本音で向き合ったからこそ起きた出来事だった。このところ、南海キャンディーズ・山里亮太とオードリー・若林正恭による「たりないふたり」に不穏な空気が流れていた。きっかけは、昨年秋に2週にわたって放送された『たりないふたり2020~春夏秋冬~秋』でのやり取り。コロナ禍ということもあり、当初の予定だった「冬」での漫才が「春」へと延期になり、2人は連絡を取らなくなっていた。最近になって、それぞれのラジオで言及したことから、事態も再び大きく動き出した感があるが、番組を立ち上げ、現在は編成部に所属する安島隆氏は「気づくと、リアクションのツイートをするためにずっとスマホを握りしめてラジオを聞くことになっていました」と緊張に包まれた日々を明かす。

【番組カット】秋では山里のフリップ芸も…またも激しく後悔

■不穏な空気が爆発した「秋」 安島氏が感じていた予兆

 2010年1月から3月に日本テレビで放送され、ライブも行われた『潜在異色』のスピンオフ企画で始まった「たりないふたり」。人見知りで社交性・恋愛・社会性の“たりない”ふたりが、毎回さまざまなテーマを元に各々のたりない部分を暴露しあいながら、最後はそれらの恥部をすべて漫才に落とし込み披露していた。

 14年8月に開催した番組ライブ『たりふた SUMMER JAM '14 ―山里関節祭り―』以来、活動を休止していた2人だったが、19年の山里の結婚を受けて、同年11月に1日限りでライブイベント『さよなら たりないふたり~みなとみらいであいましょう~』を開催。当初予定されていた舞台上での打ち合わせを若林がすっ飛ばし、約80分と20分、2本の即興漫才で会場を爆笑の渦に巻き込んだ。

 新たな歩みを始めるため、昨年から「春夏秋冬」と題して季節ごとの特番を放送。そんな中、昨年秋の放送では「山里が若林より“下”になってしまった関係性から見つめ直さなければならない」とのタイトルで、山里がフリップを披露していくと、若林も反応し、2人の応酬は激しくなっていき、不穏な空気が漂った。その収録に顔を出せなかったという安島氏は「編成の大事な会議をしている時に、スタッフからLINEがバンバン入ってきて『山里さんが大変なことになっています。収録が終わっても楽屋に閉じこもって出てきません』何が起きたんだと驚きました」。とはいえ、長年2人を近くで見続けてきた安島氏は変化を感じる瞬間があったと明かす。

 「『さよならたりないふたり』をやった後に『春夏秋冬』をやっていきましたが、ずっともやもやした感じはあったんですよね。それが秋に顕在化したなという感じなのですが、結果的にあの時に膿(うみ)が出てよかったねってなればいいなと。偉そうに言うわけじゃないですけど、もし僕が現場にいて、2人のやり取りを笑っていたら、その方向でいこうと2人が察して、逆にうまく収まってしまって顕在化していなかったのかもなと。いろんなものが吹き出たことで、山ちゃんにラジオで『結局、若林としか番組やってないじゃないか』と怒られることにもなりました(笑)」

■『たりないふたり』には「ウソはない」 戦友から始まった2人が分かれて歩き出す先にあるものは

 山里の訴えに対して、安島氏はこう説明する。「演者さんと企画は切り離せないものだと思うんですね。たまたま僕の企画で実現したいくつかの番組が若林くんに向いていたっていうだけなんです」。それぞれのラジオで『秋』で起こったことが語られる中、今月3日深夜放送のTBSラジオ『水曜JUNK 山里亮太の不毛な議論』(毎週水曜 深1:00)に、若林が電撃乱入し、事態が収束へと向かった。

 「『たりないふたり』って、基本ウソはないんですよ。演者もスタッフも、おじさん達が良くも悪くも本気でやっているんです。秋のことも相まって、山ちゃんが『スタッフ全体が自分のケアをしてない』と話した時に、これはちょっとどえらいな、正直こちらも思うところあるよと腹に一物抱えていたら(笑)、若林くんの乱入という形で、大団円というか、これでよかったねってなったはずなんですが…。前回2人は事前にまったく会うことなく本番ぶっつけで漫才をやったんですが、今回の春ライブはちゃんと打ち合わせして漫才を作ろうと思っています。まだ、打ち合わせ自体始まっていないので、その時にどういう顔をして2人が会議室に入ってくるか見ものですね(笑)。ラジオで山ちゃんは『スタッフに2人で謝る』って言っていましたけど。会議冒頭でいつも披露するゴシップ話の前に、まずは謝ってほしいですね(笑)」

 その上で、安島氏はこれまでの『たりないふたり』について振り返っていく。「もともとツッコミの言葉が2人とも個性あって面白かったので、日本語の面白さを追求するみたいなライブをしようと思っていたんですけど、3人で会った時に、飲み会が嫌いとか、“たりない”部分で盛り上がったので、そこをコンセプトにしようと決めました。当時は、飲み会は行くのが当然みたいな風潮の中、うまくごまかして逃げよう、みたいなことを笑いにしていく、カウンターで戦っていたんですね。それが、2人ともタレントさんとしてポジションが上がってMCになって、結婚して、たりないをこえて成長していこうっていうのが、この間の『さよならたりないふたり』でした」。

 順調に見えたが、そこから不協和音が生じてしまう。「『さよなら』は2人が成長する決意を披露してくれたんですけど『2020』になったら、成長どころか揉め始めて『さよなら』でのカタルシスはなんだったんだと(笑)。とはいえ、僕らも日々新しい自分、成長した自分に変わろうと誓うけど、たいして変われない。でも長いスパンで見たら変わっていることもある。2人にも10年前とは変わった部分も変わらない部分もあるし、どこまでいってもカッコつけられない、綺麗ごとで終われないおじさんのドキュメントなんですよね。生々しい。でも、僕はそんな2人がとてもカッコいいと思っています」。

 2人を見てきたからこそ、わかることがある。「2人とも、相方がいて、家族がいますけど、そういう方々とはまた異なるところから、10年お互いを見張り続けてきて、本当に毛穴1個も見てしまったんじゃないかなと思うんです。繊細でやさしくて、愛もあって、相手を尊重してきた2人だけど、それにしてもお互いの顔を見過ぎちゃって、これ以上見つかる毛穴ないんじゃないかなと。だから今回で『たりないふたり』は最後なんじゃないかと思います。最初は2人で『たりないもの同士、戦っていこうぜ』と、戦友みたいな形で始まって、同じ道を歩んでいくけど、成長とか時間の経過とか、いろんな経験を積むと、徐々に道は分かれていきますよね。それは当たり前のことですよね。そういう流れで、違う道を歩き始めているのかもしれない。でも、2人が実際どう思っているかわからないですね。今度漫才をやってみたら何かが生まれるかもしれないし」。

 本音を包み隠さずぶつけることは、相手を信頼していることの裏返しでもある。「こんなに生々しい仕事ってなかなかないと思うんですよね。これは仕事なのか(笑)、それをなんと言ったらいいのか…2人と互いに削り合うじゃないですが、だけど削るだけじゃなく、足し合ったり補い合ったりもしながら…。今まで生まれて育ってきて、この歳になったっていう経験でしか話せないというか。うまく言えないですね。簡単な言葉で表現すると、全人格をかけないと難しいというか。そういう風にして、制作者として演者さんと向き合えるのはかけがえのないことですし、それがみなさんに伝わっていけばいいなと」。きたる5月に迎える予定のライブで、どんな言葉の応酬が行われるか、受け止める側も熱量も上がってきそうだ。