のことは、書かんかったね』って言われたりするのかなと思って、オカンと兄貴の話も書きました(笑)。家族には、この本を贈っているのですが、感想はまだ言ってくれないですね。今度実家に帰った時に『サインしてよ』とか言ってくるでしょうね(笑)。そう考えると、自分のこういう性格も遺伝なんだなと感じます。すごく親父にも似ているし、オカンにも似ているんですよね」

 昨年からコロナとの向き合い方も、多くの人が悩まされているが、中村は「コロナ禍で生活が変わった部分はもちろんありますが、自分の価値観みたいなものは変わっていないのかもしれないです」と明かす。「もともと当たり前なんてないと思って生きていたんですよね。仕事がなかった時期があったことが大きいと思うのですが、行く現場で『誰だこいつ』という状態から切り拓いていくのがスリリングというか、ゲリラ戦みたいな感じだったので、安定した戦術を立てたとしてもどうしようもないと考えがあったんですね。仕事でもそうですし、食の安全にしても“安”ってつくものは存在しないと思っていて。ちょっと、話を広げすぎて不安になってきましたが…」。

 そんな中、自らができることも考えている。「緊急事態宣言が出ている時などは特に、ステイホームできている自分と、どうしても出ていって働かないといけない人もいて、そんな中で『出歩く若者たち』と言われる現状もあって…。みんながみんな、ふざけている訳じゃないぞという気持ちもありましたし、自分のことで言えば、ドラマのスタッフさんのことが心配になったり。自分の生活の根っこに『外に対して、何ができるか』を考える部分があって。決して、自分を美化しているわけでもなく、自分がヒーローになれるわけでもないから、できることをやっていくしかないと思っています」。グルグルと思考をめぐらせる中村の一端に触れられるエッセイ集に、早くも第2弾を望む声もあるが、本人はいたってフラットだ。「それはもうゴーストライターに、月3本のペースで書いてもらいます(笑)。1本あたり1万円でお願いしたいと思います」。聞かれたことに、自分の言葉でしっかり答えながらも「その奥に何かある」と感じさせる中村には、底なしの魅力がある。