日本テレビでは、25日からの1週間で「真夜中のお笑いたち」として4つの新しいお笑い特番を放送。気鋭の芸人たちとスタッフ陣がタッグを組んで、漫才・スタジオコント・ロケの3つのジャンルに特化した企画が行われるが、今回の特番の仕掛け人は、南海キャンディーズ・山里亮太とオードリー・若林正恭による『たりないふたり』の演出などを手がけ、現在は同局の編成部に所属している安島隆氏だ。「深夜ならではの熱量のある番組を届けたい」と語る安島氏に、今回の特番を立ち上げた経緯、お笑い番組への思いを聞いた。

【番組カット】錦鯉の長谷川雅紀とトム・ブラウン・布川ひろきが漫才

■深夜だからこそ生まれる熱気 サンパチマイクが引き出す芸人の“本気”

 特番のいきさつについて、安島氏は「日本テレビのゴールデンでは『有吉の壁』といったお笑い番組が人気ですが、深夜に、よりコアでより深く視聴者のみなさまに刺さるような番組もできないかなと思っていて。自分が編成という仕事をすることになりましたので、これを機にやってしまおうということで立ち上げることにしました」と説明。自分自身が、深夜のバラエティー番組がきっかけで大きく心を揺さぶられた経験があるからこそ、今回の特番を行うことを決めた。

 「ゴールデンで、幅広いみなさんに喜んでいただく番組は王道としてあるんですけど、深い時間帯でより生々しくて熱があるコンテンツを楽しんでいただけたらという気持ちがありました。例えば、僕が深夜にやっていた『たりないふたり』を見て、Creepy Nutsさんが『たりないふたり』という楽曲を作ってくれたり、自分自身も高校生の時に『ガキの使い』を深夜にリアルタイムでコソコソ見て、翌日学校で話して…みたいに熱量のある体験をすることがあって、それは深夜ならではの熱量だなと感じていたということもあります」

 第1弾となる25日深夜放送の『黄色いサンパチ』(深1:35)は、実は意外な関係を持つ2人が思い出の地でオリジナル漫才を披露する、新ネタ見せバラエティー。チョコプラ・長田庄平とパンサー・向井がなつかしの場所で、ハナコ岡部は旧知の漫才師・宮下聡と本格漫才を、錦鯉の長谷川雅紀とトム・ブラウン・布川ひろきという北海道民の2人は最凶漫才を披露する。この番組のベースとなっているのは、山里&若林による『たりないふたり』だという。

「山里さんと若林さんがサンパチマイクを前にするとすごいオーラが生まれて…もちろん普段からオーラある2人ですが(笑)そこに互いの人生とか正義とか背負っているものとか、いろんなものがぶつかってぐちゃぐちゃになって、結果素晴らしい作品が生まれるのを目の当たりにしてきました。そういう痺れるような経験を若いスタッフにもしてほしかったし、視聴者のみなさんにお見せしたかった。
今回の特番でも、もちろん本来のコンビ・トリオネタはすごく面白い出演者の皆さんですが、いつもと違う相手と文字通りの黄色いサンパチマイクを前にしたら、新たな熱や本気感が生まれています。すごくいい番組になっています」

■草薙&後藤の飾らないロケ番組 日テレ流スタジオコント確立への思いを込めた『コントミチ』

 31日深夜放送の『ハネノバス』(深1:35)では、宮下草薙の草薙航基&四千頭身・後藤拓実によるロケ企画。2人のキャラクターが生かされた番組に仕上がっている。「草薙さんと後藤さん、親しいスタッフの2人、計4人のみでロケをしているんです。なので、後藤さんと草薙さんの、この番組でしか見せない素の雰囲気が引き出せているんじゃないかと思います」。そして、2夜連続でコントを題材とした『コントミチ』が放送される。

 安島氏は「ちょっと照れましたが、直球で考えました。藤子不二雄Aさんの『まんが道』をオマージュしたタイトルになっています。コントという道を、未知なものに向かって進んでいこうという思いを込めてつけました」と由来を説明。自身も2005年に、ドランクドラゴン・おぎやはぎ・バナナマン・片桐仁・アンガールズ・南海キャンディーズといったそうそうたる芸人に、新垣結衣も出演していたコント番組『落下女』を手がけていた経験があったことから、スタジオコントへの熱い思いがあった。

 「とてつもない方たちと向き合ってコントを作らせてもらった経験が、間違いなく今の自分の背骨になっていますが、日本テレビは、フジテレビさんなどと比べると、スタジオコントが長く続いていなくて。そこで、1本続いてく道のような、たとえスタッフが変わっても継承されて、愛されていくような番組になればという思いも込めて、このタイトルにしました」

