互いに1983年生まれで、10代から俳優を始め、現在も日本映画界にはなくてはならない存在として活躍しているという共通点を持つ山田孝之(37)と松田龍平(37)。しかし、この2人が俳優として共演することはこれまで一度もなかった。そんな2人が、映画『ゾッキ』で、山田監督、俳優・松田という立場ながら初タッグを組んだ。本作の撮影で過ごした時間は、2人に何をもたらしたのだろうか――話を聞いた。

【モノクロ写真】山田孝之監督への信頼を語った松田龍平

 昨年11月に行われた第33回東京国際映画祭でのワールドプレミア上映の舞台挨拶で、松田が「常に現場でニヤニヤしていた」と山田監督の様子を報告していたが、山田は「僕は松田龍平の大ファンなので、ずっと龍平くんが僕の前で芝居をしてくれるんですよ。それを一番近くで見られるんだから、ニヤニヤしますよ」と撮影を振り返る。

 本作は、鬼才・大橋裕之氏が初期に描いた作品集『ゾッキA』『ゾッキB』を実写映画化したもの。山田は自身が担当した『Winter Love』のパートについて「オーディションで選ばせてもらった人もいましたが、原作を読んで大橋さんの画をみたときから、すぐに『この役はこの人がいい』と考えていました。龍平くんにも、かなり早い段階からオファーさせてもらいました」と強い希望があったという。

 そんな山田監督からの熱いラブコールに松田も感じることは多かったという。

 「お互い10代から役者をやっていて知っていたし、いつか一緒にやりたいなという思いは僕もありました」と話し出すと「別の企画でも山田くんから呼んでもらったこともあったのですが、そのときはタイミングが合わずに実現しなかった。共演という形ではなかったけれど、一緒にやれたことはとても刺激的でした」と感想を述べる。

 改めて監督として松田と対峙した山田は「大好きな俳優というのは変わらなかったです。監督として見ていたのですが、なにか一緒に芝居をしているような感覚でした」と共演気分を味わった模様だが「やっぱり役者として共演したいという気持ちはずっと持っています」と今後、俳優として改めて松田と対峙することに思いを馳せていた。

 山田の演出に対しては「やっぱり俳優以外にもいろいろやっている人だし、そういう意味では僕の知らない世界を知っている。刺激を受けることは多かったです。でもなによりも、すごく楽しそうに現場にいるのを見て、羨ましいなという思いがありました」と語った松田。

 俳優にとって監督が楽しそうに現場にいることは大きいようで、松田は「やっぱりテンションは上がります」と言うと、山田も「作風にもよりますが、監督がずっと現場で眉間にしわを寄せていると『なんか納得していないのかな』って考えちゃうこともあります」と俳優としても気になるという。

 俳優をやっているだけに、山田は“俳優が芝居をやりやすい現場作り”を監督として心掛けた。プロデューサーとして参加した作品のときにも「俳優の働きやすい現場」に対して、しっかり環境づくりを意識していた。しかし「特別責任感があって仰々しいことを言っているわけでもなく、みんなで結託して革命を起こそうってわけでもないんです。僕がやっていることが正しいとも思っていないし」と山田は笑う。ただ「例えばですが、まったく眠る時間もなく芝居をする…という環境はやっぱりダメだと思うので、そういうことはできる限り改善できたらいいなとは思っています」と説明する。

 こうした山田の思いに、松田は「役者だけやっていると言えないことも多いので、プロデューサーや監督を経験している山田くんがそういうことを発信してくれているのは大きなことですね。」

 俳優業以外にも、マルチな活躍を見せる山田だが、本作が長編映画として初監督作品になった。「いろいろな感情が湧いてきましたが、一言で言えばうれしい気持ちが一番強かった」と監督業への思いを語る。その理由について「龍平くんをはじめキャストの方たちがお芝居をしてくれたことももちろんですが、スタッフの皆さんがいろいろなことを提案してくださり、思い描いていたことがどんどん実現し、『ゾッキ』という映画が完成しました。それって楽しいという思いもあるのですが、やっぱり“うれしい”という感覚なんです」と説明。

 山田のほか、竹中直人、齊藤工という俳優たちがメガホンをとった本作。非常に個性的な面々が、それぞれ『ゾッキ』を解釈し物語を紡いだ。山田は「前提として大橋裕之さんの『ゾッキ』という作品があるので、特に共通認識を確認しなくても、大きくズレることはなかった」と語ると「僕は一度観て全部スッと入ってくる映画に魅力を感じないので、いろいろなところに引っ掛かりながら、何度でも観たいと思っていただけたらうれしいです」と作品をアピールしていた。(取材・文:磯部正和)