もしも車いすに乗ることが当たり前の世界だったら? そんな発想でパリコレのランウェイを目指すブランドがある。年齢も性別も障害の有無も超えて、すべての人がアクセスできるファッションを提案するブランド『bottom’all(ボトモール)』を提案するのは、"福祉業界のオシャレ番長"こと平林景さん。誰にとっても「介護」や「福祉」が自分ごとになる超高齢社会において、「『福祉×オシャレ』で世の中を変える」をテーマに掲げて活動する平林さんの思いを聞いた。

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■きっかけはオシャレを封印した車いすユーザー、「障害は人ではなく環境のほうに存在するもの」

 スラリとした長身でモードにスカートを履きこなす男性の写真が、SNSで話題を呼んでいる。男性の名前は平林景さん。一般社団法人『日本障がい者ファッション協会』(JPFA)代表理事を務める“福祉業界のオシャレ番長”だ。

 「実はこのボトムス、座ったときが一番オシャレに見えるデザインになっているんですよ」と、車いすに座る。アシンメトリーなデザインは立位でもスタイリッシュだが、なるほど、座位になるとスカートの前方が少し上がって、絶妙な丈とシルエットになる。巻きスカート型になっており、座ったままでも簡単に着脱ができるのもこだわりだ。

 bottom’all(ボトモール)と名付けたこのスカートを発想したきっかけは、ある車いすユーザーとの会話だった。

 「本来はとてもオシャレが好きな方だったんです。だけど車いすになって、『もうオシャレしたい気持ちは封印した』とおっしゃる。『自分の"オシャレしたい欲求"を満たすために、試着室に入ったり着脱をしたり、誰かの手を煩わせるのが心苦しくなったから』と。そのときに気づいたんです。障害というのは人ではなくて、環境のほうに存在するものなんじゃないかと。だったらその環境をひっくり返してしまえばいいのでは? と考えたのが始まりです」

 一般的に、ファッションは立位を前提としてデザインされる。これも1つの"環境"だ。その固定観念を取り払い、座位からデザインを組み立てたボトムスからブランド『bottom’all』は始まった。

 その後、座位でもシワになりにくいショート丈のジャケットや、腕に麻痺がある人でも着脱しやすいシャツなど、アイテムは続々と増えている。とはいえ、『bottom’all』は「障害者のためのファッションブランド」ではない。

 「障害があってもなくても、年齢も性別も関係なく『すべての人がアクセスできる機能的かつオシャレなファッション』を提案するのがコンセプトです。道だって、段差がないほうが歩きやすいですよね。車いすユーザーや高齢者だけでなく、誰にとっても。それと同じ発想です。めっちゃ足が短い僕でもスラッと見えるのは、細部までこだわったこのデザインのおかげなんですよ(笑)」

 平林さんのSNSには、『bottom’all』のアイテムを着用した写真がズラリと並ぶ。「スカートは“ない”と思い込んでいたけど、このデザインなら履いてみたい」という男性からの声もあるなど、反応はとてもポジティブだ。

 2019年11月に一般社団法人『日本障がい者ファッション協会』を設立して以降、日常的にスカートを着用しているという平林さん。ごくたまにパンツを履くと、「今日はどうしたの?」と周囲に驚かれるほどだと笑う。

 「僕が人生のテーマにしているのは、『福祉×オシャレで世の中を変える』こと。そんな人間が『男性がスカートを?』という身近にある偏見を乗り越えられなくてどうする!という思いから、日常的にスカートを履くようになりました。スカートは、世の中の偏見に切り込むための戦闘服なんです」

 しかし、一般的には「スカート」という言葉に抵抗感がある男性もいる。そんな心のハードルを取り払うために付けたのが、bottom’all(ボトム+オール)という名称だ。もちろん「すべての人がアクセスできるファッション」であれば、スカート型でなくてもいい。今後はパンツ型のbottom’allの開発も予定しているという。

 現在は、『日本障がい者ファッション協会』の拠点がある大阪府茨木市を中心に、高校や大学、服飾専門学校などと協力して「それぞれが考えるbottom’all」を開発するプロジェクトが進行している。

 「制服が男子/女子と機械的に分けられてしまうことに悩む子はたくさんいますが、bottom’allの概念をもってすれば、その問題にも切り込んでいけるのではないかと思うんですよ」

■福祉を「3K」から「3I」に変えたい、パリコレへの挑戦もその1つ

 元美容師という経歴から、オシャレが人の心にもたらすポジティブな効果を多く目にしてきたという平林さん。アトピー性皮膚炎のため美容師の道を断念してからは、東京や大阪の美容専門学校で教鞭を執っていたが、身近な人に発達障害があることを知り、福祉の世界に入る。

 2017年には発達障害の子どものための施設を設立。「福祉×オシャレで世の中を変える」という平林さんの人生のテーマの通り、明るく華やかで、施設に通う当事者たちがワクワクするだけでなく、働く人たちも誇りが持てる運営に取り組む。経済産業省が全国の中小企業を対象に"ホワイト企業"の上位500社を認定する、『健康経営優良法人ブライト500』にも選ばれた。

 「とかく3K(きつい、汚い、危険)なイメージがある介護・福祉の業界を、3I=『イケてる』『生きがいがある』『いい仕事』に構築し直したいんです。福祉の新たな可能性を若い世代に提示し、未来に継承していくことは福祉業界に携わる僕たち大人の責任。オシャレにはその力があるんです」

 『bottom’all』のパリコレへの挑戦もその1つ。「もしも車いすに乗ることが当たり前の世界だったら?」という発想から生み出された斬新なファッションで、車いすモデルたちがランウェイを闊歩するステージを準備している。

 グッチがダウン症のモデルを起用したり、トミー・ヒルフィガーが障害者ニーズに対応したコレクションを発表したりと、ファッション界は変わりつつある。歴史あるパリコレだが、これまで車いすモデルがランウェイを歩いたことはないだけに、『bottom’all』が放つインパクトは大きいはずだ。

 「世界では、モデルやシンガー、コスプレイヤーなど障害のあるポップスターが続々と活躍しています。もはや障害はタブーでもマイナスでもない、その人だけの武器になり得るんです。障害の有無に限らず、誰しもできること/できないことはあるけれど、すべての人が『できること』を生かせる社会になったら──。未来には『障害』とか『福祉』なんて言葉すらなくなるかもしれないですよね」

(文:児玉澄子)