長崎県南島原市が作成した市のPR動画『突撃!南島原情報局【神回】』がSNSを中心に話題になっている。一地方自治体のPR動画にもかかわらず、主演は人気女優の満島ひかり。満島は同動画で天草四郎、南島原市そうめん作り名人の妻など複数役を演じており、その本格的&コミカルな芝居に「いい意味で満島ひかりの無駄遣いで素晴らしい」などの声がSNSに挙がったほか、多くのメディアでも取り上げられた。また地元の長崎国際テレビでは長崎県限定で3月21日に地上波放送も。これはSNS社会における“町おこし”のエポックメイキングとなるのではと期待を寄せているこの新時代の地方PRについて南島原市役所・観光振興課の梶原和隆さんに話を聞いた。

【動画】満島ひかり「一般人の擬態がうますぎる」…たどたどしくも原城跡の話題になると饒舌に 観光振興課広報の女性演じる

■15年前に合併も周知されず…批判を想定したうえでの“尖った施策“だった

――非常に大きな反響を呼んでいます。この動画が作られた経緯を教えて下さい。

「想像以上の反響に正直、驚いています。2月15日に公開してすぐ全国の情報番組にも取り上げられ、自治体の動画としては再生回数の伸びが異例の速さだと紹介していただいたのもうれしかったですね。動画の企画の内容は公募で行われました。我が市は平成18年3月31日に合併した新しいまちで周知されておらず、決定した事業者との打ち合わせで、『知名度向上のためにはある程度尖ったことをしないといけませんよね』という話になり、同動画が作られることになりました」

――架空の情報バラエティ番組の設定で架空のCMまで作り込んだ体裁に。地方の番組ならではの“あるある”が盛り込まれたよく出来たパロディになっているほか、ギャグなども攻めたものばかりで、自治体が制作したとは思えないほど遊びのある動画になっています。

「監督は映像ディレクターの渋江修平さんに担当していただきました。情報番組も本物らしくするために実際に地元のテレビ局に出演している方々に依頼しています。公募で決まった段階で渋江監督に仕切っていただくことになったので、企画を踏み込んで。基本的には渋江監督のアイデアに頼りきりでした」

――行き過ぎることで「ふざけすぎてる」「バカにしてる」などといった批判がくるのではと、行政として不安はなかったのですか?

「捉え方の問題で批判があるのでは、ということはもちろん想定していました。ですがプロの方々が作られた動画ですのでお任せしたいと思いましたし、メインとなる原城跡や名産のソーメン、ほかアクティビティのイルカウォッチング、世界で数カ所しか見られないリソサムニューム、物産、海産物など自治体が知らせたいものはしっかり押さえてもらっています。さらに言えば、本来、南島原市の住民の方々はおおらかで田舎特有のお祭好き。不安はなかったですね(笑)」

■「この企画が出来るのは満島ひかりしかいない」南島原の地域性を絶妙に表現

――満島ひかりさんが天草四郎、そうめん作りの名人の妻、市役所職員、謎の占い師など複数の役柄に挑んでいます。その卓越した演技力に評価の声が集まっていますが起用理由は?

「以前、監督がドラマ『シリーズ江戸川乱歩短編集』で満島ひかりさんとお仕事をしたことがあり、監督が『この企画が出来るのは満島ひかりしかいない』と推薦されました。実際に満島さんに出演していただくことになった時は『まさか、本当に?』と率直に驚きました(笑)」

――現場での満島さんはいかがでした?

「オンとオフの切り替えがすごい方。満島さんには南島原の方言で演技してもらうシーンも多かったのですが、オフの時には『この方言、この言葉遣いで大丈夫ですよね』とフランクに話しかけてくれるのに、オンになると急に目つきが変わる。監督にも『こうした方がいいのでは』と次々とアイデアを出されており、そのプロ意識に圧倒されました。実は私も市役所に住民票を取りに来た祖父役で出演しているのですが、そこで私はかなり強めの方言で演じたんです。分からないだろうなと思っていたのですが、撮影後、満島さんは『私、鹿児島生まれの沖縄育ちなので九州の方言、なんとなく分かるんです』と私の方言を理解されていたようで(笑)。それも印象的でした」

――業界でも満島さんはそのプロ意識の高さで有名ですから。

「登山女子を演じられていた際、衣装に手袋があったのですが、満島さんは衣装さんに『手袋を切って指が出ていた方が登山女子らしいと思うのですが切っていいですか?』と質問され、ご自身で手袋の指を切っていました」

――SNSにも天草四郎のあまりのハマりぶりに、「大河ドラマで天草四郎をやるべきじゃないか」などの声も。

「本当に格好良かったです。あの扮装で架空CM『南島原五番勝負』で数々のダンスも披露していただいたのですが、監督は『ダサく踊ってほしい』と注文を受けていたんですよ。実際にダサ目のダンスで我々がやったらものすごく変になるんですけど、なぜか満島さんが踊られるとダサいのに格好良いんですよ。それは一体何だろう? と思いました」

■SNSの活用を見据え、動画発信に注力「反響が数値として可視化できる」

――動画の反響を受けて、実際に何か変化はありましたか?

「SNSで、『そうめんのふるさと納税をしました』というコメントを見た時はうれしかったですね。また市役所にも、『あのそうめんはどこで買えるのか』などの問い合わせが。ただこのコロナ禍で、原城跡の団体観光客、インバウンドはありません。ただ今後皆さまに来ていただくことを考え、原城跡の満島さんが撮影された場所に撮影で使用した旗を設置し、そこで記念撮影が行えるようにしたり、原城跡での撮影で満島さんが着られた天草四郎の衣装を展示するなど考えています」

――なるほど。聖地巡礼を狙っているわけですね。

「まさしくそうで、知名度向上とともに聖地巡礼のお客様を想定しています」

――これだけ動画がバズれば実現しそうです。他にも国際短編映画祭ショートショートフィルムフェスティバル&アジア 2018で、第7回観光映像大賞(観光庁長官賞)を受賞した観光ショートフィルム『夢』やアニメ『巨神と氷華の城』やダンスムービー『マイメンいつメン島原手延そうめん』など、動画制作に力を入れているようですが。

「動画に力を入れているのはSNSの活用を念頭に置いているからです。今はSNS時代。そこは我々としても、どうしても取り込みたいという思いがあります。SNSの活用としては、動画に登場する架空の番組『突撃!南島原情報局』の公式アカウントをTwitterに置いたりもしています」

――SNSや動画でのPRは以前のPRと比べ何が効果的なのでしょう。

「以前は雑誌や地下鉄の広告などでのPRでした。動画の良さは再生回数で観た人数が分かること。地下鉄の広告では何人が見たか分からない。それが可視化されるのが大きな違いだと感じています。あとやはりバズりなどでの反響があること。すでにほかの地方自治体からもどのように作ったのか、問い合わせをいただいています」

――なるほど。まさに新時代の町おこし。エポックメイキングとなりそうですね!

「そうなりたいという想いもありました。コロナ禍が収束すれば、観光客も名産の売上も伸びる要素はあると思って期待しています。今後、またPR動画を作ることがあれば、それもまた攻めた形に。今後も形にとらわれないPRをしていきたいと考えています」

(取材・文/衣輪晋一)