1961年にアメリカで発売されて以来、60年にわたり世界中で愛され続けているハーゲンダッツアイスクリーム。日本では1984年にハーゲンダッツ ジャパンが設立され、青山に第1号店をオープンするとともにファンを拡大させていった。現在ではスーパーやコンビニでも購入できるにも関わらず、その上品で高級感のあるブランドイメージは失われることがない。そんな“庶民が楽しめる高級ブランド”をどう確立してきたのか。ハーゲンダッツの黒岩俊介氏に聞いた。

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◆子どもがメインの市場で“大人の高級アイス”として参入 SNS時代では不可能な戦略でブランド確立

――日本上陸から37年。外国製アイスクリームとして圧倒的な人気を誇っています。日本における発売当初の市場戦略を教えてください。

【黒岩俊介】 1984年にショップ1号店を青山にオープンし、同時に一部首都圏のデパート、高級スーパーで販売をスタートしました。当時日本では、アイスクリームは子どものお菓子として親しまれていました。そうしたなかハーゲンダッツは、“大人の贅沢な楽しみ”という位置づけのアイスクリームとして市場参入したんです。今までアイスクリームを食べていなかった人たちに慣れ親しんでもらうのが狙いでした。世界中のハーゲンダッツのなかでも、テレビCMを放送したのは日本が初めてだったのですが、そこでも“大人が食べる贅沢なアイスクリーム”として打ち出していきました。

――認知度ゼロから消費者に手にとってもらうのは大変だったのでは?

【黒岩俊介】 ショップ1号店のオープン時は、長蛇の列ができました。アメリカではすでに人気があり、SNSのない時代に情報感度の高い人たちから「外国からすごいアイスが来る」と口コミで話題になっていったようです。デパートや高級スーパーでの販売だけではそこまでの話題は作れなかったと思います。同時にショップをオープンしたことで上手くブームを作れました。

――いまや「外国製のちょっと高級なアイスクリーム」の代表商品です。「高級」「上品」といったブランドイメージはどのように作り上げていったのでしょうか?

【黒岩俊介】 一番大事なのは味や品質へのこだわり。食べたときのなめらかな舌触りと濃厚な味わいです。そういった上品な味わいがあるからこそ、ご褒美感、高級感を感じていただけます。それから販売戦略。日本上陸からしばらくは、青山というハイセンスな立地のショップのほか、百貨店や高級スーパーなど限られた世界観を作っていただける場所だけで販売していました。そこに行かなければ買えない、行ってまで買いたいと思っていただけたところが特別感につながり、ブランドイメージを形成していきました。

――ネットが普及している現代だとそのブランディングは難しかったのでしょうか?

【黒岩俊介】 そうですね。日本で同じ規模のプレミアム・アイスクリームブランドがほかに存在しないことが示しています。いまだと多くの情報がネットに溢れ返るなか、新しい情報も一気に拡散してしまい、すぐにまた別の情報が流れていきます。昔とは情報の価値がまったく違う。新しいブランドを定着させるには、ほかのものとの圧倒的な違いがないとさらに難しい時代になっていると感じます。

◆一番売れるのはおもてなし需要の高い12月 寒い地域のほうが冬にアイスクリームの消費量が増える

――いまではコンビニやスーパーでも購入できます。

【黒岩俊介】 徐々に販売チャネルを拡大していきました。最初は幅広く販売しなかったがゆえに特別感を作り上げ、それが確立されたところでコンビニへと販路を拡大しましたが、当初のブランドイメージを維持できていると思います。コンビニでもほかのアイスクリームとは価格差がありますので、それも他の商品とは違うという差別化の要素になっています。

――いつでもどこでも購入できることでブランドの高級感が損なわれる懸念はなかった?

【黒岩俊介】 まったくニッチななかのプレミアムというより、目指しているのは日常生活のなかで手の届くプレミアム感。普段の生活環境にあるコンビニ、スーパーで購入できるのは重要なことです。ただ、希望小売価格を下げないことや、売り場のなかで専用コーナーを設けるなど、ハーゲンダッツは特別だと思っていただける工夫はしていました。

――競合となるほかの外国製アイスクリームやコンビニスイーツとの差別化はどう考えていますか?

【黒岩俊介】 他メーカーを競合とは考えていないのが実情です。そことの明確な差別化は意識していません。コンビニスイーツは、消費者の選択からすると競合になります。ただ、ハーゲンダッツの価値は、おいしさに加えて安心感があること。消費者はコンビニスイーツをブランドとして認識しているわけではありません。一方、ハーゲンダッツなら間違いないと思っていただいており、それがほかのスイーツとは異なるアドバンテージになっています。

――アイスクリームといえばやはり夏。冬場の販売施策は?

【黒岩俊介】 基本的にアイスクリームは暑くなると売れて、寒くなると売れません。しかし、実はハーゲンダッツは1年を通して12月が一番売れているんです。クリスマスから年末年始までが年間の販売ボリュームが最も高くなります。その理由は、おもてなしとして振る舞われることが多いから。夏のお盆の時期もそうですが、人が集まるタイミングや年度の終わりに消費量が増えます。

――消費量の地域的な差はありますか?

【黒岩俊介】 あまり地域の差はないのですが、アイスクリーム市場において人口あたりのアイスクリーム消費量の1位は金沢市。寒い地域でもわりとアイスクリームを食べる人が多いんです。暑い地域の人たちは暑いときしか食べませんが、寒い地域の人たちは冬でも家のなかは暑いくらいに温かい。そういうときにアイスクリームを食べたくなるようです。なので、冬にアイスの消費量が高いのは寒い地域が多いんです。

◆「ハーゲンダッツなら間違いない」安心感とワクワク感の両立から“至福のひととき”を感じさせる

――日本独特の売れ方もあるのでしょうか?

【黒岩俊介】 世界を見ても日本だけが特殊な市場です。それは、期間限定商品が多いことと、ミニカップが売れること。核家族化やひとり世帯の多さから、個食のボリュームが圧倒的に大きい。また、常に新商品、限定商品を探している消費者が多く、日本社会の消費購買傾向は独特です。市場としてほかの国と大きく違います。

――そんな日本での販売で大切にしていることは?

【黒岩俊介】 前提として、お客様の期待を超える商品を届けたいという思いがブランドとしてあります。ほかより価格が高い商品を買っていただくときに、楽しんで選んでいただけるように、買うときからワクワクしてもらいたい。“安心感とワクワク感”の両立が大事だと考えています。

――新CMでは、平手友梨奈さんが起用されましたが、その理由は?

【黒岩俊介】 日本のテレビCMは、発売当初は外国への憧れが強い時代背景があったため、外国人を起用していますが、多様性が重視される昨今は描き方が変わってきています。最新CMキャラクターは平手友梨奈さんが務めていますが、本物感があって芯が通っている部分がある、そういうブランドであることを伝えていきます。ターゲット層を絞らずに、あらゆる世代のさまざまな人たちにハーゲンダッツの価値を感じてもらうことを念頭に置いています。

――ハーゲンダッツには“至福のひととき”を感じさせるイメージもありますが。

【黒岩俊介】 お客様にそういうイメージを持っていただいているのだと思います。ハーゲンダッツでキャンペーンをやる上では、高級感、特別感のトンマナが必ず求められます。その結果、“ハーゲンダッツなら間違いない”という安心感を持っていただけており、それが“食べたときに至福を感じるアイスクリーム”につながっているのではないでしょうか。

(文/武井保之)