 1夜目は、3月31日深夜放送のマヂカルラブリー・空気階段・ニッポンの社長・シソンヌが出演する『笑う心臓』(深0:59)。『有吉の壁』スタッフがズラリと並び、サスペンス・緊張・恋愛のドキドキなど、極限状態に置かれた人々の心臓音で紡ぐ、新しいオムニバスコント番組となっている。「収録を覗きに行ったんですが、マヂカルラブリーさんの村上さんが、コントのセッティング合間に、ふと『中学の時に、こんな番組をやりたかったけど、今その場に立っているんだな』とおっしゃっていたんですね。今大人気で、あらゆる番組に出演されているマヂカルラブリーさんにとっても、夢みたいな番組が作れた。そんな言葉を聞くと、本当にやってよかったなと思います」。

 2夜目は、4月1日深夜に放送のチョコレートプラネット・ニューヨーク・フワちゃんなどが出演する『ヤバいハートマーク』(深0:59)。『ウチのガヤがすみません!』スタッフ陣が制作に入り、巷にはびこる“ヤバい”恋愛模様を個性あふれるキャラクターたちが笑いに変える“新恋愛リアリティーコント”となっている。「チョコプラさんといえば、いろんなコント番組に出られている職人さんというイメージですが、長田さんが、今回、東京吉本の後輩のニューヨークさんとコント番組で向き合えるのがすごくありがたいとおっしゃってくれて。芸人さんは、コント番組に特別ないろんな思いを持ってきてくださっているんだと、改めて感じることができました」。

■若き日のラーメンズと作ったVTR テレビ局の命題は「どれくらいファンになっていただくか」

 現在は、編成として番組の枠を作る立場である安島氏だが、制作時代には編成の粋な計らいがきっかけとなり、大きく運命が変わる。「20代の頃に、編成の金田さんという方が『笑いの巣』という企画を作ってくださったんです。当時はNHKさんの『オンエアバトル』がブームになったくらいで、お笑いのエアポケットみたいな時期だったのですが、金田さんが若手ディレクター10人に、気に入った芸人と一緒に毎週映像作品を作って、ネットにあげて評価をしてもらうという企画を立ち上げてくれました。今ほどインターネットがメジャーな時代ではなかったのですが、そういったチャンスをもらえることがとてもうれしかったですね」。

 安島氏がまず向かったのが、渋谷にあったシアターDだった。「支配人の方とお話をしていたら『ラーメンズがオススメだよ』と教えてくれて、当時僕は知らなかったんです。ライブでネタを見ても、正直自分の理解力を超えていてよくわからなかった。だけど、わからなすぎてワクワクしたんですね。それに、エンディングでほかの芸人さんと並んでトークをしている時に、お2人の存在感が飛び抜けていた。そこで、ライブが終わった後に楽屋にお邪魔して『一緒にやらせてください』とお願いして、VTRを作ることになりました」。それがきっかけとなり、バナナマン・おぎやはぎ・ラーメンズによるユニットライブ『君の席』が行われ、山里やアンガールズの田中卓志も加わって、前述の『落下女』が放送される。そこから派生して、『たりないふたり』が生まれるきっかけとなった『潜在異色』が立ち上がる。

 ひとつのチャンスがきっかけとなり、やがて大きなうねりとなり、新しい番組が生まれて、定着していくことで芸人との長きにわたる交流ができる…こうした経験がテレビマンとしての貴重な財産になり、何より視聴者に愛される番組へとつながる。「芸人さん同士の結びつき、願わくばそこに制作者が入ってくれて、その人がいるからこそ、芸人さんが輝くという風になればうれしいですね。制作者にとってもすごく勉強になりますし、芸人さんにとってもプラスになるものを視聴者の方が発見してくれて『たりないふたり』のように、みなさんが感情移入してくれて、うねりがうまれたらいいなと、今回の特番にも期待をしています」。

 視聴率・配信での数字など、さまざまな指標も生まれてきているが、安島氏は番組にとって必要なことは何であると考えているのだろうか。「どれくらいファンになっていただくかっていうのが、テレビ局としてすごく大事だと思っていて。普段テレビをオフにしている方にオンにしてもらえることが、テレビ全体の課題だと考えています。テレビでしか見られないものをいくつ作るかっていうのが編成としてもすごく大事で、その大きなジャンルのひとつがお笑いで、演者さんとスタッフの熱量がどこまで広がっていくかが大切だと思っています」。

 番組をきっかけとして「もっと見たい」という気持ちになり、さらに深いコンテンツを「Hulu」で紹介していくという流れにつながればと期待を寄せる。「地上波の番組がひとつのドアだとすると、それを開けていただくと、その奥にもっと深くて、面白いものが詰まっている部屋が待っているというイメージを持っていただけるとうれしいですね」。こうした話を踏まえると、今回の『真夜中のお笑いたち』が理想とするもののひとつに挙げられるのは、山里と若林による『たりないふたり』だろう。そんな『たりないふたり』に最近漂っている不穏な空気について、安島氏はどのように感じているか。次回のインタビューでは、安島氏の視点から見た『たりないふたり』の現状を紹介したい。