コインを入れてハンドルを回すとカプセルに入った玩具が出てくるカプセルトイ(ガチャ)。先月、このカプセルトイにまつわるあるツイートが注目を集めた。それは、『のたうつカナブン』というカプセルトイの画像と共に「これ企画した人と通した人を見てみたい。」という一文が添えられたもの。これに代表されるように現在、カプセルトイは実に自由な発想で多様化が進んでいる。この背景には一体何があるのか。『のたうつカナブン』の企画者であるタカラトミーアーツ・ガチャ企画部の羽場弘明さんと、広報担当の中村佑子さんに話を聞いた。

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■田舎のコンビニで観た『うわッ!!』という感覚を伝えたい

 『のたうつカナブン』のアイデアが浮かんだのは一昨年。夏場少し田舎のコンビニを訪れた羽場さんは、大量発生していたカナブンの群れと遭遇。おののきながら店内へ入ると、そこにはすでに侵入していた数匹のカナブンが床に落ち、“のたうって”いた。

「その光景を観たとき、この『うわッ!!』という感覚をお客さんに伝えたいと思いました。私が商品開発をする際にはいつも“お客さんの感情を揺さぶりたい”という想いがあります。その感情が多少“不快なもの”でもいいんじゃないのか。人を傷つけたり、倫理に反したアイデアはもちろんだめですが、“不快”という感覚も揺さぶるという点では同じなので」(羽場さん)

 羽場さんの“感情を揺さぶった”カナブンは、「ガチャはお店でマシンに出逢って買ってもらうことが大半。そこでいかにインパクトを与えられるか。またどんな商品なのかをストレートに伝えることを重視」(羽場さん)し、『のたうつカナブン』とネーミング。月に一度行われる同社の企画会議で上司の心も掴み、見事に商品化が決定。“のたうつ動き”のある内部のギミックも、以前開発したものから活用できそうなものがあり、商品開発はスムーズにいくかと思われた。

「問題だったのは私と同様、造型師さんも虫が嫌いだったこと(笑)。おそるおそるネットでカナブンを検索して細部をリアルに表現しました。またギミック自体がそこそこ大きいので、不自然にならないようにカナブンを拡大・ディフォルメするのに苦労しました」(羽場さん)

■ギャンブル性よりも“ハズレ感”のないものが求められている

 『のたうつカナブン』のようにユニークな発想でユーザーを楽しませているカプセルトイだが、その歴史は意外に長く、アメリカから日本に入ってきたのは1965年。その後着実に市場を拡大し、日本玩具協会の調査によると2020年度で市場規模は400億円前後。メーカーも新規参入が相次ぎ、現在20~25社がしのぎを削っている。この市場の拡大に大きく寄与しているのが、カプセルトイ黎明期に子どもだった世代の存在だ。

「子どもの頃にガチャに慣れ親しんだ世代が親になり、子どもたちが、ガチャを回すことへの抵抗がなくなってきていることは大きいと思います。また、『当時たくさん回せなかったから』と、大人になって心ゆくまで回す方もいらっしゃいます」(中村さん)

 この間、中身も時代とともに大きな変化をみせている。カプセルトイ黎明期に人気だった、スーパーカーや当時人気のキャラクターの“消しゴム”などは、1シリーズで数十種類のラインアップがあった。だが昨今は、ガチャ商品自体の種類が大量に増えており、逆にラインアップの種類を抑えている。これには、時代と共にユーザーの考え方の変化があるという。

「かつてのガチャは、多数の種類のなかで豪華な造りのものやそうでないものの差があり、“当たり感”を演出していました。ガチャは本来、運試しというかくじ引きのような当てもの感が強いものだったんです。でも昨今の商品傾向は、“ハズレ感”がないもの、何が出ても“満足度の高いもの”が求められています。昔に比べ、生産技術が格段に進歩し、着色やギミックなども品質が上がっています。また、ライセンス許諾を受けたキャラクター商品も増えたことで、ラインアップに差をつけるということがなくなりました。価格も昔は100円商品が主流でしたが、現在300円の価格帯が増えてきました。価格が上がると回数を多く回すのにもやはり躊躇してしまいますので、より『損した気分になるものには挑戦しない』という心理が生じてしまうのではないかと思います」(中村さん)

 “当たり”“ハズレ”のギャンブル性よりも、個々人がそれぞれの嗜好にあった満足できるものを求める。多くのユニークな商品が開発される背景には、自分にハマるものを見つけてもらうという“多様性”の時代があるといえるだろう。加えて、新規メーカーの参入で、新たなアイデアの商品が次々と生まれていることも、市場の活性化につながっている。

「ライバル他社の存在は大きいですね。アーツがなにか画期的なものを作ると、他社さんも負けじとやってくる。こうした切磋琢磨が業界全体にもたらした影響というのは大きいと思います。技術、アイデア…ほんとに油断できない業界です(笑)」(羽場さん)

■自分も喜んでお客さんにも喜んでもらえる、そんな仕事を続けていきたい

 多様な企画を求められる中で、同社では月に1度、2日間にわたり企画会議を実施。そこには、約20人ほどの企画部社員がアイデアを持ち寄って吟味する。

「僕は『のたうつカナブン』のような、ちょっと“おバカ”なものやホラー映画系の企画が得意です。他にフィギュアと組み合わせて遊べるものが得意な社員もいれば、時代を汲み取るのがうまい社員もいる。僕と違う方向性で思考がぶっ飛んだ人ばかりなんです(笑)。さまざまな企画案が出ますが、基本ルールとしてすべて、安全性、コンプライアンスなどを考慮した企画を大前提で考えます。そんな企画が毎回20~30×2日間、提案されます」(羽場さん)

 『のたうつカナブン』などの話題作を世に送り出した羽場さんだが、それ以上に“世に送り出せなかった”作品も多いという。

「タピオカが集まって人間の姿になっている『タピ岡くん』は、造形も気持ち悪くボツに。その企画を出した2年後にタピオカブームが来たので、時代を先取りしすぎました(笑)。また、新婚旅行でメキシコへ行った時に『マヤ文明』にハマりまして。アルファベットに対応している『マヤ文字』のネームプレートを作ったんです。企画が通って、いよいよ商品化という段階で、受注が取れず日の目を見ることはありませんでした(笑)」(羽場さん)

 こうした“ボツ”にも負けず、「今後も楽しいガチャを作っていきたい」と話す羽場さん。最後にカプセルトイの今後について聞いた。

 「今後、カプセルトイは消費税増税などもあり価格帯がさらに上がることもあるかもしれません。また、購入手段の変化としてコインを入れてガチャを回すのではなく現在世の中に浸透している電子決済、またネット環境でも買えるようになってきているのでそうした動きにも対応していかないといけないかもしれません。ただ、やはりガチャは“ガチャ”っと回してナンボですよね。そしてガチャを作るうえで、変わらないのは、“自分も楽しめること”。自分が楽しめないものを出しても意味がありません。自分も喜んでお客さんにも喜んでもらえる──そういった仕事を今後も続けていきたいですね」(羽場さん)

取材・文/衣輪晋一