俳優の吉沢亮が渋沢栄一役で主演を務める大河ドラマ『青天を衝け』(NHK 毎週日曜 後8:00 総合ほか)。そのオープニングのタイトルバックでは、幕末の動乱の様子から明治に入り、ミュージカルで栄一の人生を表現されている部分もあるが、その狙いは何だったのか。タイトルバックのディレクター・柿本ケンサク氏と、本作の演出・松木健祐氏に話を聞いた。

【画像】鳥の視点で描かれる序盤のタイトルバック

 “渋沢栄一”の魅力、本作にかけたメッセージ性について柿本氏は「幕末から明治に移り変わり、これまでの文化や生活が一変して、多くの人がプライドを捨てて必死になって、涙も流しながら欧米諸国にくらいついた時代だと感じています。型にはまらず、常に挑戦し続けた渋沢の人生は、現代社会に生きる自分たちへの気付きや勇気をくれる。その熱を表現したかった」と語る。

 松木氏は「道徳と経済を両立させる『論語と算盤』が名著としてありますが、渋沢の人生をひも解いていくと、矛盾にぶちあたるんです。若いときは農民から志士へ。倒幕を目指しながら一橋家の家臣になる。外国人を殺すことを企てながら率先してパリに行く。物語にしていくときに、おもしろいなと思う反面、悩んで作っています(笑)。でも、それこそが渋沢の魅力だと思います。これからもあっち行ったりこっち行ったりしますが、最大限のアウトプットができるのが醍醐味だと感じますね」と生き方や思想にとらわれず、まさに“多様性”をもった人物と分析する。

 こうした渋沢の人物像をもとに作られたのが、タイトルバックだ。ポスタービジュアルは、凛々しく力強い吉沢の眼光に目を奪われるが「タイトルバックはポスタービジュアルとコンセプトが対になるようにしています」と柿本氏は言う。「ジェットコースターのような人生の一瞬を切り取ったのがポスターで、一筆書きで表したのがタイトルバックになっています」とそれぞれに込められた意図を語る。

 序盤は鳥の目線から、若々しい侍姿の栄一や江戸の暮らしの一部が映し出されているが、この“鳥の視点”について柿本氏は「生命の始まりをスタートにしつつ、佐藤直紀さんの音楽を聞いたときに直感的に浮かんできました。清らかな鳥のさえずりのような音から始まり、美しくダイナミックなメロディに合わせて物語が広がっていくことを意識しました」と説明。

 中盤は船に乗り、世界に飛び出していくような栄一の姿が壮大な音楽とともに紡がれていく。そして、終盤では明治の世に時代が移り変わり、栄一を人々が取り囲んで新時代の幕開けをミュージカルで表現している。

 この表現を採用した理由を、柿本氏は「ドラマと同じことをしても意味がないという話がありました。良い意味で視聴者の方々を裏切りたかった。渋沢は、これと決めたことに生きるのではなく、裏切りを持って生きていた。人生を踊るように生きた人間だと考えています。高い壁を目の前にして、壁があると笑い、踊るように生きた。大河ドラマでミュージカルという“意外性”が渋沢の人生を表すことにしっくりきました」と明かす。

 栄一の人生そのものが凝縮されたおよそ3分間のタイトルバック。制作者たちの狙いや思いを汲みながら見ることで、本作をより深く味わえるだろう。